日本最大の美容口コミサイト「アットコスメ(@cosme)」を運営するアイスタイル は、日本の美容業界のDXをけん引してきた存在だ。1999年にスタートした「アットコスメ」は当時女性のインターネット使用率が一桁台だった時代に、化粧品に関する消費者情報をデータベース化し、企業のマーケティング活動を支援することを目的として設立。現在は月間アクティブユーザーが1320万人、登録ブランドが約3万9000あり、会員である20~30代女性の過半数が毎月利用するほどに成長した。2002年には「アットコスメショッピング」を立ち上げ、今では約4万2000のSKUを誇る日本最大の美容専門ECサイトにとして存在感を高める。昨年は百貨店を中心に扱われるデパコスやドラッグストア・バラエティーショップストアで販売されるプチプラコスメ などさまざまなブランドを扱う旗艦店「アットコスメトーキョー」を原宿にオープン。アットコスメと連動させ、チャネルの垣根を超えた新たな形態のショップとして大きな話題を集めた。これまで同社はメディア、小売り、マーケティングサポートなどさまざまな事業を国内外で展開し美容業界をリードしてきた。そんなアイスタイルの吉松徹郎社長兼最高経営責任者(CEO)を、次世代の業界リーダーをたたえる「WWD JAPAN NEXT LEADERS 2021」のアドバイザーとして迎え入れた。そこで「WWDジャパン」は、吉松社長が描くリーダー像や美容業界の課題などについて聞いた。
WWD:吉松社長が思い描くリーダー像を教えてください。
吉松徹朗アイスタイル社長兼CEO(以下、吉松):ユーザーのニーズや課題にプロダクトで応えるのは素晴らしいことだけれど、製品軸で課題を解決する企業や人は今後もたくさん台頭するだろう。リーダーはどちらかというと、製品で課題を解決するより、業界の構造や仕組みを変えるような人だと思う。あとは、オピニオンリーダーかな。サービスや製品を持たなくとも、課題に対するオピニオンを持ち、人を動かすような人。パッションがある人、生き方自体にグッとくる人は業界をリードするようなポテンシャルがあると思う。
WWD:リーダーに必要なものは?
吉松:視座の高さ。目の前の課題だけでなく、業界全体の仕組みそのものをもっと広い視野で見れる力が必要だ。また、先ほどのオピニオンリーダーの話とかぶるが、しっかり意見を持つことも大事。両方を兼ね備える人は周りを動かす力を持っているし、人も集まる。よく「共感を呼ぶことが大事」ともいわれるけど、「そうだよね」と思われるだけでは意味がない。やはり「こうあるべき」「こう思う」と断言できる強い意志が持てないと、リーダーにはなれないだろう。
WWD:ご自身も視座の高さを意識している?
吉松:常に意識している。視座をどのように変えるか、それ次第で新たなビジネスのきっかけになるかもしれないし。当社でいうと、昔はつい化粧品中心でビジネスを考えることが多かった。でも実際のユーザーは、化粧品を使う延長線できれいになりたいと思うから、美容家電も使えば、クリニックもサロンでも美を追求する。コスメだけでなく、あらゆる美容アイテム・サービスをシームレスに使っている。だから化粧品中心ではなく、生活者中心に視点を変えた。そこから新たなサービスなどいろいろ着手するようになった。社内のスタッフからは急に「化粧品ではない、ほかことやるの?」と思われたりしたが、化粧品軸で考えると「ほかのこと」だが、生活者視点で考えるとそうでもなく、実はわれわれがずっと追求してきたものの延長線上にあった。
WWD:視座を変えるにはどうしたら良いのか。
吉松:基本的には自分の力で変えていくのと、ほかの人のきっかけをもらうのと、両方必要だと思う。ほかの人に言われたことをただ聞くだけでなく、その言葉で自分の視座を上げられるように、自らの努力も必要。想像力や、思考力も問われるだろう。
WWD:ご自身がリーダーとして影響を受けたり、憧れていた人はいる?
吉松:“憧れの人”はいないが、隣の業界のライバルや友人からはいつも刺激を受ける。オイシックスの高島宏平社長もそうだし、グリーの田中良和社長、ビジョナルの南壮一郎社長もそうかもしれない。
最近改めて思うのは、リーダーとしての在り方がすごく難しい時代になってきていること。例えば、アップル(APPLE)のスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)やアマゾン(AMAZON)のジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)らは、圧倒的な“わがままリーダー”で日本だと間違いなく(パワハラなどで)会社から追い出されるタイプ(笑)。 わがままでも走り続けられるカルチャーなり、それを許容する組織なり、日本にはなかなかない。実現可能かどうかは別として、とりあえず果敢に挑戦してみるチャレンジ精神だとか、ビジョンをかなえるための行動力だとか、ミッションのための献身性とかで動く組織は羨ましい。
そういう意味ではジョブスとベゾスは二人とも注目するリーダー。ジョブスはかつて、社員が一生懸命作ったiPhoneのプロトタイプを水に沈ませて(それが故障すると)、「まだ全然ダメじゃん!」と全否定して、一から作り直したとか。有名な話だが、それってなかなかの強さがないとできないこと。今はパワハラといわれるかもしれないが、彼はユーザーのことを徹底的に考えていたからやったことだった。
WWD:日本のビューティ業界の課題をどう見ている?
吉松:一番大きいのは世界を見据えたビジョン。海外にはブランドを買っては成長させ て、最後は売却するインキュベーターとしての役割を果たす企業が多いけれど、日系企業の多くはブランドを手放すことがなかなかできない。そういう意味では先日「ツバキ(TSUBAKI)」などを売却した資生堂の魚谷雅彦社長はまさにリーダーだと感じた。また日本のビューティ業界は小さいし、集まってくる人も例えば金融とかNPO系とかと全然違う。貧困や差別など社会課題って人の共感を集めやすいし、それこそNPOにはオピニオンリーダーが入りやすい。でも本当はビューティだって人の生活を豊かにするものだから、もっと頑張ればグローバルレベルでもっと豊かに生きられる世界を作れると思う。本来は世界で戦える、世界にインパクトを与えられる業界なはずだ。
WWD:次世代に期待することは?
吉松:次世代には本当に期待している。僕らの世代は長時間勤務し会社に貢献することが美徳と考える一世代上の影響を受けざるを得なかった。特に新卒入社した90年代はバブルがはじけ、ひたすら右肩下がりだったこともあって。でも今は起業する人も多いし、いろいろ自由だから、ルールを変えるということを期待しているかな。個人的に一番それが進んだのは、音楽業界だと思っていて。昔はレコード会社や作曲家が力を握っていたけれど、今はそんなこと関係なくボーカロイドで作られた曲が良ければユーザーがダイレクトに評価して、ビジネスとしてやっていけちゃう。
ビューティ業界はリアル店舗が多く、コロナ禍で打撃を受けているケースが少なくない。しかしこれを機にDXが推進され、この2年ぐらいでいろいろ変わるだろうし、変革のチャンスはあると信じている。