ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS、以下UA)がオウンドメディアを強化している。2015年にCSRの取り組みを発信するため「ヒトとモノとウツワ」を立ち上げ、20年10月にはメンズの「アイディアズ(IDEAS)」を、21年2月にはビューティ&ユース ユナイテッドアローズ(BEAUTY & YOUTH UNITED ARROWS)の「ピープル(PEOPLE)」を開設。「アイディアズ」はECとは連動させているものの、主に食やアート、旅などの知識を紹介するコンテンツを充実させている。まずは月間UU5万を目指し、将来的には10万に成長させる計画だ。各社がEC売上高や販売比率の強化を掲げる中で、“売るだけではない”メディアに挑む理由とは。UAの松本真哉クリエイティブディレクターと、「アイディアズ」「ピープル」のコンテンツを統括する制作会社コンタクト(kontakt)の川島拓人クリエイティブディレクターに聞いた。
商品の向こう側にある生活感を伝えたい
WWDジャパン(以下、WWD):メンズに特化したオウンドメディアとして「アイディアズ」を立ち上げた理由は?
松本真哉UAクリエイティブディレクター(以下、松本):現在UAのメンズの方向性を変えていこうとしており、新しい男性像を表現するために立ち上げました。われわれはスーツ屋というイメージが強い。でもこれからはウンチクで服を選ぶのではなく、ライフスタイルに合わせて服を選び、生活感が香るイメージに変えていきたい。その男性像を表現するために「アイディアズ」を立ち上げました。今までもECサイトはありましたが、買い場でのコミュニケーションしかなかったので。
川島拓人コンタクト クリエイティブディレクター(以下、川島):最初はオウンドメディアを作りたいという依頼ではなく、UAの新しい男性像をもっと顧客に伝えたいと相談を受けました。話し合いを続けていく中で、オウンドメディアを作ろうということになったんです。メンズの文脈だと、どうしてもモノ作りや商品の細部の紹介になりがちなので、商品の向こう側にある生活感を伝えていこうという方向性になりました。
WWD:UAの新しい男性像とは、どんなイメージ?
松本:簡単に言うと、ファッションが一番前に来る人ではありません。これまではまずファッションから組み立てていくのが当たり前でしたが、これからは食やアートなどのクリエイティブな趣味も並列に並んでいる男性が理想です。かといって何にでも詳しい文化人ではなく、日々のアイデアを軽快に楽しんでいる人というイメージでしょうか。
川島:「アイディアズ」というタイトルにしたのも、情報ではなく知識を提案するメディアにしたかったからです。松浦弥太郎さんと打ち合わせをしているときに「ただおいしい肉を食べに行くだけではなく、肉を食べながらシェフと話して、どうすれば自宅でもおいしいお肉を焼けるのかという知識を得るためにお金を払うのが今の時代観」という話を聞いて、その通りだなと。だから「アイディアズ」でも、サラダを食べるときにこういう服を着ていたらパジャマよりおいしく感じませんか?という知識を共有していきたいんです。
「将来的にはビジネスとして成立させる」
WWD:ECでいかに服を売っていくかで各社が試行錯誤する中、珍しいアプローチでは?
川島:最終的には商品情報にリンクはしているのですが、これまで“ファッション”のイメージが強かったUAがこういう試みをしているのが新しいと思うんです。今のメディアはスタイルサンプルを提案して、これが正解ですという情報を発信するところがほとんど。でも僕たちはもっと自分たちで考えることができる。特にUAの顧客は社会性もあって品質も理解している方々なので、正解ではなく知識を提供できたら、さらに人生が楽しくなるのではという思いも込めています。このサラダのときはこのスエットが合う、みたいに多少強引でも(笑)、そのリンクのさせ方が「アイディアズ」のキーポイントなんです。
松本:服がメインではないですが、最初は服も含めたコンテンツを想定していました。でも服以外の方向にもどんどん興味が向いていき、これからもさらにあらゆるジャンルに拡張していくかもしれません。ただ、決して「アイディアズ」で服が売れなくてもいいと思っているわけではないんです。今は服を売るためにファッションだけやっていてもダメなので、中長期的に見て先手を打っているつもりです。将来的にはビジネスとして成立するメディアになると考えています。
WWD:サイトの開設以降、反響は?
松本:「サラダの記事見たよ」とか「クリスマスケーキの記事良かった」という周囲からの反響とともに、商品も少しずつ売れています。こういう購買体験をもっと増やしていくのが理想です。3月にはファッションに特化したコンテンツも公開しましたが、あくまで良質なアイデアの延長線上にあるファッションという軸はブラしたくないですね。
川島:記事への反応を見て、UAに来る人たちが何に興味を持っているのかを情報収拾しているところです。サラダの記事の反応がよければ、次はサラダに関わる何かをやろうと徐々にブラッシュアップしていきたいです。もちろん新規の方々に届けたい気持ちはありますが、まずは現在の顧客の興味関心を探っています。
「これほど恵まれた条件って実はあまりない」
WWD:今後計画している施策は?
松本:われわれの強みであるフィジカルの場を生かして、店頭でのイベントも開きたいと考えています。そこには服だけではなく、食材や別注のお酒が並ぶライフスタイルに関するもの。ファッション以外の商材を紹介するのはUAでは珍しいので、そういう場としても活用していきたいです。そのためには、まず「アイディアズ」という名前をアイコン化していくことからですね。
川島:いちオウンドメディアで終わらせるつもりは全然ありません。フィジカルのイベントだったり、企業との取り組みだったり、本当のメディアのような機能を持たせることだってできます。別注商品を作ってレーベルのような役割も担える。顧客=読者だと考えると、これほど恵まれた条件って実はあまりないと思うんです。
松本:理想は、UAというフィルターなしでも読者が見てくれるメディアにしたいです。フッターを見て、「実はUAがやっていたんだ」と気づかれるぐらいになればいいですね。結果的にはブランド力のアピールにもなりますから。目標のUU数はありますけど、このメディアを好きになってくれて、共感してくれた人に合わせてどんどん進化させていきたいです。新規顧客の開拓にもきっとつながっていくはずですから。
川島:これから認知度を高めていくためのメール配信やSNSなどを考えないといけないのですが、複数のあるメディアの1つではなく、「アイディアズ」流のやり方でムードがしっかり伝わるように拡散したいですね。それとコンテンツ一つ一つも、ずっと読み続けてもらえるように大事にしていきたいんです。ビジュアルやテキストはもちろん、いつ記事を見ても商品が買えるように関連商品を小まめに入れ替えるなど、細かな親切さにはこだわり続けていきたいです。