エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES、以下ELC)はカナダ発の化粧品メーカー、デシエム(DECIEM)を買収する。ELCはすでに2017年に同社の株式29%を取得しているが、今回さらに10億ドル(約1050億円)を支払って株式76%を所有することになり、今後3年間で残りの株式を買い取る予定だ。企業価値評価額は22億ドル(約2310億円)となり、同社にとって(企業価値評価額ベースでは)過去最大の買収となる。ELCは2019年にもともと株式33.3%を所有していた韓国のコスメブランド「ドクタージャルト(DR. JART+)」を擁するハブ&ビー(HAVE & BE)の残りの株式を11億ドル(約1155億円)で買収し(企業価値評価額は17億ドル、約1785億円)、16年にロサンゼルス発のメイクアップブランド「トゥー フェイスド(TOO FACED)」を14億5000万ドル(約1522億円)で買収した。
デシエムは13年にブランドン・トゥルアックス(Brandon Truaxe)が創業。“アブノーマル(普通ではない)・ビューティ・カンパニー”と掲げ、ユニークなコンセプトのビューティブランドを複数手掛けてきた。中でも人気なのが「ジ オーディナリー(THE ORDINARY)」だ。従来のビューティブランドとは異なり広告費やパッケージになるべくコストをかけず、中身と透明性にフォーカスした手頃な製品を特徴とする。また原料名をそのまま製品名に入れ、シンプルな原料構成にこだわり、成分に詳しい美容オタクの間で話題になった。人気製品は“ナイアシンアミド+ジンク1%”(5.90ドル、約620円)や真っ赤な液のピーリング美容液“AHA 30%+BHA 2%ピーリングソリューション”(7.20ドル、約750円)などで、SNSでも頻繁に口コミやレビューが投稿されている。
元々はオンラインのみのD2Cブランドだったが、その評判は美容インフルエンサーや美容オタクの間で一気に広まり、17年に初の路面店をカナダ・トロントに開店。その後アメリカやイギリス、韓国、オーストラリア、中国にも店舗を続々とオープンした。ウルタ(ULTA)やセフォラ(SEPHORA)のECにも出店し、20年の売り上げは前年の倍の4億6000万ドル(約483億円)を記録するなど、今もなお人気上昇中だ。21年はウルタやセフォラに出店し続け、ヨーロッパにもダグラス(DOUGLAS)やセフォラ経由で進出する。また現在サステナビリティ認証「Bコープ(B CORP)」取得に向けて取り組んでいるほか、カラーコスメのローンチも予定している。なお、創業者のブランドンは複数の騒動の後退職し、19年に他界している。
デシエムは「ジ オーディナリー」以外にもハンドやボディーケアにフォーカスした「ザ ケミストリー(THE CHEMISTRY)」、ヘアケアブランド「HIF」、皮膚科学に基いた「NIOD」など、全部で6ブランドを展開する。今後は「ジ オーディナリー」以外のブランドにも積極的に投資するという。ニコラ・キルナー(Nicola Kilmer)最高経営責任者(CEO)は「広告を出さないなど、これまで当たり前とされてきたビューティ業界の習慣にとらわれずに、口コミでここまでブランドを成長させてきた。ELC傘下で流通網を広げつつ、今後も常にユニークなブランドのインキュベーターであり続けたい」と話す。ELCにとってステータスの一つである“10億ドルブランド”も目指すという。
ファブリツィオ・フリーダ(Fabrizio Freda)=ELC社長兼CEOは「デジエムはこれまでにない新しい会社。高機能な製品を展開するオーセンティックなブランドをそろえ、消費者とのエンゲージメント率やも仕方も他社に比べて高くユニーク。デジタルファースト、コンシューマーファーストなアプローチが成功を導いた」と同社を評価する。
なお、キルナーCEO、プルヴィ・カカ(Prudvi Kaka)=チーフ・サイエンス・オフィサー、スティーブン・カプラン(Stephen Kaplan)最高執行経営責任者は引き続きそれぞれのポジションを保持する。