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ファッション業界でキャリアを積んだ夫妻がサステナブルなセレクトEC立ち上げ エシカル消費には“ワクワク感”が大事

 2020年2月にオープンしたオンラインセレクトショップ「ボーダーレスクリエーションズ(BORDERLESS CREATIONS)」は、世界中のサステナブルな雑貨やファッションアイテムをそろえている。創業者はファッション業界に長らく身を置いてきたチャン・ユーチンと若井康弘夫妻だ。トレンドを追い、大量生産大量廃棄を繰り返す業界に違和感を抱いていた2人は、子どもの誕生を機に「次世代のためにできること」を探し始め、人々にサステナブルなライフスタイルを提案するECショップを立ち上げた。現在「サステナブルな選択を、知って感じて、想像して、できることから」をコンセプトに、バッグやアクセサリー、インテリア雑貨、日用品など28ブランドを取り扱う。

 3月3〜9日には初のポップアップストアを三越銀座店3階にオープン予定。セレクトショップに留まらず、ワークショップやコンサルティングなどサステナビリティにまつわる発信に取り組む2人に話を聞いた。

WWD:2人の経歴は?

チャン・ユーチン(以下、チャン):私は東京生まれの台湾人です。日本でインターナショナルスクールに通った後、アメリカの大学でコンピューターサイエンスを学びました。卒業後はモルガン・スタンレー(MORGAN STANLEY)のIT部に勤務。ちょうどECの走りの時期でした。2002年には日本上陸3年目のアマゾン(AMAZON)に転職し、リテール部のプロジェクトマネージャーを経験しました。一方で、小さい頃からファッション業界に憧れがあり、思い切って仕事を辞めて、イタリアのフィレンツェにあるファッション専門学校のポリモーダ(POLIMODA)へ留学。そこで運良く「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」でインターンをすることができ、帰国後は「ジル サンダー(JIL SANDER)」でアシスタントMD、その後「ユークス ジャパン(YOOX JAPAN)」の立ち上げに携わってカントリーマネジャーを務め、「ラコステ(LACOSTE)」や「ボンポワン(BONPOINT)」などで経験を積みました。「ボーダーレスクリエーションズ」はこれまでのキャリアの集大成です。

若井康弘(以下、若井):僕には彼女のように華やかな転身ストーリーはありませんが、昔から古着がとても好きで、卒業後は渋谷の洋服屋で働きはじめました。もう少しモノづくりの深い部分を見てみたいと思い、「アー・ペー・セー(A.P.C.)」に転職。代官山店の店長や本社の営業、店舗を統括するマネージャーなどを経験しました。13年ほど働いた後、リムジン・インタナショナルのアパレル部門に転職。別の部署にアメリカの古材を扱う「ギャラップ(GALLUP)」があり、古い納屋などの解体で生まれる古材を再利用して国内のセレクトショップやカフェに販売しているのに興味を持つようになりました。古着もしかり、資源をリユースするサステナブルな感覚は、キャリアを積むうちに自然と身につきましたね。

次世代のために出来ることは何か

WWD:「ボーダーレスクリエーションズ」の構想はどのように始まった?

チャン:彼とは「アー・ペー・セー」で働いていた友人の紹介で知り合いました。付き合っていた頃から、「将来、2人で何かやりたいね」と話していたんです。モノを作ることも選択肢にありましたが、子どもができたときに「この子が大きくなった時に地球ってどうなっているんだろう?私たちは、次世代に何が残せるのだろうか?」と考えるようになり、世界のエシカル商品を取り扱うECサイトの立ち上げを決めました。私には学生の頃から自分でセレクトショップを開くという夢があって、お店の名前は「ボーダーレス」と考えていたんです。

WWD:「ボーダーレスクリエーションズ」のコンセプトは?

チャン:あらゆる垣根を越えて、世界中のクリエイションを発信したいという思いで名付けました。消費者一人一人がクリエイションに触れて、サステナブルな選択を気軽にできる世の中になってほしい。生活に取り入れやすく、使っていてワクワクするようなモノを提案しています。

WWD:商品はどのように買い付けた?

チャン:まずは一般社団法人エシカル協会が主催するエシカル・コンシェルジュ講座を受けました。サステナブルリサーチツアーと題して、5歳の息子を連れてフランス、スウェーデン、イギリス、イタリアの計7都市を3週間かけて回りました。

若井:目星をつけていたショップを回ったり、現地でのサステナブルな取り組みを見聞きしたりして、とても刺激的でした。スウェーデンは認証マークやフェアトレード商品などがかなり浸透していましたし、フィレンツェではアテンドしてくれた人の娘さんが「今、おばあちゃんたちが着ていたようなビンテージアイテムがトレンド」と教えてくれました。ロンドンでは親がペットボトルを持っていると子どもたちに怒られるなんて話も聞きました(笑)。子どもからボトムアップで親世代を教育する仕組みができているんだと感心しましたね。同行した息子もとても感化された様子で、帰国後にコンビニに行くと、店員さんに「フェアトレード商品ありますか?」と聞くようになりました。

チャン:実際にこの旅で取り引きが始まったブランドもあります。店を回りながら「ボーダーレスクリエーションズ」の構想を話すと、皆さんとても協力的で「(取り引きする商品の数は)ミニマムの半分でいいよ」と言ってくださるところもありました。サステナビリティを広めるには連携が不可欠であるという姿勢を学びました。

共感できるストーリーと生活に取り入れたくなるデザインを重視

WWD:現在の売れ筋の商品は?

