多くのブランドを展開するパルでライブコマースの先陣を切るのが、バッグブランド「ラシット(RUSSET)」である。昨年8月のスタートから週1回くらいの頻度で配信。毎回、新作の商品シリーズ数点を紹介して、最高で売上高3200万円(配信から1カ月間の総額)を記録した。ライブコマース経由のECで注文されるだけでなく、実物を確かめるために店舗を訪れる客が増えるといった相乗効果を生み出している。(この記事はWWDジャパン2021年3月8日号からの抜粋です)
もともとは昨年4月の緊急事態宣言による店舗休業を受けて始めたインスタライブがきっかけだった。だが反響はイマイチ。古川真也・執行役員第九事業部長は「『ラシット』は顧客層の年齢層の幅が広く、必ずしもインスタにフィットしなかった。ならば自社サイト『パルクローゼット』の中で(その場で直接購入できる)ライブコマースとして設計した方が、アプリ、LINE、メルマガの多くの会員にリーチできる」と考えて、ライブコマースへの移行を決めた。パルクローゼット内でのライブコマースは「ラシット」が初めてだった。
MCに抜擢された「ラシット」ウェブスタッフの石倉夏実さんは、SNSを含めたデジタルマーケティングの担当者。「文字情報だけでは分からないバッグの魅力をスタッフの個性を通して直接お客さまに伝えたい。ライブコマースは『ラシット』の顧客の方がたくさん見るので、まずはコンテンツとしての完成度を高めようと思った」。特に力を入れたのがディテールの説明だ。視聴者からのコメントでもサイズや重さについての問い合わせが多い。
MCはレギュラーの石倉さんと、エリアマネージャーの推薦をもとに選ばれた販売員の2人で行うことが多い。当初は話す内容を飛ばしてしまったり、視聴者のコメントに引っ張られすぎたり、慣れない場面もあったが、配信を重ねるごとにMC力を高めて安定感を増してきた。今では視聴者のコメントとのキャッチボールもお手の物だ。すっかり「ラシット」の顔になった石倉さんを応援するコメントもよく書き込まれる。
平日夜の配信でリアルタイムの視聴者は500人ほどにすぎないが、サイト上のアーカイブで保存されるため1カ月間で2万〜3万回再生される。アーカイブ配信を見て、購入に至るケースが圧倒的に多いのが特徴だ。アーカイブは顧客だけでなく、販売員が商品説明やトークを学ぶ参考書としても活用されている。
石倉さんは「うれしいことに『MCに挑戦したい』というスタッフの声がたくさん届くようになった。ライブコマースを通じて『ラシット』の販売員の魅力も多くの人に知ってほしい」と話す。
当日の本番までの流れ
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【16:40】
打ち合わせ︎
配信開始の3時間ほど前から少しずつ準備を始める。防音に優れているため、社内の会議室を配信会場に使っている。この日のパートナーは「ラシット」小田急百貨店新宿店の藤本さん(左)。簡単な台本に沿ってその日の流れと扱う新作バッグを確認する。紹介するバッグは多いが、緊張した感じはなく、リラックスした雰囲気。
【17:00】
ボード書き込み
配信会場には大きなホワイトボードがある。石倉さんとパートナーとして出演するショップスタッフは商品情報をあらかじめ頭の中に入れているが、アパレルと違ってバッグの場合は「マチ幅が何センチ」「重さは何g」といった仕様面をMCがとっさに口にしないといけない場面もある。念のため見える場所に書いておく。
【17:10】
リハーサル
MCが本番で着る服を、パルグループが展開するブランドの中から紹介する新作バッグとのコーディネートを勘案して選ぶ。進行についてレギュラー出演の石倉さんは慣れたもので、毎回変わるパートナーと段取りを確認する。進行をガチガチに固めるのではなく、視聴者からのコメントや反響で臨機応変に対応できるようにする。
【17:20】
詳細確認
固定されたカメラで撮影・配信するが、バッグの内側やポケットなど細かい部分は、ハンディカメラを使って視聴者に見せる。アパレルのライブコマースに比べて、カメラに寄った画像が多いのが特徴だ。その際、視聴者のパソコンやスマホにどう映るのか、確認しておくことも大切になる。あわせてどう説明するかシミュレーションする。