ファッション
連載 コレクション日記

新生「クロエ」と「クレージュ」のデビューや映像美極めた「マメ」 パリコレ対談Vol.1

 2021-22年秋冬シーズンのパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)が3月1〜10日にオンライン上で開催中。ここでは1〜3日に発表された中から厳選した7ブランドをご紹介。過去8年間パリコレやミラノコレを取材してきたベルリン在住の藪野淳ヨーロッパ通信員と、普段「WWDジャパン」のSNSの運用も行っている丸山瑠璃ソーシャルエディターが対談形式でリポートします。

藪野:いよいよパリコレが始まりましたね!と言っても、今回は現地でのリアルショーは一切なし。ということで、僕もベルリンから取材することに。これまでのクチュールや他都市のコレクション発表を見てデジタルでは視聴環境によって体験に大きな差が出ると感じていたので、まず55インチのテレビを買いました(笑)。ただ、これまで8年間ずっとミラノやパリのファッション・ウイークを現地で取材していたので、まだ変な感じです。丸山さんはデジタルでのコレクション取材にもう慣れましたか?

丸山:55インチ!それは服のディテールまでしっかり分かりそうでいいですね。自分は見ながらスクショを撮りたいのでスマホで見ています。重要な場面を撮り逃さないように常に構えているのはリアルと同じですが、確かに緊張感と迫力には欠けますね(笑)。自分はデジタルでの取材にはもう慣れたと思いますが、ショーが一般の人にどれだけ届いているのか疑問に思うことがあります。なのでここではしっかりリポートして各ブランドの見どころや面白さを伝えていきたいと思います。

安定感が出てきた「セシル バンセン」

丸山:「セシル バンセン(CECILIE BAHNSEN)」は今季、全てがオンライン上で起こっている現在のコントラストとして、手で触れることができる素材を追究したそう。いつもは作っているムードボードは作らず、代わりにシルクのキルト、オーガンジー、マトラッセなど「セシル バンセン」の代名詞でもある素材に囲まれて過ごしたのだとか。その成果もあり、得意のワンピースにシルエットとレイヤードの幅が広がりましたね。日本の帯にインスパイアされたというベルトで引き締めたスタイルもありました。

藪野:確立したシグネチャースタイルを軸にアレンジや新たな提案を加えていくというアプローチは変わらずで、安定感が出てきましたね。そこにはシーズントレンドに左右されず、長く着られるものを作りたいという思いがあるようです。今季はドレスに加え、アウターにも注力。「マッキントッシュ(MACKINTOSH)」とのコラボも継続しています。そして、映像は白やグレー、柔らかなイエローなど同系色のルックを着たモデルが4人ずつ登場するシーンを組み合わせたものでしたが、これは売り方にもリンクしているそう。これからは色別にデリバリー時期をずらして販売していくとのことです。

ドーバー支援の若き「ウェインサント」に期待

丸山:ドーバー ストリート マーケット パリ(DOVER STREET MARKET PARIS、以下DSMP)が支援している「ウェインサント(WEINSANTO)」が初めてパリコレに参加。動画の最後に登場したピンクヘアの男性がデザイナーのヴィクトル・ウェインサント(Victor Weinsanto)ですね。“LES COURTISANES(高級娼婦)“と題したコレクションはアバンギャルドでセクシーだけどどこかダークな雰囲気。ベストがくっついた巨大なチュールの首飾りや首元部分が立体的になったミニドレスなど、世界観全開なコレクションピースもあれば、トレンドのピタピタのトップスなどアイテムごとで見ると意外とウエアラブルなアイテムもあったりして、この辺のバランス感はエイドリアン・ジョフィ(Adrian Joffe)=ドーバー ストリート マーケット最高経営責任者(CEO)兼コム デ ギャルソン インターナショナルCEOのアドバイスもあるのかなと思いました。

藪野:先シーズン、DSMPのショールームで見せてもらって気になっていたブランドです。ヴィクトルはもともとバレエやダンスの経験があるそうで、コレクションにストレッチの効いた素材を多用したり、演出にダンスの動きやキャバレーのような世界観を取り入れたりしているのが特徴的。ちょっと舞台衣装感が強いルックも多いですが、ユーモアやエンターテイメント性あふれるショーで知られるジャン ポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)の下で2年間経験を積んだと知って納得です。それにブランド立ち上げから1年足らずでエイドリアンさんの目に留まったというのはスゴい。まだ20代半ばですし、これからの成長に期待したいデザイナーですね。

 それからDSMPといえば、2月末にフォーブール・サントノレ通りのトレーディング ミュージアム コム デ ギャルソン(TRADING MUSEUM COMME DES GARCONS)跡にドーバー ストリート リトル マーケット(DOVER STREET LITTLE MARKET)を開きました。同社が育成する7ブランドを取り扱っていて、この「ウェインサント」も並んでいます。またパリに行けるようになったら、のぞいてみたいお店が一つ増えました。