チャン:掃除や食材を洗う時に使えるホタテパウダーが人気です。テレビで紹介されると、15分ほどで完売。乾燥させた貝を高温で粉末状にした強いアルカリ性の万能パウダーで、洗濯洗剤や歯磨き粉、入浴剤としも使えます。洗濯の乾燥時に使えるドライヤー・ボールもオススメです。洗濯物と一緒に乾燥機に入れると、柔軟剤が必要なく乾燥時間も短縮できます。うちではホタテパウダーと合わせて使っていて、液体洗剤も柔軟剤も使わなくなりました。

若井:カナダのブランド「ウラット(ULAT)」のドライヤー・ボールは、世界で唯一特許を取得しています。原料となる羊毛を刈り取る時には羊が傷付かないように配慮しているので動物愛護の観点からも安心です。

チャン:竹の歯ブラシは今さまざまなブランドから出ていますが、私たちが取り扱う「ハンブルブラッシュ(HUMBLE BRUSH)」はスウェーデンの歯科医が立ち上げました。彼は子どもたちに歯磨きの仕方を教えにアフリカに行ったときに、そもそも子どもたちが歯ブラシを持っていないことに衝撃を受けたそうです。歯ブラシが1本売れるごとに製造コストと同額、もしくは歯ブラシ1本をNGO団体に寄付する仕組みです。

若井:創業者の彼がただ寄付するだけでなく、現地で磨き方を教えているストーリーまで素晴らしいと思いました。取り扱う商品は、手にとって気分が高揚するデザインであることと、その背景やストーリーを重視しています。いろいろな角度から下調べをして、本当にこれを世の中に伝えたいか吟味しています。

チャン:商品の梱包も簡易包装にこだわっています。メーラーバッグ(発送袋)は完全に堆肥化できるもので、商品タグは切り込みを入れてiPhoneスタンドとして再利用できるようにデザインしました。すぐに捨てない意識を持つきっかけになればと思います。

WWD:商品のストーリーを伝える工夫は?

チャン:サイトには商品一つ一つのストーリーや私たちの思いを載せていて、SNSにはブランドのインタビューや商品のハウツー動画もアップしています。地球は深刻な環境問題を抱えていますが、シリアスに語るのではなく「楽しくみんなで生活を変えていきましょう」というメッセージを込めています。

若井:きっと一歩踏み出すと、「次はここを変えてみよう」など新たな悩みが出てくると思います。僕たちは初めの一歩を踏み出すきっかけを提供したい。インスタグラムには息子も登場し、積極的に商品を紹介しています(笑)。

ファッション業界に“まずは一歩踏み出してほしい”

WWD:今のファッション業界について思うことは?

若井:特に日本の大手アパレル企業は、大きいことに取り組もうとするあまりに初動が遅れている印象です。身近なことからでもいいと思うので、まずは一歩踏み出してほしい。小規模のブランドには、環境意識を高く持ってモノづくりしているところも多く見かけるようになりました。ぜひ、連携していきたいと思います。

チャン:ファッション業界にいる友人たちからも「情報を発信してくれてありがとう」という声をもらっています。「うちの会社が展示会を開くんだけど、プラスチックと缶だったらどっちがいい?」とか「ショッパーはどうだろう?」なんて相談も受けるようになり、周りの意識を少しずつ変えられていると実感しています。

WWD:今後の目標や計画は?

チャン:売り上げは毎月伸長しています。テレビでもSDGsが取り上げられるようになり、消費者の意識の変化が反映されているようです。オンラインでのセレクトショップはスタート地点。私たちの想いを発信するため、ポップアップやワークショップなどさまざまなイベントを企画しています。今年は3月に三越銀座店、6月に高島屋玉川店でポップアップを開く予定です。企業と一緒に企画を考えるなどコンサルティングも行いたいと考えています。

若井:現在、サステナブルな商品の購入者は女性が多く、男性への浸透はこれからです。一緒にサステナビリティーを広めていけるメンバーを募り、もっと男性たちにも呼びかけたいです。古着ファッションを楽しんでいる若者には、そこを入り口に環境問題に関心を寄せてほしい。最近は週末、家族でゴミ拾いイベントに参加し、生ごみを堆肥(土の栄養)に変えるコンポスト活動に取り組んでいます。このようなことが普通になって、皆が楽しみながら環境活動に取り組むめればと思います。

■「ボーダーレスクリエーションズ」ポップアップ
日程:3月3〜9日
場所:銀座三越本館3階ルプレイス内
住所:東京都中央区銀座4-6-16

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