ミレニアルズやZ世代と呼ばれる若者たちは今何を考え、ファッションやビューティと向き合い、どんな未来を描いているのだろうか。U30の若者たちにフォーカスした連載「ユース イン フォーカス(Youth in focus)」では、業界に新たな価値観を持ち込み、変化を起こそうと挑戦する若者たちを紹介する。連載の2回目は、23歳のコラージュアーティスト、ヤビク・エンリケ・ユウジ(Yabiku Henrique Yudi)にフォーカスする。
ヤビクはブラジル・サンパウロで生まれ、11歳で日本に移住。文化服装学院でファッションを学びながら“情熱を持って取り組める何か”を探し、19歳でコラージュアートと出合った。オカモトレイジ主催の展覧会「ヤギ エキシビション(YAGI EXHIBITION)」を皮切りに、ファッションブランドとのコラボやファッション誌への作品提供など活動の幅を広げ、2019年には初の個展「ファーストインプレッション(FIRST IMPRESSION)」を開催し、雑誌「ゼム マガジン(Them magazine)」に「ヴァレンティノ(VALENTINO)」とのコラボ作品を掲載。現在、東京・渋谷の「ディーゼル アート ギャラリー(DIESEL ART GALLERY)」で自身最大規模の個展「モーション(MOTION)」を5月13日まで開催中だ。ますます勢いを増す彼に自身のルーツや同展の見どころなどについて聞いた。
WWD:ブラジルではどんな幼少期を過ごした?
ヤビク・エンリケ・ユウジ(以下、ヤビク):小さいころから絵を描くことが好きで、よく模写をしていました。でもそのころは、アーティストを目指そうとは考えてもいませんでした。周りに芸術関係の仕事をしている人もいなかったので、家族は今も驚いています。
WWD:ファッションを学んでいた理由は?
ヤビク:「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」や「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」などモードの世界に憧れて、文化服装学院で服作りを学びました。ファッション業界を目指していたというより、漠然と好きなことに打ち込みたかったんです。服飾は少し違うなと思い1年で辞めましたが、文化で学んだことは今も生かされています。
WWD:コラージュアートとの出合いは?
ヤビク:文化の授業でコラージュが課題に出されたこともありましが、当時はあまり興味が湧かず、むしろ提出が遅れて単位を落とされたんです(笑)。本当の意味でコラージュに出合ったのは、休学中のことでした。将来について模索していた時期に、古本屋で手に取った昔の雑誌のグラフィックやフォントに衝撃を覚え、無意識に買い集めていました。ある時、久しぶりに何かモノ作りをしようと、家に積まれていた古雑誌でコラージュしてみたんです。そしたら意外とうまくできて(笑)。謎の自信が湧いてきて2作目、3作目と作り、インスタグラムに投稿しました。すると友達以外の人からも良い反応が返ってきた。それから間もなくしてオカモトレイジさんが主催する「ヤギ エキシビション(以下、ヤギ)」への出展の案内が届きました。
ヤビク:「ヤギ」は自分の作品が初めて多くの人の目に触れる機会でした。遊びの延長で作っていたつもりが展覧会以降、ブランドのビジュアルや雑誌の仕事などの依頼が届くようになりました。最初は「こうやってお金が稼げるんだ」と新鮮でしたが、そのころはまだバイトもしていたし、「今できることはやっておこう」くらいの気持ちでしたね。ちゃんとアーティストになろうと決めたのは19年に初めて個展を開催したことが大きかったです。
WWD:影響を受けた人物は?
ヤビク:コラージュアーティストの河村康輔さんです。ちょうど個展を開催したころに、「アディダス(ADIDAS)」の店で河村さんの作品展示を見ました。河村さんが大きな企業を相手に幅広く仕事をしているのを見て「コラージュアートでそこまで行けるんだ」と驚いたんです。僕もそこにたどり着けるように頑張りたいと思いました。河村さんにはたまにお会いしていろいろ教えてもらっています。
ブラジルの混沌とした風景、生々しい現実の違和感
WWD:作品を制作する上で大切にしていることは?
