名古屋のファッションとヘアの複合ショップ、ユルク(jurk)が面白い。2019年4月にヘアサロンとして開業すると、20年8月に1階にヘアサロン、3階にセレクトショップを構える複合店として移転オープンした。東京のデザイナーズブランド「ミューラル(MURRAL)」とコラボレーションし、21年3月に開催したポップアップは盛況だった。4月1日にはネイルサロンもオープン予定と、勢いがある。
得意とするハイトーンカラーのヘアでナチュラルからモードの客層のニーズを掴み、新しいヘアに合ったファッションやメイク、ネイルまでトータルで提案する。さらにインスタグラムで9万人以上のフォロワーを抱えるプレスマネジャー兼バイヤーの新美歩ら、SNSでフォロワーを多く抱えるスタッフも多く在籍し、高い発信力も強みだ。
またユルクはアパレル業態の立ち上げを前提に開業しており、ヘアサロンの物販の延長線でアパレルを扱ってないのが他とは異なる点だ。ショップ名、ユルクはオランダ語で“ドレス”を意味し、「ミューラル」のほか、「フミエ タナカ(FUMIE TANAKA)」「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」「マルテ(MARTE)」「ラインヴァンド(LEINWANDE)」などのファッションブランドのほか、「THREE」などのコスメもそろえる。その勢いの理由は何なのか、仕掛け人である沢井卓也オーナー兼クリエイティブ・ディレクターと、新美歩プレスマネジャー兼バイヤーに話を聞いた。
トータル提案ショップ誕生の背景
WWD:ヘアサロンを開いた経緯とユルクと名付けた理由は?
沢井卓也オーナー兼クリエイティブ・ディレクター(以下、沢井):12年ほど別のサロンで勤務した後に独立する形でオープンしました。約2年間の構想を経て、インスタグラムのフォロワーをコツコツ増やしながらビジュアルを撮り貯めていました。オランダ語で“ドレス”を意味するユルクにしたのは、ファッションをやるという目標から自分が逃げられないようにしたかったから。それと、パーティーに行く前にドレスアップするようなワクワク感のある状態でお客さまに帰っていただきたいという思いも込めてます。
WWD:元々ファッション業態をやるつもりだったということ?
沢井:独立時に、当時ショップスタッフとして働いていた新美さんと組むことは決めていて、僕から新美さんに服を任せられないかと依頼しました。それに、元々お客さまから服について聞かれることも多く、新しいヘアに似合う服を「このブランドでこういう服がこの価格帯で買えます」っておすすめしていました。それなら一カ所にそろえた方がいいと考えたのもアパレルを始めたきっかけの一つです。
WWD:2人はどう出会った?
新美歩プレスマネジャー兼バイヤー(以下、新美):もともと沢井さんの客だったんです。私もショップスタッフとしてファッションはずっと勉強してきたのですが、ファッションとヘアを関連させた提案をしている人に会ったのは沢井さんが初めてで、この人にヘアをお任せしたいと思い通ってました。独立のタイミングで「ファッションをやらないか」と提案をもらい、沢井さんとだったら絶対成功すると確信して決めました。ヘアサロンオープン時は、レセプションをしながら週一でショップスタッフのアルバイトをしていました。
WWD:新美さんはユルクの世界観を作り上げている印象だが、立ち上げ前からそのスタイルだった?
新美:いいえ、以前は全然こういうテイストではなくて、結構ゆるふわな格好もしてました(笑)。でもモードに憧れがあっ他ので、カッコよくなりたいと頑張って黒を着てみることもありました。でもなかなかうまくいかないのを解消してくれたのが沢井さんのヘアでした。
WWD:客はヘアサロン目的かショップ目的のどちらが多い?
新美:一緒に来てくれる人が多いです。サロンでヘアを整えた状態で3階に上り、新しいヘアに似合う服やコスメも見つけてもらい、次回サロン予約時にも再来店というサイクルができています。自分たちがヘアもファッションも大好きで、いいものを怠らずに発信しているから支持されているのだと思います。SNSの発信力とトータル提案の接客もあり、目的があって来店される方が多く、購買率も高いです。最近はSNSでショップから知り、ヘアサロンの案内する逆の流れも増えています。
沢井:「訪れたらオシャレになれる場所」として認識されていて、イメチェンを求めて来店する方が多いです。好みのスタイルやなりたいイメージについて入念にヒヤリングします。そこでヘアからファッションまでの仕上がりイメージし、「ファッションはこうなるからヘアはこのくらいで染めておこう」という対応をしています。
支持される秘訣は“飽きる”サイクル?
