「WWDジャパン ネクストリーダー2021」でアドバイザーを務めるパルコの泉水隆常務執行役員は、2019年にオープンした新生・渋谷パルコをファッション、アート&カルチャー、エンターテインメント、フード、テクノロジーを文字通りミックスした構成にするなど、従来の枠組みにとらわれない斬新なアイデアを形にした人物だ。直近では心斎橋パルコも陣頭指揮した。先を見据えるその千里眼で、次世代のネクストリーダーに必要な資質を語った。
WWD:ネクストリーダーの資質とは?
泉水隆パルコ常務執行役員(以下、泉水):大きくは5つある。①インターナショナル、②アート・カルチャー思考、③コミュニケーション能力、④SDGs、⑤ITリテラシー。月並だけど、この5つを挙げさせていただく。
WWD:インターナショナルとは、海外で勝負するということか?
泉水:世界に打って出ることが必ず必要だ。例えば韓国をみると、ファッションマーケットは日本の半分以下。韓国国内だけではビジネスが成立しないから、デザイナーらは当たり前にECを立ち上げ海外でも販売しているし、上海の展示会にも出展している。K-ポップを見ても良く分かる。アジアのみならず欧米までを見据えた戦略で、BTSなんかはビルボードで1位を獲得している。日本はガラパゴス。日本国内だけでビジネスが成立してしまうから、コスモポリタン発想、国際的視野が弱い……。今はコロナ禍で海外へ行き来はできないけど、収束すればインターナショナルといったキーワードは出てくる。世界発想、コスモポリタン発想は必ず持っていないと。だから語学力はマストだと思う。
WWD:2つ目のアート・カルチャー思考は?
泉水:ネクストリーダーになりうる30代のデザイナーらと話しているとアートへの造詣が深いように思う。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の著者である山口周氏に当社の社内研修に登壇してもらい、マーケティングの予定調和ではなく感性に磨きをかけて勝負するアート経営が重要と言われ感銘を受けた。新生・渋谷パルコのプランニングにもつながっている。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」と村上隆など、業界としても以前からラグジュアリーとストリートアートの融合が行われているが、つまりファッションだけで勝負するのではなく、アート・カルチャーの付加価値があるかどうか。また、コロナを経て、よりアート・カルチャーへの希求が高まっているように思う。アート・カルチャー思考的なものは持っていた方が良いと思う。
WWD:3つ目のコミュニケーション能力は?
泉水:リーダーというのは部下をリードするのは当然だけど、次世代リーダーは、体制を打破する、既存勢力を突破する力を持っていることも重要だろう。それには、体制の人、目上の人をたらし込む“人たらし力”が必要だと思う。年を経てそういうのが分かってきた。伸びる人にお会いすると、いつもたらし込まれてしまう(笑)。リーダーの資質なんじゃないかな。
WWD:4つ目のSDGsは時代として重要なファクターだ。ファッション・ビューティのネクストリーダーが考えなければいけないSDGsとは?
泉水:持続可能な世界を実現させるためのSDGsはとても重要で、デザイナーを含めたファッション、ビューティ業界人も社会意識を持つべきだ。コロナ前にもリアルファーの使用廃止などにH&Mやケリング、ユニクロなどが取り組んでいたけど、コロナが収束すれば、よりサステナビリティに寄り添っていく事になるだろう。日本環境設計さんの再生素材を使ったブランド開発や、クルックさんと伊藤忠さんが行っているオーガニックコットンプロジャクト、山縣良和デザイナーの「ここのがっこう」など、環境に優しいとか、LGBTQとか、これからはマストになってくるだろう。
WWD:5つ目のITリテラシーとは?
泉水:言わずもがなだが、広告や生産などのビジネスの様々な場面でITを使うというのは自然な流れ。ITリテラシーは、ネクストリーダーにとって当たり前に必要だ。
WWD:次世代リーダーとして注目している世代はあるか?