いつになく“ほっこり”な「マリーン セル」

丸山:「マリーン セル(MARINE SERRE)」はパリコレのサイトではトレーラーを公開し、ブランドの公式サイトでブランドの“真髄(CORE)“について語った音声や新作コレクションをまとった人々の日常を映したムービー、アップサイクルする“Re-Generated(再生)“の過程を映した動画、ルックなど盛り沢山なコンテンツを公開しました。しかも日本語字幕もあり、ファンにはたまらない内容です。

藪野:デジタルになって映像作品でコレクション発表というのも増えたけれど、ナレーションなどがあるものは英語が分からないと楽しめないだろうなと感じていました。なので、こういったローカライズして、より多くのファンに届けるという取り組みは好印象!でも日常を映したムービーは英語字幕だけでしたね。そこまで手が回らなかったのかも(笑)。

丸山:それにしても一体これまでのアポカリプス感はどこへやら、今季はガラッと雰囲気が変わりましたね!マリーン・セルは米「WWD」とのZoomインタビューで「6カ月の自粛期間で、ほとんど誰にも会えず、皆(人との)繋がりを求めていた」と語っていましたが、今季は人と人との繋がりにフォーカスしました。ムービーはガーデニングする夫婦やショッピング帰りのカップル、公園で子どもと遊ぶ家族などの何気ないけど幸福感あふれる日常を撮ったもので、ほっこりしました。

藪野:“人との繋がり“や”何気ない日常の中にある幸せや美しさ“というのは、今シーズンを象徴するキーワードになりそうですね。映像は、ホームビデオ的で本当にほのぼのとしていました。これまで「マリーン セル」ってある意味、敷居が高いというか“武装する“という感じがあったんですが、一気に親近感がわきましたよ。“コア“ということでコレクション自体にそんなに新しさを感じるわけではなかったけど、見せ方でこれだけ印象を変えられるということには感心。そして、使われている素材やそこから実際のアイテムが作られる過程が見られるというのもいいですね。

服も映像も完成度が高い「マメ クロゴウチ」

丸山:「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)」の映像は21年春夏に引き続き奥山由之が監督。鏡の中を覗いて服を見ていると思ったら、次の瞬間鏡ではなく空洞の枠に変わったり、逆もまた然りで空洞の枠にモデルが映っているように見えたり、現実には起こり得ない現象が連続で起きて頭が追いつきませんでした。一体どうやって撮ったのでしょう……!服を見せることが目的のコレクション映像という枠に留まらず、映像作品として完成されていました。

藪野:まさに!引き込まれる映像でしたね。コレクションの出発点は、2021年春夏に引き続き“窓が招き入れる光“。ただ、春夏が昼間に差し込む光だったのに対し、今季は夜の月明かりとそれが生み出す影だそう。春夏の映像は服自体よりも雰囲気重視という印象でしたが、今回は映像としてのクオリティーも高いし、服もきちんと見えるというのは取材する身としては良かったです。コレクションの詳細については、五十君記者が黒河内さんを取材しているので、ぜひこちらの記事をご覧ください!

サステナブル改革を進める新生「クロエ」

丸山:「クロエ(CHLOE)」はガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)のデビューシーズンでした。バトンタッチにふさわしく、「クロエ」の創業者ギャビー・アギョン(Gaby Aghion)の生誕100年となる日に発表でしたね。リリースには“GabyからGabi(ガブリエラ・ハーストの愛称)へ“と記されていました。コレクションはこれまでの「クロエ」のエッセンスにガブリエラらしさも加えつつ、素材を変えることによって20-21年秋冬シーズンに比べて環境負荷を1/4にしたというほど、アップサイクルやオーガニック素材にこだわっています。発表前には編集部にコレクションで使われたファブリックのスワッチが届きました。しかし、コレクションの仕上がりは予想以上に民族感が強かったです。ギャビーがエジプト出身であるからこそのボーホーさと、南アメリカ出身のガブリエラのルーツ、アップサイクルのクラフト感が組み合わさってそうなったのですが、プロポーション含め着こなすのが難しそうです。

藪野:今シーズンの目玉ですね!こちらでコレクションについては詳しく書いていますが、今季は制作期間2カ月ということもあってか、提案の幅は狭め。自身のブランドでもよく提案しているロング〜マキシ丈がほとんどだったのでアジア人にはなかなか着こなしが難しそうですが、この辺りはコレクションのエッセンスを取り入れたコマーシャルピースに期待したいところです。それよりも、就任3カ月足らずでここまで環境に配慮した素材に切り替えたり、社会貢献の取り組みを始めたりということに驚きました。特に内部昇進ではない新しいクリエイティブ・ディレクターは、まずブランド内の理解を深めたり、人間関係を構築したりするところから始めないといけないので、きっと大変だと思うんですよね。でもガブリエラは、リカルド・ベッリーニ(Riccardo Bellini)CEOと共にスピード感を持って改革に取り組んでいる。ただ、そういった取り組みや信念はルック写真やショーの映像を見るだけではわかりづらい部分も多いので、これからそれを社内だけでなく、卸先や消費者にどのように伝えていくかというところが重要だと思います。

