「SK-II」は昨年10月、ブランド初のポジションとしてグローバル バイス プレジデント 日本事業統括を新設し、P&Gビューティ部門で20年以上のキャリアを持つ荒尾麻由氏が就任した。直近3年はグローバルのブランド体験・リテール体験の改革を進めてきた同氏に、今後について聞いた。
WWD:日本事業を統括する新ポジションができた経緯は?
荒尾麻由プロクター・アンド・ギャンブル・インターナショナル・オペレーションズ SK-II グローバル バイスプレジデント 日本事業統括(以下、荒尾):「日本は『SK-II』の発祥の地であり重要な役割を担う市場です。日本の消費者に愛され続けるブランドであることがグローバルでの成功に大きく寄与するという戦略的観点から新設しました。営業とオペレーションのリーダーがいることに変わりはなく、従来の組織に新ポジションが加わりました。
WWD:託された最大の役割・任務をどう捉えているか?
荒尾:P&Gに入社して21年目になりますが、長年ビューティ部門を歩んできました。キャリアとして一番長いのが「SK-II」になります。ここ数年はお客さま起点のブランド体験・リテール体験を改革する責任者を務めてきたので、その延長で「売るのではなく、役に立つ」という視点に立った愛されるブランド作りが使命です。
WWD:日本の化粧品業界では、スマートストアの取り組みの先駆けとして注目された。
荒尾:リテール体験の改革は、お客さまにとっての悩みや課題が出発点。2018年に「FUTUREX Smart Store by SK-II」をオープンしましたが、当時はお客さま、特に若い世代にとって日本の伝統的な化粧品売り場やカウンターはハードルが高く、「見た目で買うか買わないか判断されているんじゃないか」「座ったら何か買わされるんじゃないか」など、ストレスやプレッシャーを感じているというインサイトがありました。さらに今の時代、消費者はショッピング前に商品のことを調べ、美容部員より知識を持っている人もいたり、かと言って自分の肌のことを分かっていないから何を使ったらいいのかも分からずセルフの店舗では物足りないと思ったりしている方もいたんです。それらの解決策として開発しました。
WWD:スマートストアの今後の展開は?
荒尾:ポップアップストアからスタートし、得た知見を実店舗に導入してきました。初代スマートストアの肌測定器「マジック スキャン」は電話ボックスぐらいのサイズでしたが、改良を重ねて小型化。鏡台の大きさになって、阪急うめだ本店、大丸心斎橋店に設置しています。肌測定器を肌にあてて美容部員が撮影するというプロセスを経ずに肌測定ができます。今はさらに持ち運びやすい「ミニ マジック スキャン」も開発し、イベントなどで試験的に導入しています。コロナ禍の非接触ニーズにも応えるツールなので、多くの人に体験していただきたいです。
WWD:米ラスベガスで開催される世界最大級のIT見本市「CES2019」に出展し話題になった。化粧品メーカーの出展は多くないが、狙いは?
荒尾:「CES」はテクノロジーの企業が最新の技術を発表する場ですが、テクノロジーは使われてこそ。特に消費者が関わるテクノロジーは、化粧品メーカーがそれを使うとどんな体験を生み出せるのか発信することに意味があると考えました。反響はとても大きく、ブースの前には行列ができるほどで、自分の肌について知りたいというニーズの高さを実感。単純に体験が楽しいと感じていただいているのが、大きな学びになりました。
WWD:日本事業統括としての一年目の取り組みは?
荒尾:「SK-II」は常にピープル、パーパス(目的)、ピテラの“3P”を大切にしてきました。これらを軸に、お客さま起点のオペレーション作りをすることは変わりません。“ヒューマンなブランドになる”という目標に向け、お客さまとの絆を築き未来を育むこと。ブランドの信念でありメッセージとして掲げている“Change destiny”の通り、肌の運命を変え、人生を変える勇気を持っていただく手伝いをしたいと思っています。地球の運命にもポジティブに貢献したいです。
WWD:“ヒューマンなブランド”とは?
荒尾:広告なども含めて発信するメッセージ、実店舗での体験、製品体験、ブランドの全ての体験において消費者目線でヒューマンなブランドであらねばと思っています。コロナで生活が一変してソーシャル・ディスタンスが叫ばれる一方、ソーシャル・コネクションも強まりました。社会や環境の意識が高まる中で、コミュニティーや地球環境にどう役立つか、そこにも“ヒューマンさ”を発揮することが求められます。若い世代はパンデミックによって、より一層きちんと信念を持ち行動するブランドを選ぶようになりました。信念に従ったブランド・ビルディングと、リテール体験の改革を実行し続け、ブランドを育てたいと思います。
WWD:コミュニティーや地球環境への貢献に関して具体的施策は?
荒尾:例えば昨年は中国で人工呼吸器を寄付したり、日本では“フェイシャル トリートメント エッセンス”を医療従事者やオリンピックアスリートに寄贈したりしました。そのほか「SK-II」の生産拠点である滋賀工場では、通常は化粧品の製造のみですがマスクの製造も行いました。店頭での空き容器回収やリサイクルガラスの活用、滋賀工場における再生エネルギーの利用や排水への配慮など、製造過程から消費者を巻き込むところまで、小売店ともパートナーシップを結びながら取り組んでいます。
WWD:消費者への発信は?
荒尾:こういう時代だからこそ、一層「#ChangeDestiny 運命を、変えよう」という「SK-II」の信念をお伝えし、日本の女性を取り巻くさまざまなプレッシャーに寄り添い、一歩を踏み出すお手伝いをしたいと考えています。昨年は水泳の池江璃花子選手とパートナーシップを結び、“ありのままの自分”をテーマにメッセージをつづったフォトダイアリーを公開しました。「運命は自分の力で変えられる」という、今求められる希望やポジティブさを発信しました。また卓球の“タカマツ”ペアの高橋礼華選手が現役引退を決めたことを受けて、自身の運命を変える決断をサポートするトリビュートとして、心の絆の強さをたたえる動画を配信しました。世の中は自分ではコントロールできないことが次々起こるから、自分でコントロールできるものにフォーカスする人が増えていると感じます。肌はそれに当てはまり、スキンケアへの関心は衰えることなく、むしろ高まっています。そうしたニーズに応えながら、今後もそのときどきの消費者の心に寄り添ったメッセージを発信したいと思います。