泉水:注目しているのはZ世代が個性的でめちゃくちゃ面白い。例えば、1995年生まれの辻愛沙子さんは、日本生命と組んでワンコイン診療を実施したり社会意識が圧倒的に強い。03年生まれのグレタ・トゥンベリさんもそうだ。政治にも物申す世代だ。また、音楽の業界では、ユーチューブやTikTokが台頭したことも影響していると思うけど、既成の枠に囚われない新しい音楽を作る若者が出てきている。福岡出身の女の子だけど、メイク、ファッションをセルフプロデュースで英語で歌っている子や、スマホ1個でラップを作っている男の子とか。大流行している「うっせいわ」は2002年生まれの女の子の歌だ。そういうのを聞いていて、音楽業界で起こっていることが、ファッション業界でも起きてこないかなと思う。もしかしたらすでに起きているかもしれないけど、大人のわれわれはキャッチできていないだけかもしれない……。
WWD:Z世代を理解し、体制側の人々を“たらしこめる”人がネクストリーダーになれるのか?
泉水:声を上げるZ世代は影響力が大きいと思うけど、ただ洋服は買わないし限られた消費しかしない世代。この子たちをターゲットに、どんな商売をしていくのかという課題がある。別件だが、新しいビジネスとして、ある企業家の方にお会いした。アパレルから余剰在庫を買い取って、メルカリ等で販売する一般人とマッチングするプラットフォーム。個人プレーヤーが商売相手だ。ブランドとしても2次流通だけど、個人が値付けするから価格が下がっても平気で、そこで売れることでブランド価値が上がるから良しとしている。メルカリがなかったら存在しなかった商売形態でとても面白い。
WWD:ユーチューバーも、アパレルから在庫を買い取って自分のユーチューブで売っている。そんなネクストリーダーが台頭してきているが、泉水さんがネクストリーダーだったころ、30代は何を考えていたか?
泉水:ちょうど課長だったころだ。30代は何も考えずにがむしゃらに仕事をしていたと思う。90年代になってフレンチカジュアルブームで渋谷パルコパート3ではそういった服を集めて超売れた。一方でライバルの渋谷109はフレンチカジュアルファッションは取り扱わずキツそうだった。その中で「ラブボート(LOVE BOAT)」などが出現し、渋谷ギャルカルチャーを創出して人気を集め黄金期を築いた。その時にはわれわれが手がけていたフレンチカジュアルは低迷していった。ファッションには流れがあるんだと身を持って分かったし、流れを掴まないといけない、掴むためにはアンテナを張ってないといけないと思った。
WWD:現在のコロナ禍でのファッションの流れは?
泉水:コロナ禍でも売れているのはラグジュアリーだ。前年を超えて好調の「ロエベ(LOEWE)」や「エルメス(HERMES)」などから思うのが、クラフトワークに造形が深かったり、アート思考が強かったりすることだ。ファッションだけの力では売れなくて、アートの文脈があるから売れている。そういう流れなんだろうなと思う。
WWD:パルコに導入するブランドに基準はあるのか?目を引くブランドとは?
泉水:具体的には言えないが、モノも見るが、人も見る。昔、他のファッションビルの名物幹部が導入したブランドの有名な話だが、商品を見たスタッフさんたちは導入に反対したが、「モノじゃなく人を見ろ」と言って人物にフォーカスしてブランド導入し、一大人気ブランドになった。モノも人が作っているということ。私自身は、影響されるのが嫌で競合施設の視察はしないけど、普段からモノ・服を見るのと同時に来店している人を見ている。イベントでもどういった人が集まっているか、それを見ている。
WWD:今、パルコがやるべきことは?
泉水:それでいうと人材育成、教育をやってこなかったことを反省している。言い訳できるとすれば、われわれの世代は先輩の背中を見て覚えていた。だからスタッフさんは教えずとも見て覚えてくれていると思っていた。でも実際は、ゆとり教育世代とかは覚えてくれないスタッフが多かった。「教える」という意識を持って教育することが大事で、オンザジョブトレーニングの重要性を痛感している。現在、18店舗あるパルコはそれぞれに違う戦略で動いていて、マニュアルがない。だからこそ「こうするんだよ」と個々に教えていく必要がある。
WWD:パルコの中で、ネクストリーダーと考えられる人物は?
泉水:あえて渋谷パルコのスタッフで30代の吉井君を挙げさせていただく。努力家でありファッションに対して愛がある。この2つが掛け合わさってさらにコミュ力も持っている。これが重要だ。
WWD:今後の方針は?
泉水:コロナの流行によりさまざまなことが停滞してしまった。まだ終息したわけではなくリスクはあるが、ワクチン接種も始まったし、人に会っていきたい。人に会いコミュニケーションすることが非常に大切で、我々の生命線だということを痛感したので。