REPORT
これぞ究極の“70'sディーバ”
2016年春夏パリ・メンズ・コレクション閉幕後の7月5日、2015-16年秋冬オートクチュール・コレクションが開幕した。オートクチュールは最近、中国富裕層などから若く新しい顧客を得て、新たな盛り上がりを見せている。会期中はオートクチュールのショー以外にジュエリーやレザーグッズの新作展示会や、ショップのオープニングなどイベントが数多く開催される。
初日は「アトリエ ヴェルサーチ(ATELIER VERSACE)」がハイライト。秋冬トレンドに浮上している70年代調を決定づけるコレクションを披露した。オートクチュールと言えばトレンドと無縁の現実離れしたコレクションとのイメージがあるかもしれないが、シーズン直近に開催される、ある意味究極のリアルクローズの提案の場。購買力のある新顧客に向けて今の気分を反映した、彼女たちの日常生活を彩る“あなただけの一着”を提案する力が試される。
透明アクリルのランウエイの内側には、3色の蘭の花が整然と並べられている。その数は、ざっと数えて1万5000。モデルたちは、同じく3色の蘭で作ったメデューサのアーチを抜けて登場した。花の冠を頭に載せ、幾重にも重ねたシフォンのドレスの裾をふわふわと揺らしながら歩く姿は、繊細でいてタフ。照明効果もあり、地上から数センチ浮かび上がっているように見える。無造作を気取る70'sディーバスタイルを形成するのは、生地と糸を針で操るアトリエの力だ。薄い生地と生地を接ぎ合わせた、触れれば壊れてしまいそうな造形や、今にもこぼれ落ちそうな装飾など、“非の打ち所のない不完全さ”がクチュールメゾンの実力を証明している。
アイテムは、軽やかなマキシ丈ドレスが中心で、巨大なベルスリーブやアシンメトリーのカッティング、切りっ放した生地のレイヤードで花の要素を随所に入れる。オーバーサイズのセーターも肩の力抜けた70年代調につながる。素材は、シフォンをベースにベルベットとレースを組み合わせ、時々シート状のメタルチェーンも取り入れてロックなムードもプラス。カラーパレットは、温かみのあるグレーやライラック、モーブピンクやグリーンなど自然界から選んだ。技術はフィナーレに向けて凄みを増し、テープ状にした繊細な複数の生地を編み込んで作るボディコンシャスなドレスは、モデルの身体に直接貼り付けたかのような完璧なフィットを見せる。