ダンサーの情熱が溢れ出す「ドリス ヴァン ノッテン」

丸山:「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」はダンサーとモデルを混ぜた47人のパフォーマーによるダンスを通じてコレクションを発表。ベルギーのコンテンポラリーダンス・カンパニー、ローザス(ROSAS)とウルティマ・ヴェス(ULTIMA VEZ)、パリ国立オペラのプロのダンサーによる表現力もあり、情熱的で色気がありながらピュアで奔放、狂気的にも見えるダンスで、まるでこれまでのロックダウン中に生まれた世界の様々な感情を凝縮したようでしたね。ドイツの天才振付師のピナ・バウシュ(Pina Bausch)のストイックで優美な破壊力と、映画「ボルベール<帰郷>」などで知られるペドロ・アルモドバル(Pedro Almodovar)監督が描く情熱的で誇張された女性美がインスピレーションでした。

藪野:ドリスも「とても親密でパーソナル、そしてエモーションが詰まったコレクションを作りたかった」と話していましたが、まさにそれが映像を通しても表現されていましたね。ロックダウン中の2月にアントワープで撮影されたそうで、パンデミックによってパフォーマンスの場を失ったダンサーたちのパッションが溢れ出しているかのよう。コレクションは、体を包み込みメンズウエア由来の構築的なジャケットやコートと、センシュアルなサテンのキャミソールやドレスのコントラストが印象的でした。

丸山:パンデミック前に発表した20-21年秋冬は装飾に装飾を重ねてダークな耽美さに仕上がっていたのに対し、今季はトロンプルイユで布のドレープやバラの花、グローブを服にプリントして、装飾は最小限に削ぎ落としていましたね。

藪野:立体的な装飾が控えめな分、色が際立っていたなと。個人的には、イブ・クライン(Yves Klein)の絵画を彷彿とさせる鮮やかなブルーや真っ赤なリップともリンクする赤に惹かれました。ちなみに冒頭に登場した白いロングシャツドレスは、まだドリスが学生だった1981年に発表したファースト・コレクションを再解釈したものだそうですよ。

現代の若々しさで生まれ変わった「クレージュ」

藪野:「クレージュ(COURREGES)」も、ニコラス・ディ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)新クリエイティブ・ディレクターの本格デビューでした。彼は「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「ルイ・ヴィトン(LUOIS VUITTON)」に在籍し、ニコラ・ジェスキエールの下で長年働いてきた、いわばニコラの愛弟子。「クレージュ」との相性も良さそうな人材です。1月にZoomでインタビューしたのですが、その時からリアルなショーを開くことを楽しみにしていたので、ショー映像の配信になってしまったのは少し可哀想でした。でも映像の出来も良かった!新たなスタートにふさわしい真っ白な空間にミニマルなシルエットが映えていたし、シンプルなのにとてもドラマチックに感じました。

丸山:フィナーレの演出も素敵でしたね。ムービーの最後はカメラがどんどん空中に引いていき、これまで見ていた真っ白い空間は立方体だったことが分かります。会場はパリ郊外のオーベルヴィリエ(Aubervilliers)にあるパーティー&ダンススポット、ラ・スタスィオン-ガール・デ・ミーヌ(La Station - Gare des Mines)。工業地帯のど真ん中に現れた異質な未来的なキューブの壁の上や周りにはショーを見に集まった若者の姿が。壁をよじ登ってショーを見ようとしたり、だべったりする様子はクラブの周りに集まる若者を描写したよう。音楽好きでミュージックビデオからファッションの世界に入ったというニコラスの、現代の若者を勇気づけるメッセージだそうです。

藪野:インタビューした時、故郷の田舎町には周りに何もないところにポツンとクラブがあるという話をしていたので、そういうイメージだったのかもしれないですね。“若者”と言えば、今回のインスピレーション源となったのも若き日の創業者アンドレ・クレージュ(Andre Courreges)と彼のスタイルが確立され始めた頃。「クレージュ」のようなアイコニックなデザインやイメージがあるブランドは、そのDNAを大事にしようとするとクリエイションに制約ができがちですが、ニコラスは「クレージュ」らしさ守りつつ、うまく今の時代の若々しさにアップデートしていました。そして、奇しくも「クレージュ」が生んだミニスカートは、今季のビッグトレンドですね。

丸山:はい、「クレージュ」はミニスカートに裾広がりのシルエットが美しいパンツを合わせるスタイリングもありましたが、これは大人でも取り入れやすそうですね。個人的には、コレクション後半に登場したプリーツジャージーに未来的なミニワンピースを合わせたスタイルや、ウエストを絞ったコートなどスマートでフォーマルなアイテム群が好みでした。

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