「WWDジャパン」2月22日号の付録として、定期購読者向けに発行した「2020年秋冬ビジネスリポート」(単体での販売も実施中)では、全国41店舗の百貨店に20年8~12月の好調ブランドについて聞いたアンケートをまとめている。
その中で紳士服売り場の商況は職場のカジュアル化に加え、コロナ禍でテレワークが推進されたことからビジネスアイテムの売り上げの落ち込みが続いている。一方、ニットを始めとするリラックスできるカジュアルウエアは健闘した。
また富裕層の旺盛な高額品消費も手伝って、コロナ禍でもラグジュアリーブランドの人気は揺るぎない。各店の紳士服売り場が苦戦する中、伊勢丹新宿本店メンズ館のメンズデザイナーズ売り場の20年8~12月の売り上げは前年を維持。今年になってさらに盛り返し、2月は前年同期比20%増で推移している。人気の筆頭は20年8~12月の売り上げが同30%アップした「ディオール(DIOR)」だ。吉岡裕メンズデザイナーズバイヤーによると、「クリエイションだけでなく、アイテムのバランスが非常に良い。幅広いアイテムに人気があるが、カットソーやカジュアル系アウター、スニーカーやレザーグッズの動きが顕著だ」という。また、吉岡バイヤーの一押しが同20%アップした「ジル サンダー(JIL SANDER)」だ。「20-21年秋冬物は、ルーシー&ルーク・メイヤー(Lucie&Luke Meier)のクリエイティブ・ディレクター着任後のベストコレクションだった」と絶賛する。「ランウェイの内容がすごく良かった。ルーシー&ルークが着任して数シーズンが経過した中で、クリエイションのバランスがとても取れていた美しいコレクションで、『ジル サンダー』のこれまでの系譜を受け継ぎながらも自分たちらしいモノ作りが表現され、ブランドの未来を感じた。(コロナ前の)展示会で現物を見て、人気を集めそうだと確信したアイテムがその通りに売れた。ブルゾン、セーター、パンツの売り上げが前年を大きく上回った。私自身は、コートを大いに気に入っている」と熱がこもる。
どんな時期でも心をつかむブランド力はさることながら、売り上げを後押していることとして吉岡バイヤーが大切にしているのは顧客とのコミュニケーション。コロナ禍の外出自粛の中での集客が厳しい今はなおさら重要だ。その1つのツールとして効果を上げているのが、年4回のペースで発行している上顧客向けマガジン「エポック(EPOCH)」。ファッションだけでなく、ミュージシャンや書家、日本酒やワイン、車や飛行機など、ジャンルを問わず一流と思われる人たちと一緒に誌面を企画しており、コロナ前は顧客を招いたパーティーも開いた。次号3月号(3月17日発行予定)では「若い世代にも、もっとラグジュアリーファッションに親しんでほしい」との思いから、モデルの吉井添をフィーチャーするという。先ごろ、店内で「エポック」のアーカイブ写真を展示し、PR動画も撮影した。「これまで個人をフィーチャーする企画はなかったが、21年は人をクローズアップする紙面としたい」と話した。コロナ禍で顧客とのコミュニケーション方法は限りがあるが、「お客さまの喜ぶ顔が見たいという単純な気持ちがつながりを生むのだと思う」とさまざまなプロジェクトを思案中だ。