ドイツの首都、ベルリンは歴史的な建物から現代的なコンクリートビル、花々が芳香に咲き乱れる庭園からグラフィティーに染まった裏道などが混在し、伝統と革新が共存する街だ。さまざまな顔を持つ多面性に引かれ、世界中からアーティストやクリエイティブが集まる。例えば音楽ではフリージャズからクラシック、テクノなど多様なカテゴリーが盛り上がり、世界各国から注目を集めている。ビューティも若手ブランドが続々と台頭してきており、中でも昨今話題なのがフレグランスだ。ベルリンは香水の聖地であるパリに比べてブルーオーシャンであり、従来の香水業界の考えにとらわれないクリエイティブなパフューマーが活躍している。ベルリンの多様なバックグラウンドからヒントを得て、異なる要素を組み合わせたユニークな香りが多く誕生しているのだ。また、ナチュラルやオーガニックビューティの先進国だけあって、自然原料を用いた香りやウエルネス・マインドフルネスをうたうフレグランスが多い。本記事では、ビューティエディターやコンサルタントとして活躍するローラ・ダンケルマン(Laura Dunkelmann)に、中でも今後の成長が期待される注目株4ブランドを紹介してもらった。
ベテラン調香師渾身の「アーバン センツ(URBAN SCENTS)」
マリー・アーバン・ルフェーヴル(Marie Urban Le Fevre)はベルリンの香水界では誰もが知るベテラン調香師だ。大手メゾンの香りを20年以上に渡り制作した後、2014年にベルリンで自身のブランド「アーバン センツ」を立ち上げる。フランスの伝統的な製造方法や手法に、ベルリンらしいツイストをかけた香りを特徴とする。「私がルーツを置くフランスの伝統的なパフューマリーのノウハウに、ベルリンの刺激的で多様なカラーを注いでいる」とマリー。香りは全て厳選された最高峰の原料のみを用い、西ベルリンに構えるアトリエで調香してから仏グラースでブレンド。一般販売用の香り以外にも、世界中の美術館やラグジュアリーホテルでも導入されている。さらに最近は香りを通じた支援プロジェクトに取り組んでいるという。「新型コロナの症状の一つに、嗅覚・味覚障害がある。グスタフ カルス大学のトーマス・フンメル(Thomas Hummel)教授とともに、嗅覚障害に関するプロジェクトを近々発表する。また数年に渡り、シャリテ・ベルリン医科大学(CHARITE)と協業し、香りが人に与える影響の研究を行ってきた」。
タロットカードと提案するスピリチャルな新顔「アポテーケ(APOTHEKE)」
元ビューティ・ファッションエディターのジェシカ・ジャスミン・ハナン(Jessica Jasmin Hannan)が4年前にエッセンシャルオイルの世界にはまり、そこから2020年に高品質のナチュラルグレードオイルを使用したパフュームラインをローンチ。アロマが精神に及ぼす働きに着目し、心とマインドにアプローチしたスピリチャルな香りをそろえる。「アロマセラピーのように、(私が手掛ける)全ての香りに特定のパーパス(効果)がある。タロットカードやクリスタルとともに提案しているのは、香りは心や精神などに働きかけるパワーを持っているから」。公式サイトでは占いクイズに答えると、自分にあった香りを導き出すことができる。「“トラベラー”は瞑想するような安らぐ香りで、“シンカー”は刺激的なアロマ、“ドリーマー”は恋に落ちているようなロマンチックな印象だ。最後に“ラバー”はアフロディジアック(媚薬)のようなブレンドで、香るだけで照れちゃう人もいるくらいよ!」とジェシカ。現在ベルリンにあるセレクトショップやオンラインで取り扱いがあり、今後は直営店舗の出店も視野に入れる。
元モデルが癒しを求めて立ち上げたサステナフレグランス「バジウム(BASIUM)」
まるで森の中で深呼吸するかのような癒しの香りを手掛けるナチュラルフレグランスブランド「バジウム」。元モデルのコンスタンツェ・セマン(Constanze Saemann)が「ニューヨークでモデルとして働いていた頃、あまりに多忙な生活で疲弊し、アロマセラピーやナチュラルパフュームの勉強を始めた」ことがきっかけで立ち上げたブランドだ。全てオーガニック・ビーガン原料のみを使用し、小ロットで生産。ストレスを緩和したり、ホルモンのバランスを整えるとされるエッセンシャルオイルをブレンドし、マインドにもアプローチする。パフュームオイルのほか、フェイスマスクやボディーオイルなどもラインアップする。人工的な原料を使用しないことをポリシーとし、サステナビリティーにもこだわる。「収益の一部を事前団体に寄付するほか、全製品が完全にリサイクル可能でプラスチックフリーを目指している」。すでに業界内で話題を集めており、今後さらに成長する注目株としても期待ができるブランドだ。
日本に着想を得た空間フレグランス「アオイロ(AOIRO )」
オーストリア人のマニュエル・クスニク(Manuel Kuschnig)と日本人の妻の吉国志津子によるブランド。「2009年に東京で“香りで空間をデザインする”というコンセプトでアオイロエアーデザインを立ち上げた。われわれがキャンバスとして捉える空や空気をイメージし、青という色からブランド名を着想した」。ベルリンと東京を拠点にし、オリジナルフレグランスのほか、自宅やホテル、店舗、展示会などの空間を香りで彩る演出も手掛ける。日本の香道からインスピレーションを得た製法やアプローチでキャンドルやフレグランス、ミストなどを展開。植物由来の自然原料を配合した香りは、精神に働きかけるアロマセラピーのアプローチをとっている。「ベルリンは東京と全く異なる光景が広がるが、様々な表情を持つという意味では似ている。その自由さがあって、われわれもクリエイティブな香りを作れている」。世界中のショップや公式ECで展開中。
Laura Dunkelmann(ローラ・ダンケルマン) : ドイツ・ハンブルク生まれ。ファッションジャーナリズムを学び、雑誌編集者に。現在「タッシュ(TUSH)」マガジンのビューティディレクターを務めながら、フリーランスエディターやビューティブランドのクリエイティブコンサルタントとしても活躍中