「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」は2021-22年秋冬コレクションをデジタル上で開催中のパリ・ファッション・ウイークで発表した。今季は「As the Way It Comes to Be(生まれたままで)」をテーマに、デザイナーの近藤悟史率いるデザインチームが自然の普遍的な美しさに向き合った。ブランドの核にある“一枚の布”というコンセプトをそのままに、大胆なデザインで、よりリアルな”着やすさ”も重視した。
近藤デザイナーは「これまでは“風をはらむ”や“まわる”など抽象的なキーワードで服作りをしてきたが、今季はもっと具体性を持って表現しようと考えた。石、貝殻、卵の色、水の流れ、光など、誰でも想像できる自然を自分たちのモノづくりに載せて、内面から出るエネルギーを感じられるコレクションにしたかった」と語る。
時間をかけて作った
“静かだけど堂々としている服”
デザインは「自然の有機的な形を服に取り入れた」手法と「自然の強さをありのままに服で表現する」手法の2つの切り口で挑んだ。ファーストルックは前者の表現で、一枚の四角い布に伸縮性のある糸を部分的に織り込んで成形したドレス。川の流れをイメージした、不揃いのプリーツが特徴だ。また大胆に湾曲したプリーツと、大きな穴があいたグレーのドレスは、“灯と影”を描写したもので、プリーツに沿ってコンパクトに折りたたむことができる。
後者の「自然の強さをありのまま表現する」手法を代表するのが、京都の伝統技法である墨流しで石を描いたシャツやドレス。水面に染料を垂らしてマーブル模様を作り、手作業で染色しているため、一枚一枚で柄が異なる1点モノになる。“月影にかすむ大輪の花”をイメージしたドレスは、シルク織物にほぐしの技法で染めのような模様を描いたもの。1枚の四角い布をベースにしたパターンで、生地を端まで無駄なく使用している。さらに、素材本来の色や風合いを生かしたウエアにも取り組んだ。羊毛を脱色・染色せずそのまま色を使った“ロー ウール(RAW WOOL)”のコートや、茶綿と緑綿のオーガニックコットンで仕立てたトレンチ風のジャンプスーツを提案。合成繊維で形状記憶を生かしたモノ作りを得意とする「イッセイ ミヤケ」では目新しい素材使いだ。
近藤デザイナーは「前シーズンに“コンパクトになる洋服”を作り、箱に詰めてパリへ送ったときに『次はこれまでとは違った新しいチャレンジをしたい』と感じた。自然と向き合って、よりパーソナルなものを作ろうというアイデアが浮かんだ。コロナ以前は半年に3週間〜1カ月出張することもあったが、今は日本でモノ作りに集中できる環境にある。今季は丁寧に素材を作って、一点一点の服に時間をかけて、静かだけど堂々としている服を作ることができた」と説明した。
コレクション動画は関東にある建築物と大自然を背景に写真家の瀧本幹也が撮影。ブランドのコンセプトやデザインの強さを失わずに、よりモダンでリアルな“静かだけど堂々としている服”を見せることに成功した。