新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、各ブランドがさまざまな趣向を凝らしたデジテル形式のコレクション発表に力を注ぐ中で、「プラダ(PRADA)」は2月25日に2021-22年秋冬コレクションショーをデジタル形式で開催した。ショーの後にはユーチューブ(YOUTUBE)のファッションおよびビューティ部門トップのデレク・ブラスバーグ(Derek Blasberg)が司会を務めるパネルディスカッションが行われ、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)のほかにラフ・シモンズ(Raf Simons)、デザイナーのマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)、アカデミー賞のノミネート経験を持つ映像監督で作家、プロデューサー業もこなすリー・ダニエルズ(Lee Daniels)、ショーの音楽を手掛けたプラスティックマン(Plastikman)ことリッチー・ホゥティン(Richie Hawtin)、建築家のレム・コールハース(Rem Koolhaas)、トランスジェンダーモデルのハンター・シェーファー(Hunter Schafer)がそれぞれリモートで参加した。
ミウッチャは、「オーディエンスがいないとなれば、発言内容により一層意識を向けて雰囲気を作っていく必要がある。人がいないところで話をするのはいつも以上に難しいし、筋が通った見せ方や編集を行うのも以前と違って簡単ではない。そのうちリアルショーに戻ると思うが、デジタルショーで学んだことを無駄にしてはいけないし、両方の要素を組み合わせたら面白くなるだろう」と語った。
ラフは、「リアルショーに慣れきっていたこともあり、コールハースとはライブ感のあるデジタルショーを作る方法や、空間と洋服を物理的にも心理的にもどのように結びつけるのかについてたくさん話をした。私たちはただショーの動画を撮影していたわけではない」とコメントした。
「プラダ」は2021-22年秋冬シーズンのミラノ・ファッション・ウイークで、コールハースと彼の建築設計事務所OMAの研究機関であるAMOが考案した、色鮮やかなエコファーと大理石を部屋の床や壁に施した、1月のメンズショーと同じ空間演出でウィメンズ・コレクションを発表した。これに対してコールハースは、「ショーは前もって計画できるが、アドリブも強く求められる。常にオリジナリティーのあるアイデアで挑戦できる」と語った。
ジャズシンガーのビリー・ホリデイ(Billie Holiday)の伝記映画、「The United States vs. Billie Holiday(邦題未定)」を監督したダニエルズは、主役を演じるグラミー賞ノミネート経験もあるシンガーソングライター、アンドラ・デイ(Andra Day)が劇中で着用する衣装を「プラダ」に依頼した。ダニエルズは、「無観客のファッションショーではフロントローのセレブなどほかに目を向ける存在がいないため、コレクションから目を離さずにひたすら集中することになる」と指摘した。
ラフは21年春夏シーズンからミウッチャと共同でコレクションを手掛けているが、ランウエイショーの構成や映像化については、以前よりも簡単に決定を下せるようになったという。
一方でコールハースは、「動画を用いたデジタルショーでは“服を背後から写すシーンで始まり、遠くに消えていきながら終わる”といった、さまざまな視覚的要素を取り入れられる」と述べた。
ホゥティンは、「音楽はファッションやそのディテールと深く関わっており、リアルショーの時より親しみが増した気がする。デジタルショーと音楽は共生している。コールハースの建築と同じように、音楽はショーをサポートするための枠組みのようなものだ」と語った。
これに対してラフは、「音楽は映像にエネルギーをもたらし、最終的な結果に大きく貢献する」とした。
ダニエルズはビリー・ホリデイの映画で「プラダ」と協業したことについて尋ねられると、「ミウッチャの素晴らしい仕事を抜きにしても、ミウッチャはビリーと同じく強い女性だ。彼女に衣装を依頼するのは緊張したが、アーティストとしてとても真剣に取り組んでくれた。当初から彼女が100%の力で取り組んでくれると思っていたし、ビリーの命を衣装に吹き込むことができる人はミウッチャ以外に思いつかなかった」と話した。
シェーファーは、「ドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA(Euphoria)』に出演したことで、衣装やメイクによってさまざまなシーンが強調されたり、クールな効果を付けたり、何かを引き出せたりすることを実感して、大きな学びを得た」とコメントした。
