眼鏡ブランド「トニーセイム(TONYSAME)」が、シャンデリア・アーティストのキムソンへ(Kim Songhe)とコラボレートし、今秋の発表に向けて眼鏡の廃材を利用した“ジャンク・コラージュ”の制作をスタートする。アートとのコラボレーションは眼鏡デザインの可能性を追求する1つの手段として、「トニーセイム」がこれまでも試みてきたことだ。今回は、眼鏡におけるサステナビリティの表現の1つとして挑戦する。
1982年、在日朝鮮人の三世として東京に生まれたキムは、織田ファッション専門学校を卒業後に作家活動を始め、2005年セレクトショップ「ラブレス」に展示したシャンデリア作品が注目を集めたことをきっかけにシャンデリア・デザイナーとして独立。その後、国内だけでなくソウルやサンフランシスコなどの美術館でも作品が飾られるなど幅広く活動している。役割を終えたぬいぐるみやアメリカン・トイなどを使用した彼女の作品は“ジャンク・コラージュ”と評され、各地で注目を集めた。2月5日から22日まで、東京・渋谷パルコのパルコミュージアムトーキョーで行われた作品展「天国」は約2500人が来場し、幅広い年齢層のファンでにぎわった。眼鏡とアートの出会いとは?会場を訪れた「トニーセイム」の細井礼社長とキムに話を聞いた。
WWD:細井社長は、会場に展示されたシャンデリア作品を購入した。
細井礼トニーセイム社長(以下、細井):キムさんとは共通の友人を介して5~6年前に知り合いました。その友人がキムさんの作品の話を熱心にしてくれたので興味を持ちましたが、実際に見た作品はとても素晴らしかった。
WWD:役割を終えたぬいぐるみを使用する手法は、サステナビリティにもつながる。
キムソンへ(以下、キム):この作風はサステナビリティという言葉が注目される以前から続けており、私にとっては普通のことでした。15年以上前、何かの役に立つアートを作りたくて、自宅で眠っていたぬいぐるみを集めてシャンデリアにしたのが始まりです。
WWD:シャンデリアの発想は面白い。
キム:家に飾ると家族にも見てもらえますし、私の中でシャンデリアは一番人が集まる場所にあるというイメージがあります。ぬいぐるみは、誰にとっても身近な存在。古くなったぬいぐるみが、多くの人のために新しい役割を担うことが大事です。
細井:「トニーセイム」は昨年、設立10周年を迎えました。さまざまな人、モノ、コトとのつながり(コネクト)は、「トニーセイム」も大切にしているコンセプトです。眼鏡もサステナビリティやSDGsに対して何かアクションを起こさなければと考えたとき、キムさんの方向性とぴったりだとひらめきました。いろいろな人やアートとつながりながら、これまでとは違う価値を生み出したいと思います。
WWD:秋に向けたコラボレートとは?
細井:不要になった眼鏡や工場で出た廃材を利用した作品をキムさんに手掛けていただきます。キムさんがよく口にする“アップサイクル”の考え方です。眼鏡業界にはまだサステナビリティの考え方が乏しいし、眼鏡におけるサステナビリティといっても誰もぴんとこないと思います。このプロジェクトが、眼鏡業界におけるサステナビリティに対する意識の向上や気づきにつながることを願っています。
キム:ファッションアイテムに関わる作品として、「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」のシューズを使用したことがありますが、眼鏡を材料とするのは初めてです。きらきらして、透明感がある眼鏡から面白い作品が生まれると思います。自分でもわくわくしています。
細井:視力が低下した人が眼鏡を掛けると、同じものでもこれまでと違った見え方をする。眼鏡もアートとなることで、これまで見えなかった世界を発見するきっかけになればと思います。