WWD:名古屋にはもともとユルクの世界観が受け入れられる土壌があったのか、それともユルクがその世界観の人を増やしているのか?
沢井:おそらくどちらもです。他にはこういった業態はないと思います。名古屋は、以前はコンサバティブなヘアを提案しないと美容師が生活ができないくらい保守的でした。ですがSNSが普及して情報が遠方まで届くようになったことで変化しました。それまでは東京で流行ったものが1、2年経って名古屋でも流行するという流れだったのが、トレンドが場所関係なく同時に発生するようになったので、“名古屋=コンサバ”というイメージは少なくなったと思います。首都圏に比べると人口は少ないですが、ユルクには東海エリアで提案性の強いヘアやファッションを探している人が集まってきてくれていると感じます。
WWD:4月1日に立ち上げるネイルサロンもトータル提案の一つ?
沢井:はい。ネイルサロンを立ち上げたいというよりも、ユルクのイメージに合うネイルを作り上げてくれるだろうという確信がある人から提案があり、だったらサポートしようという考えでスタートします。
WWD:ショップの世界観が全スタッフのインスタグラムを見ても定まっていて、ブランディングの強さを感じる。世界観をブラさず保つ秘訣は?
沢井:世界観をブラさないようにしているのではなく、実は少しずつ変わっているんです。“飽きる”サイクルをしっかり持っているのが大きいかもしれません。自分たちが作ったデザインに対して、まず最初に「これはもうちょっと違うかな」と飽きるんです(笑)。お客さまから「ちょうど次そういう感じが欲しかった」と思われるセンスでいられるように変わり続けています。トレンドを意識して、今自分が一番かわいいと思うものを毎月更新・提案している感覚を持っているのが店の強みかもしれません。
WWD:買い付けの基準は?
新美:ショップオープン時にそろえていたブランドは、もともとヘアサロンで衣装として使っていたブランドが多かったんです。それと、サロンを運営する中でお客様の服装を日々チェックし、どういうブランドがあったら喜んでくれるかを意識していました。今は自分たちがワクワクするアイテムを中心に買い付けています。
SNSの発信力の背景
WWD:フォロワーが多いスタッフが多く在籍するが、どのように見つけてきた?
沢井:フォロワーが多い人を選んだのではなく、皆徐々に増えていったんです。多い人で最初1500だったのが今は1万5000くらい。僕もユルクオープン時は1万ちょっとでしたが、今は4万ちょっといます。
WWD:新美さんはどのようにフォロワーを増やしたのか?
新美:ユルクのオープン前はサロンモデルもしたこともあり、フォロワーは6万いたのですが、ユルクをオープンしてからさらに3万ほど増え、今は9万ほどです。ヘアの参考にフォローをしてくれていた人が多かったところに、ファッション好きな方もフォローしてくれたのではないでしょうか。まめに更新し、商売になりすぎないように好きなものを楽しく投稿していたのも大きいかもしれません。でも自己満にせず、求められるものを発信するとフォロワーが増えていった実感があります。特に髪型を変えた投稿や、着用ブランドをたくさんの人に聞かれる投稿などがあると増えます。自分たちが着用して発信するのが一番リアルで伝わりやすいので、スタッフ個人の発信力を大事にしていて、スタッフの投稿のコンサル的なことをしています。投稿を見て「これちょっと違うかも。こうした方がいいんじゃない?」と思ったらその場でDMして教えます。
WWD:今後のお店の目標は?
新美:ヘアサロンとセレクトショップが一緒にあることが強みなので、一緒に成長していきたいです。個人的には、ヘアサロンとセレクトショップがワンフロアにあっても素敵だなと感じています。今はトートバッグを自社オリジナルで作っており、今後はオリジナル商品も増やしていきたいです。