ヤビク:作品を見た瞬間にはてなマークが浮かぶような、違和感を大切にしています。コラージュはもともと別の場所にあったモノ同士が合わさることで新しい価値観を生み出します。きちんと合わせようとするとあまりうまくいかないので、見た人が「ん?」と思うようなちょっとした違和感がありながら一つの作品として成立するくらいのバランスが好きです。
WWD:ブラジルで育った経験は作品にどう反映されている?
ヤビク:ブラジルはとにかく街がごちゃごちゃしています。いろんな人種の人がいて、貧富の差もすごい。お金持ちの女性が歩いている通りにホームレスの人がいたり、美しい建物の隣に古い建物があったり、矛盾だらけなんです。その生々しい現実の違和感があって一つの国として成立している。僕の作品も、異なる材質のものが融合して美しく見えた時が手を止めるタイミングなんです。子どものころはそんなふうに景色を見ているつもりはありませんでしたが、振り返ると今の作品に通ずるところがあります。
WWD:ブラジルと比べて、東京の風景は整頓されすぎているのでは?
ヤビク:いいえ。むしろ東京はサンパウロを凝縮した感じです。特に原宿は外国から来る人もたくさんいるし、モード系やメイド系のファッションをした人が同じ道を歩いていますよね。いろんなカルチャーがごちゃごちゃしているけど、それが素敵です。
ペインティングやインスタレーションまで 空間自体をコラージュ
WWD:今回の展示の見どころは?
ヤビク:アナログのコラージュ以外にも、プリントやインスタレーション、ペインティングなどさまざまな手法を用いた作品を展示しています。いろんな素材が同じ会場に集合し、それぞれが自分の持ち場に収まりつつ、空間自体をコラージュしているイメージです。フラワーベースは、現在一緒にクリエイティブチームとして活動する同い年のアーティスト、トトキサクラと制作しました。
WWD:トトキさんと組んだ理由は?
ヤビク:彼女の無機質でミニマルな作風に引かれてアプローチしました。正反対なスタイルですが、その中間くらいを目指して何かを作りたかったんです。フラワーベースは彼女が形をデザインし、僕がそこにテクスチャーやグラフィックでストリートの要素を混ぜました。インスタレーションは、スケーターが息抜きしている縁側をイメージしています。お互いここまで大きいものを作ったことがなかったので、すごいドキドキでした。会場で完成した状態を初めて見た時はホッとしました。今後もミニマルとストリートの融合をテーマにした作品を一緒に制作していきます。
ヤビク:僕たちの世代はSNSのおかげで、たくさんのチャンスに恵まれています。僕もインスタグラムがなかったらアーティスト活動はしていなかったかもしれない。一方で、常にいろんな情報にアクセスできる分、選択肢がありすぎて一つに絞ることが難しい。僕も飽き性で、バイトは1年以上続いたことがありません。そんな僕でも、コラージュに出合った時の「あ、これ面白い」という直感を信じることができたから、今こうして継続できています。理由は分からないけど、ときめく感覚に敏感でいることや、なんとなく面白そうというアイデアを大切にしてほしいです。直感から生まれるものにはものすごいパワーがあるんです。その中にもしかしたら今後の人生に影響を与える何かがあるかもしれないと信じ、夢中になれることを見つけてほしいです。
WWD:今後の目標は?
ヤビク:河村さんも手掛けていたような店舗の内装など、形として残るモノや常に人の目に触れるモノを作れたら面白いですね。作品のクオリティーを上げ、新しい手法を発見しながら、いずれは河村さんのように海外でもきちんと評価されたいです。
■「MOTION」
会期:2月13日〜5月13日
場所:DIESEL ART GALLERY
住所: 東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti DIESEL SHIBUYA B1階
入場料:無料