「シアタープロダクツ」はこのほど、京都・亀岡市と連携し、パラグライダーの生地をアップサイクルしてバッグを作る新たなファッション事業「ホズバッグ(HOZUBAG)」を立ち上げた。2019年に亀岡市の駅前で、廃棄されるパラグライダーの生地をつなぎ合わせた巨大なバッグをクレーンで吊るすパフォーマンスを行って以来、つながりを深めている。このパフォーマンスは、SDGsに取り組む“SDGs未来都市”の認定を受けた亀岡で環境先進都市としての多様な取り組みが始まることを周知する目的で行われた。クリエーションの力で長期的な課題解決を目指す武内昭「シアタープロダクツ」デザイナーに話を聞いた。
WWD:亀岡市と取り組むことになった経緯は?
WWD:市民からはどんな反応が?
武内:想像を超える反響で、幅広い年齢層の方に参加していただきました。イベントの成功に背中を押され、一度きりではなく本質的な問題解決のために事業化を目指したプロジェクトを提案し、誕生したのが「ホズバッグ」です。
武内:最初はパリで展示会を開催しました。「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」の「私たちにできる身近な取り組みを国内外の他都市とも連携し、湧き上がるような大きな流れを巻き起こしていかなければ」という一文に共感し、「ホズバッグ」で実践したいと思ったんです。すると、パリの名門ギャラリー「イヴォン・ランベール(YVON LAMBERT)」の方が気に入ってくださり、会期中に全て買い取ってくれました。亀岡生まれのブランドが、パリで販売を開始という状況にとてもワクワクし、「ホズバッグ」の可能性を感じました。商品は1カ月で完売しました。国内では20年から販売し、現在生産が追い付かないような状況です。
WWD:「ホズバッグ」の何が共感を呼んだ?
武内:まずファッションとしての価値が一番でしょう。そこから興味を持って、商品に触れ、背景を知ることでさらに価値を感じられる構造が上手く機能したと思います。今後は亀岡市内に工場を作り、独立したブランドとして展開します。
日本環境設計との出会いで地下資源に頼らない未来を目指す
武内:残布で製品を作ったり、既存のプリント版を再利用したりといった、資源を無駄にしないデザインは当初から自然と実践していました。サステナビリティを強く意識するようになったのは、2017年頃に日本環境設計の岩元美智彦会長にお会いして以来です。
WWD:同社の「ブリング(BRING)」プロジェクトは古着をリサイクルして新たな製品を作る循環型の仕組みを確立した。
武内:石油などの地下資源に頼らない未来を目指せることに感銘を受け、以来「ブリング」のディレクションを担当しています。ニューヨーク・ファッション・ウィークで発表したリサイクルできるドレスは同社との取り組みで実現したものです。その後、バンダイスピリッツ(BANDAI SPIRITS)とコラボして、プラモデルの成形中に生じる端材などを再利用したアクセサリーなども販売しました。会社としてもサステナビリティの取り組みを進めていて、「SDGs事業認定」を取得しました。環境や社会への貢献が、ブランドの付加価値を高めると実感しています。
WWD:会社としてはどんな取り組みを?
武内:ほとんどの商品においてカーボンオフセットが実現できそうな段階です。とは言え、本音はまだまだ課題ばかり。まずは自分の襟を正すことが先決ですから、社内のプラスチック使用量の削減など、できることから取り組んでいます。
環境問題は課題が山積だからこそクリエーションが進む
武内:業界が抱える問題を掘り下げると絶望的な気持ちになりますが、僕は課題意識よりも、資源を循環させた未来というポジティブなところに興味を持ちました。僕のデザインする思考と、資源を循環させることの相性が良かったんだと思います。
WWD:サステナビリティがクリエーションを制限するという意見もあるが?
武内:逆に条件があるほどクリエーションは進むと思います。デザインは、さまざまな課題をどう解決するかという作業です。環境問題は山積だからこそ、クリエーションが生まれる可能性を感じます。
WWD:亀岡市との取り組みでは、クリエイティビティやデザイン力そのものが求められた。
WWD:これからのデザイナーに求められる技術や知識とは?
武内:ファッションは経済活動と社会・環境問題の解決を比較的結び付けやすい分野です。デザイナーはその双方を解決する役割を担うのではないでしょうか。今ある資源に限りがあることを知ると、得るべき技術や知識は変ります。最終的に問題を解決するのはテクノロジーですが、解決策が見つかるまでの間はクリエイティビティを駆使して答えを模索すること。それが今後のデザイナーの役割だと思います。