REPORT
「トム」流、日本昔話 パッチワークで描く雅なジャポニスム
コレクションだけでなく、趣向を凝らした演出も見所になっている「トム ブラウン ニューヨーク」。今回の舞台に選んだのは日本。会場中央にはふすまで仕切られた部屋があり、その周りを囲んだのはなんと、振袖風スリーブのコートを着た案山子(かかし)たち。彼らが着ていた絹織物の振袖風コートには、スパンコールで富士山を一面にのせたり、菊や扇子といった和柄をコラージュしたり。すると、部屋のふすまが開き中から“使いの者”たちが現れた。ロングのテーラードコートに着物襟のインナーコート、タイドアップしたシャツを重ねた、トム・ブラウン流着物スタイルだ。彼らはゆっくりと順番に案山子のコートを脱がせていく。解放されて命を吹き返したモデルたちは皆、平安の日本を模した和柄がパッチワークされたテーラード姿だった。
富士山や桜、藤の花、鯉、城、貴族たち……。雅な柄は、自然を愛でる日本絵画が中心だ。バルカラーコートからジャケット、シャツ、タイ、8分丈のボトムスまでまたがって描かれ、すべてのアイテムを正しく合わせないと絵画は完成しない。グレートーンを基調に、シアサッカーや濃色のスーツ地といった異なる生地をパッチワークしたことによって、立体的な模様を生み出している。ぽくぽくと音をならす雪駄と足袋を合わせ、静かにゆっくりと部屋へ向かう彼らの様子は、まるでかぐや姫が月に帰ってしまうようなノスタルジーさえ漂わせた。人の一生を追うことにより「死」を意識させた前シーズンに代わり、今季は自然のはかなさや郷愁の念を抱かせる演出。そこに憂いや皮肉はなく、共感を誘うものだった。