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連載 コレクション日記

「ルイ・ヴィトン」「シャネル」「ミュウミュウ」の発表で盛り上がるクライマックス パリコレ対談Vol.4

 2021-22年秋冬シーズンのパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)が3月10日までオンライン上で開催されました。ここでは終盤2日と終了後の期間外に発表された中から5ブランドをピックアップ。長年ウィメンズコレクションを取材する向千鶴「WWDジャパン」編集長とベルリン在住の藪野淳ヨーロッパ通信員が対談形式でリポートします。

「シャネル」は小さなクラブで親密なムードを表現

藪野:「シャネル(CHANEL)」のショーといえばグラン・パレ。ですが、1月に披露されたオートクチュールのショー映像の舞台となった後、大規模な改装工事に入ってしまいました。今回はどんなロケーションになるのかな〜と思っていたら、映像はパリ左岸をモデルが歩くモノクロのシーンからスタート。そして、ショーの会場となる老舗クラブのカステルへと入っていきます。グラン・パレの規模感とは対極をなすようなこじんまりしたスペースは、親密なムード。ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)はコントラストを作ることが好きだそうで、「ボリュームのある冬のアイテムに求めたのは、あえて コンパクトな空間。今の時代のせいかもしれないけれど、より温かみや活気を感じられる何かが欲しかった」と語っています。

向:左岸のシーンの音楽はダイアナ・ロス(Diana Ross)が歌う、ちょっと切ない映画「マホガニー」のテーソング。背景に映るカフェはクローズされていてロックダウンが続くパリの街を見るようでそこも切ない。その中に堂々たる「シャネル」のモデルたちが登場して、街にエネルギーを注入していました。服は“ザ・パリジェンヌ”。ツイードのコートにフェイクファーのブーツ、白い襟とカフスつきのメンズシャツ、レトロなスキーリゾート風スタイル。大胆に露出する素肌と重ねづけするアクセサリーも印象的です。どこかレトロなのは70年代のイメージに着想を得ているからですね。モデルが自分たちで着替えたり、メイクアップをしたりするシーンも、かつてのショーではそうだったから、だそう。映画のワンシーンを見るようでした。

藪野:「シャネル」はデジタルでの発表になってから、映画のような演出で世界観を構築していますね。先シーズンはストーリーテリング重視の映像作品、もしくは、シンプルなショー映像のどちらかが多かったですが、今シーズンはそのハイブリッドが増えた印象。服もきちんと見せつつ、エモーショナルな部分を表現するシーンも取り入れるという形式で、先シーズンより全体的に進歩していると感じました。

新体制で再始動した「アン ドゥムルメステール」

藪野:「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」は、イタリアのセレクトショップであるアントニオーリ(ANTONIOLI)傘下に入り、パリコレに戻ってきました。買収前にクリエイティブ・ディレクターを務めていたセバスチャン・ムニエはすでに退任しているので、今回はデザインチームが制作したコレクションです。創業者のアンとも親交の深い新オーナーのクラウディオ・アントニオーリ(Claudio Antonioli)も「私の使命はDNAを守ることと、これからもアンがハッピーであること」とNY版「WWD」に話していましたが、原点回帰という感じがしました。アン本人が手掛けていた頃のコレクションも長く見られていた向さん的にはどうでしたか?

向:「アン ドゥムルメステール」そのものでした。私が創業デザイナーのアン本人だったら、このショーを見て感泣すると思う。自分が去り、代替わりをしさらに親会社も変わった後にもこのように自分自身のスタイルが守られていることにね。それだけアンが残した美学がクリアで普遍的なんだと思う。端正な黒のウールのパンツスーツに白のタンクトップやシャツ。垂れ下がるたくさんの紐のディテール。そしてサテンのジレに帽子。こう見ると、「アン ドゥムルメステール」はジェンダーレスという言葉が盛んに使われるずっと前からジェンダーレスなスタイルを築いていましたね。

藪野:アンは現在デザインには関わっていないですが、クラウディオはアンと電話で話したりアドバイスを求めたりしているらしいです。卸販売や生産体制にも梃入れを図っているようなので、今後どうなっていくのかに注目ですね。

壮大さは今季No.1 !「ミュウミュウ」の雪山ショー

藪野:「ミュウミュウ(MIU MIU)」は、観客を招いたリアルショーじゃあり得ないような雪山の中でのショーでした。撮影されたのは、アルプスの一部であるドローミティ山脈。今回のパリコレは、なるべくテレビの大画面で見るようにしていたんですが、その中でも迫力No.1でした。このロケーションは今季のデザインにも大きく関係していて、スポーツの要素や厳しい環境を生き抜くたくましさが「ミュウミュウ」らしいガーリー&ドリーミーな世界観と融合しています。

向:個人的に大好物でした(笑)。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)のドリーミーな妄想をそのまま実現したかのような演出は、とにかく夢があります。制作チームはよくぞこの晴天を手に入れましたよね。そして服は様々なギャップの存在に萌えました。官能的なスリップドレスに実用的なアウター、ポップなカラーと制服スタイル。中でも白に映える水色やピンクといったポップな色使いがコートやニット、ダウンコートなどあらゆるアイテムに採用されていて冬の景色をパッと明るくしていましたね。
 
