ファッション

1500万枚を売り上げた「スロギー」無縫製ブラ開発者の河野智美 ランジェリー業界の開拓者vol.2

 新型コロナウイルスの感染拡大は、従来の商品やサービスの在り方に変化をもたらしている。対面のフィッティングを重視してきた下着業界にも影響を及ぼしているのは言うまでもない。ソーシャルディスタンスが重要視される中、接客やサービスにも変化が求められている。この連載では、コロナ禍に先んじて、既成概念に捉われない新領域の商品やサービスを生み出してきた下着業界の開拓者を紹介する。

 第2回に登場するのは、トリンプ・インターナショナル・ジャパン(TRIUMPH INTERNATIONAL JAPAN)の河野智美スロギーブランドヘッドオブクリエイティブデザインだ。2013年に接着技術による無縫製のブラジャー“スロギー ゼロ フィール(SLOGGI ZERO FEEL以下、ゼロ フィール)”を開発し、コンフォートブラの先駆けに。18年には世界41カ国でも同商品の販売を開始し、日本を含む世界でのシリーズ累計販売枚数(トリンプによる13年3月~20年12月末、42カ国の累計販売枚数)は1500万枚を記録し、ヨーロッパでも日本発の革新的な下着として高く評価されている。

――「スロギー ゼロ フィール(以下、ゼロ フィール)」誕生の経緯は?

河野智美スロギーブランドヘッドオブクリエイティブデザイン(以下、河野):「スロギー」は1979年に快適なショーツブランドとしてトリンプ誕生の地であるドイツで誕生し、86年に日本に上陸した。08年に伸縮性に優れた生地を使い、接着技術による無縫製で作ったショーツを日本独自の企画として発売。これが“ゼロ フィール”シリーズのデビューでこの技術をブラジャーに応用するために研究を重ね、13年に接着面も伸びる特殊な製法によってハーフトップブラが完成した。ちょうどノンワイヤーブラの人気が高まりつつある時期で、まるで着けていないような快適さが支持され、国内ではシリーズ累計販売枚数850万枚を突破。同年の9〜10月には1000万枚達成も見込めるようになった。日本の公式オンラインショップ全体の20年7〜12月売り上げの前年同期比比は金額で289%増、枚数で同618%増を記録。コロナ禍でノンワイヤーのリラックスタイプのブラの購入が増えたことに加え、日本独自企画のマスクがヒットしたことが大きい。「スロギー」ブランドとしては他にも、ワンサイズであらゆる体型をカバーする“ゴー オールラウンド”や、新開発の特殊素材で驚く軽さと通気性を実現させた“オキシジン インフィニット”などの商品、スタイリッシュなデザインの“エス バイ スロギー”などを展開している。

――ヨーロッパを中心に世界42カ国で販売されているが、日本企画の“ゼロ フィール”の受け止められ方は?

河野:過去にはなく非常に革新的な商品として受けとめられている。ヨーロッパでは、18年春に販売を開始したが、すでにヨーロッパの「スロギー」ショップでは全体の売り上げの約3分の1を“ゼロ フィール”が占めている。ブランド誕生40年を超える「スロギー」の歴史の中で、これほど短期間で売り上げを伸ばした商品は初めてで評価が高い。

“スロギー ゼロ フィール”は下着業界のスニーカー

――ヨーロッパで受け入れられると予測できたか?

河野:日本で国内向けに開発した“スロギー ゼロフィール”を海外で販売すると聞いた時は、正直不安だった。日本人は肌もデリケートで肌触りや品質に対して高い基準を求める国民性だ。細部に至るまでこだわって開発したのはもちろん、日本では発売後もさらに良くしていく改善の文化があり、それを重ねて良い物を作っているという自負はあった。一方で、ヨーロッパではそこまでのディテールが求められないと思っていたし、ランジェリーに対してはセクシーさを求める文化があるため、快適性を追求した“ゼロ フィール”のような商品が受け入れられるか心配だった。しかし、実際には、無縫製でありながら、生地が薄くて伸びが良く、生地端がほつれずめくれ上がらないといった品質の高さが評価されて革新的な商品と認められた。先日のグローバルミーティングでは、ヨーロッパのスタッフから「“ゼロ フィール”を嫌いな人はいない」という発言もあった。本国の代表からは、「“ゼロフィール”は下着業界のスニーカーだ。行きたい所へどこまでも歩いていけるポジティブなエネルギーをもたらしてくれる。これをみんなで伝えていこう」と言われた。

――グローバルでの河野さんの役割は?

河野:ヨーロッパとアジアそれぞれのヘッド・オブ・クリエイティブデザインとともに、年5〜6回スイスの本社に集まり、デザインや素材、色、柄を決める会議を行う。売り上げ高はヨーロッパが大きく、本社もヨーロッパにあるため、どうしてもヨーロッパ寄りのデザイン色になりやすいが、日本の代表として、しっかりと日本の市場と需要を伝えるという役割を担っている。ヨーロッパでは私のことを“ゼロ フィール マザー”と呼んでくれてリスペクトしてくれ、意見を大切にしてくれる。”ゼロ フィール“の開発者ではなく、これから先どう育てて行きたいかという意見も求められる。ただ、昨年はコロナ禍で一度もそのメンバーと顔を合わせることなく全てリモートで会議などを行った。

――無縫製のコンフォートブラが多くある中における“ゼロ フィール”の優位性は?

河野:安価な商品もたくさん出ているが、それらを使った多くのお客さまに、「やっぱり違う」と戻ってもらっている。生地や接着技術のオリジナリティーは“ゼロ フィール”を超えるものはまだないと自負している。ナイロンもポリウレタンも細い糸を使ったハイゲージの丸編みで、編み立てた後の加工も一手間かけている。接着剤も生地に合わせてベストなものをブレンドするなど、一つ一つの小さな積み重ねが違いを生み、優しい肌触りと着心地となり選ばれるのだと思う。

――今後の課題とコンフォートブラに求められることとは?

河野:コンフォートブラの市場は今後ますます広がり、快適なだけでなく、バストがきれいに見える、服のように一枚で過ごせるなど、快適である以上の要素が求められるだろう。それを形にするのが今の一番の課題だ。また、サステナブルな素材を採用するなど、時代に合った物作りが不可欠だ。サスティナブルであることはとても重要で、今後さらにその方向に加速するのは間違いないが、風合いがかたくてはお客さまに納得してもらえない。サスティナブルな素材を使って、今の柔らかな風合いと同じレベルを迅速に作りあげるかがもう一つの課題だ。難しいことだが、素材のサプライヤーも含めて同じ方向を見据えてチャレンジしているので、遠くない未来に実現すると思っている。

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