中国の新疆ウイグル自治区で生産されたコットンの調達を中止したH&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ以下、H&M)が、中国側からの激しい反発に合っている。
3月24日夜(現地時間)の時点で、中国最大手EC企業のアリババ(ALIBABA)が運営するECサイト「Tモール(TMALL)」や「タオバオ(淘宝)」のほか、同第2位のEC企業JDドットコム(JD.COM)や同第3位のEC企業ピンデュオデュオ(拼多多、PINDUODUO)が運営するECサイトなどから「H&M」の商品が姿を消した。これらのプラットフォームで同ブランドを検索しても、結果はゼロとなっている。また「H&M」のモバイルアプリも、中国の大手アプリストアなどから削除されているという。
こうした措置が一時的なものなのか、恒久的なものなのかは不明だが、現在のところ中国国内にある「H&M」の店舗は通常通り営業している模様だ。しかし中国企業によるナビゲーションシステム上では、同ブランドの店舗情報が表示されなくなっている。
H&Mが、中国による少数民族ウイグル人への強制労働問題などが報じられたことを受け、新疆ウイグル自治区に工場を持つ中国企業との取引停止や、同自治区で生産された綿花の調達の中止などを発表したのは2020年9月のこと。しかし3月24日に、中国共産党の青年組織である中国共産主義青年団が、中国版ツイッターのウェイボー(Weibo)に「新疆綿について虚偽のうわさを流してボイコットしておきながら、中国で儲けようだって?それは甘い考えだ」とH&Mの声明とともに投稿したことが、今回の対応のきっかけになったと見られている。
H&M中国法人は24日夜、「H&Mグループはグローバルなサプライチェーンを常に透明かつオープンに管理してきており、経済協力開発機構(OECD)による『責任ある企業行動に関するガイドライン』など、当グループが掲げるサステナビリティに関するコミットメントに世界中のサプライヤーが準じることを確かにしている。われわれは、いかなる政治的立場も代表しない」との声明をウェイボーに投稿した。
なお、中国における「H&M」のブランドアンバサダーを務めていた中国出身の俳優ホアン・シュアン(Huang Xuan)とビクトリア・ソング(Victoria Song)は、「中国の信用を傷つけようとする全ての試みに断固として反対する」として、同ブランドとの契約を解除したことを発表した。
新疆綿の使用中止を発表しているほかの企業としては、「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」や「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」などを擁するPVHコープ(PVH CORP)、「ザラ(ZARA)」を擁するインディテックス(INDITEX)、ナイキ(NIKE)、アディダス(ADIDAS)、ギャップ(GAP)、パタゴニア(PATAGONIA)、「ユニクロ(UNIQLO)」や「ジーユー(GU)」を運営するファーストリテイリングなどが挙げられる。中国ではこれらの企業に対しても反発が広がっており、ブランドアンバサダーを務める中国の芸能人らの降板が相次いでいる。
株価にも影響が出ており、3月25日の香港証券取引所では中国のスポーツウエアブランドなどの株価が上昇する一方で、アディダスは前日比5.7%安、ナイキは同3.4%安、H&Mは同1.8%安だった。
近年、消費者の意識の高まりなどによって企業は責任ある行動をいっそう求められるようになっており、ファッション業界も環境および社会的な問題に取り組んでいるが、その中には強制労働や低賃金での労働といった人権問題も含まれている。しかし多くの企業にとって、コロナ禍の影響からも一足早く回復している中国の巨大な消費市場は非常に重要な存在だ。厳しい小売環境の中、各社は難しい舵取りを迫られている。