月刊誌「WWDビューティ」には、美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事は月刊WWDビューティ2021年3月号からの抜粋です)
恥ずかしながら、私は長い間ヘアサロンに行っていない。もう昔の話だが、何件試しても自分が思ったような仕上がりにはならなかったから。今ではありえないことだが、あるとき言われたのは「お客さまが望んでいらっしゃる髪形はサロンではできません。パーマが取れかかった状態でないと、そういうニュアンスは出ないのです」。だからサロンに託すのを諦めたのだ。ウェービィロングだから成立する話だが、その後はずっと“自分で適当に切って適当に巻く”を繰り返してきた。自分が欲しいニュアンスを求めて。
だから改めて思う。スタイリングの命はやはり“ニュアンス”。簡単そうに聞こえても、最大級の感性と技術を必要とし、客との齟齬もそこに生まれる。そもそも料理家とヘアメイクアーティストは“人間の欲望に応える芸術家”。料理は鍋と皿をキャンバスに、ヘアメイクは髪と顔をキャンバスに、個々のクライアントの、食べたい、きれいになりたいに応え、感動させる仕事だが、とりわけへアスタイリストは「ニュアンスの芸術家」なのだと思う。昔は感性があっても、テクノロジーがついてこなかったが、今はいかなるニュアンスも完全に表現できる。基本「おまかせ」の受け身の客はもちろん、理想のニュアンスにわずかも妥協しない厄介な客も感動させる仕事。今は、Yahoo! beautyのヘアカタログなどで“作者”に直接オーダーできるわけで、これまで写真や言葉で必死に伝えてきたニュアンスが、レストランのメニューのように99%の確率で再現される、なんとすごい時代なのだろう。
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