藪野:スリップドレスはヘビーウールで仕立てられていて、肩ひもやボディにあしらったスタッズで強さをプラス。個人的にジャケットやドレス、ニット帽などに取り入れられていた素朴なクロシェもツボでした。
 

トリの「ルイ・ヴィトン」は芸術とファッションの結びつきを探求

藪野:パリコレのトリはやはり「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」です。先シーズンは、リアルでは商業施設として復活予定の老舗百貨店サマリテーヌで観客を招いたショーを行い、デジタルではそのショー映像にクロマキー合成を駆使して不思議な世界観を描いていましたが、今回の舞台はルーブル美術館の中。イタリア彫刻が並ぶミケランジェロ・ギャラリーと古代ギリシャやローマの彫刻が飾られたギャラリー・ダリュをランウエイとして使い、最後はモデルが「サモトラケのニケ」を見上げるシーンでショーは締めくくられました。その会場からも分かるように芸術とファッションの結びつきを感じるコレクションでしたね。
 
向:「ルイ・ヴィトン」のショーは普段、ルーブル美術館の定休日である火曜日の夜は館の内外を使って開かれます。今は新型コロナウイルスの影響で臨時閉館中なのですが、ショー撮影のために特別に使用できたようですね。芸術とファッションの結びつきを象徴するのは、イタリアのアート&デザインのスタジオ、フォルナセッティ(FORNASETTI)とのコラボレーション。1940年にピエロ・フォルナセティが開いたアトリエで、13000点あると言われるアーカイブの中からニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)のチームが選んだアートワークにフィーチャーしたそうです。フォルナセッティのアイコンである手描きの画像が服やアクセサリーに採用されていました。目を引いたのは、独特のボリューム感です。丸みを帯びたラインが多く、ギリシャ彫刻の人物にヒントを得たのかな?色も館内の柱の水色や装飾のゴールドを連想するなど「ルイ・ヴィトン」がルーブルと一体となるようなデザインでした。見たことのない造形が多く、トーンは優しいけれど攻めていて今季のラストを飾るにふさわしいコレクションでした。
 
藪野:ニコラの下で長年働いてきたデザイナーを取材することが最近多いのですが、皆、ニコラから“飽くなき探求心”を学んだと言います。今回のコレクションでは、そんなニコラの姿勢をひしひしと感じました。そして、音楽はダフト・パンク(Daft Punk)の「Around The World」「Harder, Better, Faster, Stronger」「Burnin’」のリミックスでしたね。これは、彼らが解散を表明する前からニコラが依頼していたものだそう。本当にクセになるビートで、今でも頭の中でエンドレスリピートされています。
 

「アミ」の映像は90年代の熱狂的なショーへのオマージュ

藪野:パリコレは3月10日で終了しましたが、「アミ アレクサンドル マテュッシ(AMI ALEXANDRE MATTIUSSI)」 もその直後の11日に映像でコレクションを発表しましたね。モデルがタクシーでショー会場に向かうところから始まるドキュメンタリー風の作品で、舞台状のランウエイの両サイドでフォトグラファーたちが待ち構えるファッションショーのシーンは懐かしさを感じる設定。ファッションショーに強い思い入れがあるアレクサンドル・マテュッシ(Alexandre Mattiussi)は、「映像は90年代のファッションショーへのトリビュート。そのクレイジーさやエネルギー、喜びを再現したかった」と話していました。当時の華やかなショーは、彼がデザイナーになる大きなきっかけになったそうです。
 
向:途中から見たら昔の「ファッション通信」にしか見えません!パワーショルダーのジャケットやコートを軸としたセットアップも90年代的です。ともすればただの郷愁に陥る設定ですがちゃんとおしゃれに仕上がっていたのはさすが。ファッションショーはファッションビジネスのシステムの一部だけど、効率や効果だけではその存在意義は語れません。結局は「ショーで見せたいデザイナーとそれを見てその感動を伝えたい観客」の熱狂があったからこんなに長く続いてきたのだと改めて思いました。
 
藪野:コロナ禍の取材で多くのデザイナーや業界人が口にするのは、リアルなショーには“魔法(Magic)”があるということ。人が関わり合うことによって生まれる熱気や一体感、緊張感、想定外のアクシデントなどが合わさることが、ショーに魔法をかけると言います。結果、それが観客たちの心を揺さぶるんですよね。今回、初めて完全にデジタルでファッション・ウイークを取材しましたが、あらためてその通りだと思いましたし、その体験が自分のファッションへの情熱や熱量を増幅させるのだなと。デジタルではずっと家にいて画面を見ているので移動もなく時間に余裕がある反面、リアルなファッション・ウイークで朝から晩まで街中を駆け回っている時のようなアドレナリンは出ませんでした。ショーが終わった後や待ち時間に感想を話し合うのも恋しいですし、来シーズンはまたリアルで開催されるといいですね。

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