デザイナーの藤田哲平率いる「サルバム(SULVAM)」が、2021-22年秋冬メンズ・コレクションを「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で披露した。同ブランドはパリ・メンズ・コレクションに18年から参加しており、東コレ参加は4年ぶり。会場の渋谷ヒカリエには多数の学生を招待した。藤田デザイナーは、「僕は(パンデミックによる)こういう状況がこれからも続くと思っている。いつかショーが無くなる日が来るかもしれない。その前に、若い世代にショーを体感して欲しかった」とショー開催の経緯を語った。
闇に差し込む光
パターンの面白さ際立つ
会場では、暗がりの中に無数のスポットライトを垂直に落とし、雲の隙間から光が差し込んだような空間を用意した。ヒップホップユニットCreepy Nutsの「生業」をBGMにショーがスタートすると、モデルたちが入場し、思うがままにウオーキングしていく。「決められた道なんてない。自分で作っていけばいい」という藤田デザイナーの思いを具現化したような演出だ。
1月にパリ・メンズで披露したアイテムを、スタイリングを組み直して発表した。「唯一の新作」という真っ赤なセットアップとツナギには、ショーを行う熱意と覚悟を込めたのだろうか。チェスターコートやテーラードジャケット、ワークジャケットは、ステッチを目立たせたり、ポケットの縁をあえて外したりと、脱構築的に遊びを効かせる。代名詞となった、ジャケットからはみ出す長めの裏地は軽やかになびき、躍動感を加える。ラウンドした身頃を何枚も重ねたジャケットと、身頃や袖を丸くくり抜いたニットなど、曲線を強調するアイテムも登場。要素をそぎ落とし、黒と赤のみストイックなカラーパレットに絞ったからこそ、体のラインを程よく拾ったり、逆に直線的に見せたりする持ち味のパターンの良さが際立つ。パタンナーとしてキャリアをスタートさせた藤田デザイナーの原点を感じさせるコレクションだった。
ショー終了後、藤田デザイナーがマイクを持ってステージに登壇し、ショーにかけた思いと若者へのメッセージを熱っぽく語った。「下を向いて欲しくないし、自分も前を向いていることを表現するために、このショーをやりました。若い人たちは何者かになりたくて、みんな焦ってると思う。俺もそうだった。でも、ゆっくり基本を磨いて、自分で道を作って行けばいい。スマートじゃなくていいんだよ。今はこんな状況でも、みんなが築く時代はもっといいものになる。それだけが伝えたかった。来てくれて本当にありがとう」。
招待されたある学生は「ショーを見て心が震えた。素材からパターン、カッティングなど服の要素全てを意識しないと、感情を掻き立てる服は作れないと実感した。今はテキスタイルデザインを学んでいる。他の分野にも興味を広げて頑張っていきたい」と感想を述べ、別の学生は「生まれて初めてショーを見ることができた。デザイナーから直接話も聞けて、とても刺激になった」と語った。藤田デザイナーの思いは、彼らの胸にしっかり届いていた。