また、ミウッチャが映画や文学に関心を持っていることから、ほかのパネリスト達がどういった分野に関心を持っているのかを尋ねるシーンもあった。
ホゥティンは空間や彫刻と答え、コールハースは「お互いが別の惑星から来た者同士だと想定して、仕事相手が目指しているものや彼らの習慣、文化、美学などを理解し、自分の視点やそれが意味するものを解釈するのに役立てている。また、スピード感のあるファッション業界とのコラボは楽しかった。たった15秒で何かすごいものを作り上げることができる。人類学の細かな部分とファッションの直感的なひらめきを掛け合わせるのは非常に素晴らしい」と述べた。
マークは、「映画、芸術、音楽に加えて“人生のアート”にも関心がある。生きている以上、あらゆるレベルでの人生経験が必要だ。私たちが実践していることは、“綺麗なインテリア”といった類いの、生活を彩るための美的要素に過ぎない」と語った。
マークやレム・コールハースが語る“プラダらしさ”
また司会者のブラスバーグがパネリストに“プラダネス(Pradaness、プラダらしさ)”の定義を訊ねると、ミウッチャが苦笑する場面もあった。
マークは「“プラダネス”とは、ミウッチャ自身のことさ。ミウッチャとラフは共同でコレクションを手掛けているが、やはりミウッチャの類いまれなるセンスや着眼点、文化、知性、ファッションへの愛には感銘を受ける。“プラダネス”と、イタリア人映画監督のミケランジェロ・アントニオーニ(Michelangelo Antonioni)、フェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini)、ルキノ・ヴィスコンティ(Luchino Visconti)らが手掛けた映画には、“何でも受け入れる懐の深さ”という点において通ずるものがある。はっきりと言い表せないが、そうした要素を随所に感じる」とコメントした。
ミウッチャや彼女の夫でプラダ共同最高経営責任者でもあるパトリツィオ・ベルテッリ(Patrizio Bertelli)とも長年にわたって仕事をしてきたコールハースは、「ミウッチャは何かを嫌いに思うとき、ただ普通に嫌ったり拒絶したりするのではなく、対象のあらゆる側面を検討して、そこから得たエネルギーをほかの何かに生かしている。とても素晴らしいと思う」とコメントし、これに同意するラフの傍らでミウッチャが笑っている、というシーンもあった。
ミウッチャは、「マークが言ったように、ファッションはインスピレーションと人生に深く根ざしている分野だ。私たちは基本的に、建築や音楽、そしてそのパフォーマーたちと関わりながら物語を伝えていかなければならない。突き詰めていくとファッションは人生なので、他者の介入が必要になる」とコメントした。
マークは、「こうしたやりとりは興味深くて勉強にもなるし、クリエイティブな方向性を感じる。確かに以前は忙しいスケジュールに文句を言っていたが、実際に休みを取るのは変な気がしたし、難しくもあった。まさにハムスターが車輪の中で走っているように、休むことができない感じがしていた。しかし今季はまだショーを開催しておらず、今は休みがあることで文句を言っている。休めなかった日々が恋しい。私は尊敬する人びとにかなり関心があるため、今回のパネルディスカッションは非常に興味深い」と語った。
するとコールハースは、「緊急性のある地球温暖化やサステナビリティの分野では科学者との協力関係も必要だが、そこには美学や忍耐がほとんどないため、一般的にテンポが遅いと言われる建築業界のスピードは加速し、結果的にはかなり思い切った変化を引き起こしている。突如として緊急性のある事態に直面したことで、すべての優先事項を無視しなければならなくなった。新鮮だし、みんなで協力する必要がある」と話した。
ミウッチャは、「私もそう思う。今回のパネルディスカッションでは気軽な問題について話をしたが、今現在、多くの政治的問題や業界としての正しい行動に対する責任、変化に貢献すること、そして多様性、ジェンダー、生態系といった問題に真剣に取り組むことが求められている。すべてを解決することはできないが、責任を持って積極的に行動することが大切だ。こうした問題を取り上げて、正しい方向に一歩踏み出していくことが重要だ」と述べた。
今回で3度目の開催となる対話形式のイベント、“プラダ・インターセクションズ(Prada Intersections)”は、ミウッチャとラフがよりダイナミックな創造性を求めてファッション業界以外の人びとコミュニケーションを図り、新しい意見に触れることを目的としている。2人は1月に開催された2021-22年秋冬シーズンのメンズショー終了後にも、世界の大学やカレッジから選ばれた学生たちとリモート形式で対話する機会を設けた。また20年9月には、ショーに先駆けて公式ウェブサイトで両者への質問を募り、2人の対談のライブ配信も行った。