WWD:これまでの「クロックス」をどのようなブランドだったと捉えている?
出倉成昌クロックス・ジャパンマーケティング部 部長:「クロックス」は2002年にボートシューズブランドとしてアメリカで生まれた。日本に上陸したのは恐らく05年で、その翌年には大ヒットした。恐らくみなさんが「クロックス」と聞いて思い浮かべるであろうサンダルは、“クロッグ”というカテゴリーに分類される。「クロックス」がクロッグの市場を新しく作ったという意味では、フットウエア界に多大な影響を与えたブランドだ。ただ、それにより類似品が多く出回ってしまったのも事実で、クロッグの中で価格競争が始まった。定価5000円の「クロックス」に対し安価な商品が次々と出てきて、その価格競争に負けて大きく低迷期に入った。そこから少し経って、クロッグ以外のフットウエアを発売したが、幅広く展開したことが結果的にブランドとしての差別化をどんどん不明瞭にしてしまった。一方で多くの日本の家庭には、それが「クロックス」だったかは別として、一足はあるので認知度は高い。
WWD:海外では米「コンプレックスコン(ComplexCon)」への出展やジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)とのコラボが記憶に新しい。日本ではどうか?
出倉:「クロックス」のトレンドの流れでいくと日本は間違いなく遅れている。アメリカでは14~15年に大きなリブランディングが行われた。その後、17年の「バレンシアガ(BALENCIAGA)」とのコラボを筆頭に、ヨーロッパではラグジュアリー領域、アメリカではストリート領域にブランドを露出していったことで、明らかに日本よりも早く復活した。
WWD:日本市場の「クロックス」に対して、どのような課題を感じているか?
出倉:正直たくさんあるが、まず、そもそもこれまではブランドとしての体を成していなかった。カテゴリーの中ではアイコン的な存在かも知れないが、まだ“クロッグ=クロックス”というレベルではない。「クロックス」を選んでもらうための付加価値や理由を明確に定義し、圧倒的なポジショニングを確立したい。認知の質も課題で、パーセプション(ブランドの印象)に関しては、かなり注意深く見ていく必要がある。クロッグの履き心地や使い勝手の良さに価値を感じて愛用くださっている人はもちろん大切にしながら、ブランドとしてはファッションやスタイルの文脈も持たせたい。その上で印象的なものにしていくことがこの先のブランドの成長を左右する。特にZ世代への訴求が重要になってくる。
WWD:その上でブランドとして何を発信していくか?
出倉:ブランドメッセージとして「COME AS YOU ARE」を掲げている。これは等身大の背中を押すようなブランドでありたいという意味。“履いたそのままでいい”“作り込まなくていい”というのは、数あるフットウエアブランドの中でも稀有なスタンスだと思う。自分なりの一足を表現してもらうツールとして、“ジビッツ”(クロッグをカスタムできるパーツ)を提案し、パーソナライズすることで自分の“好き”を表現してもらい、ブランドとしてその価値観を尊重したい。そういったことがリブランディングする上ですごく重要になるだろう。
WWD:現在の取扱先は?
出倉:広げ過ぎたものを刷新中なので具体的な数は追えていないが、ブランドとしてベストなプレゼンテーションができる売り場と、売り上げを作るための売り場を精査しているところ。自分たちが売りたいお客さまに、自分たちが売りたい値段でしっかり売る方針に変わりつつある。
WWD:改めて「クロックス」の強みは?
出倉:圧倒的な履き心地だ。もともとボートシューズ向けに作られていた背景もあるので、濡れた地面でも滑りにくい。手入れも簡単なので、汚れも洗い流せるし、機能面は非常に高い。医療従事者や飲食店向けの、プロシリーズ「クロックス アット ワーク」もある。それに加えてジビッツ。これらの強みをこれから“本物化”させていく。
WWD:具体的な施策は?
出倉:まずは驚かせた上で喜んでもらえるようなアクティベーションをどんどん仕掛ける。例えば、年明けに発売したタイダイ柄のコレクションでは、とんだ林蘭さんをキャンペーンビジュアルに起用し彼女の私服に合わせたビジュアルを公開した。これまでになかった見せ方を試していきたい。もう一つは、Z世代に向けた認知度の強化だ。感度の高いお客さまと相性の良い小売店と組み、首都圏を中心としたキャンペーンを打つ。コラボレーションも武器になる。過去に「ケンタッキー」とコラボした際には実際のサンダルにフライドチキンの香りを仕込んだり、ニコール・マクラフリン(Nicole McLaughlin)とのコラボではライトやコンパス、バンジーコードなど、キャンプで使える小物をクロッグ全体に装着したりした。自由度は非常に高い。
WWD:改めて、これからの「クロックス」をどう変えていく?
出倉:冒頭で話した数ある問題点を全て突破しなければならないが、まず、ブランドのポジションニングをはっきりさせたい。「クロックス」は過去にアメリカで“アグリー(醜い)”と揶揄されることがあったり、最近では“Love to Hate”みたいな言葉も使われている。だったらそういったブランドになろう、と。嫌われないように無理してコミュニケーションするのではなく、好きだけど嫌い、ちょっと憎たらしい、どこかツッコミたくなるようなブランドになりたい。例えば一般的な女性が平日にハイヒールなどの綺麗な靴を履いて勤務されているとする。「クロックス」はハイヒールと勝負したいわけではなく、週末のなんでもないときに、スッピンで近くのコンビニに行くためにサラッと履いてもらえるような靴。そのときの靴は間違いなく「クロックス」であって欲しい。「クロックス」にしかできない強みはきっとそこだと思うので、その価値を伝えていきたい。