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ライブコマースと世阿弥 エディターズレター(2021年3月16日配信分)

※この記事は2021年03月16日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

ライブコマースと世阿弥

 インターネットの生中継を通じて商品を売るライブコマースが、コロナ下で盛んになっています。「WWDジャパン」も3月8日号で「ライブコマース特集」を掲載しました。目玉の一つはジャパネットたかたの創業者・高田明さんのインタビュー記事です。ライブコマースもテレビ通販もカメラの向こう側にいる不特定多数の視聴者に伝えるという本質は同じ。ならば「ミスター・テレビ通販」の高田さんにアドバイスをもらおうと企画しました。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

> ジャパネット髙田明氏が語る 画面の向こう側に「伝える心」(有料会員限定記事)

 高田さんは室町時代の能役者・世阿弥の信奉者としても知られています。数々のインタビューや講演では世阿弥が遺した言葉を紹介し、2018年には「高田明と読む世阿弥」(日経BP社)という本まで出版しました。

 本紙のインタビュー記事で高田さんが述べているように、世阿弥が説く「我見(がけん)」「離見(りけん)」「離見の見(りけんのけん)」の3つの視点はテレビ通販やライブコマースだけでなく、接客や会議などあらゆるコミュニケーションの場面に当てはまります。

 能において「我見」とは演者の視点。「離見」は客が演者を見る視点。そして「離見の見」とは、舞台の演者と客席の客を同時に俯瞰する視点のことです。

 テレビ通販でいえば、MC(司会者)による商品説明のセールストークが「我見」に相当します。独りよがりにならないためには「離見」の視点が必要で、「このお客さんが本当に望んでいることはなんだろう」と想像しながら話さなければなりません。さらに、「離見の見」によって、番組で話す自分と視聴するお客さんを俯瞰して「自分の説明はきちんとお客さんに伝わっているか」と考えながら進行する。自分の目、相手の目、全体を見る目。高田さんは「(MCはこの3つが)うまくいったときに初めて結果がついてくる」と話してくれました。

 とはいえ、ファッション企業やビューティ企業のライブコマースでMCを務めるのは、高田さんのような境地に達したプロではありません。店舗の販売員やプレスなどが試行錯誤しながら司会・進行に挑戦しているケースがほとんどです。「我見」「離見」「離見の見」と言われても、本番中はつつがなく進行することに手一杯でしょう。

 そこで活躍するのが「天の声」です。視聴者がチャットに書き込んだ質問を紹介したり、MCに指示を出したりする役割の人が天の声と呼ばれています。ライブコマースの画面に登場するのは服の着用モデルを兼ねるMCで、天の声を発する人の姿は映りません。姿は見えないけれど、声は聞こえる。視聴者とMCの仲介役として、ライブコマースを盛り上げる演出家でもあります。世阿弥になぞらえれば、天の声は「離見の見」として動いているわけです。

 ライブコマース特集に掲載したベイクルーズ「ジャーナルスタンダード」の天の声は、商品企画部の上條結花さん。自分がデザインした商品も多いため、気持ちの入った解説ができるだけなく、視聴者からの集まるチャットのコメントを受けてMCに適切な指示をだしたりすることもお手の物です。ベイクルーズのライブコマースを見ると、視聴者、MC、天の声の三角形がうまく機能して、とても楽しい現場の雰囲気が伝わってきます。双方向のコミュニケーションのよる一体感がライブコマースの醍醐味だということがよく分かります。

 600年前に「我見」「離見」「離見の見」を提唱した世阿弥が現代のライブコマースを見たらどんな感想を持つのか、聞いてみたい気がします。

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