ラグジュアリーECのファーフェッチ(FARFETCH)の2020年12月通期決算は、商品取扱高(GMV)が前期比48.9%増の31億8701万ドル(約3473億円)、売上高は同63.9%増の16億7392万ドル(約1824億円)、調整後EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)は前期から7394万ドル(約80億円)改善して4743万ドル(約51億円)の赤字に、純損失は前期の3億7368万ドル(約407億円)の赤字から大幅に悪化して33億3307万ドル(約3633億円)となった。
20年10~12月期(第4四半期)で見ると、GMVは前年同期比42.8%増の10億5699万ドル(約1152億円)、売上高は同41.3%増の5億4010万ドル(約588億円)、調整後EBITDAは前年同期の1792万ドル(約19億円)の赤字から1037万ドル(約11億円)の黒字に、純損失は前年同期の1億1012万ドル(約120億円)の赤字からやはり大幅に悪化して22億8103万ドル(約2486億円)となった。20年7~9月期(第3四半期)の売上高が同71.3%増だったことを踏まえると、値引きを減らしたことなどによって成長率は鈍化しているものの、四半期ベースで調整後EBITDAが黒字になったのは今回が初めてだ。
なお、純損失が大きく膨らんでいる理由として、同社の株価が高騰していることが挙げられる。20年4月2日には6.84ドル(約745円)だったが、20年7~9月期(第3四半期)決算を発表した翌日の11月13日には45.67ドル(約4978円)を付けるなどしており、第4四半期には資金調達のために発行した転換社債の公正価格の変動などによる負債が18億9060万ドル(約2060億円)発生したことが影響している。
ジョゼ・ネヴェス(Jose Neves)会長兼最高経営責任者(CEO)は、「20年は当社のプラットフォームが試される年となったが、高度な機能性と運営力によってラグジュアリーECにおけるリーディングカンパニーとしての地位を確固たるものにできた。また戦略的なパートナーシップ契約を締結しており、ラグジュアリー業界のプラットフォームとしてさらに発展できるものと確信している」と語った。
この“戦略的パートナーシップ契約”とは、同社が中国最大手EC企業のアリババ(ALIBABA)、そして「カルティエ(CARTIER)」などを擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)と11月5日に締結した契約を指している。アリババとリシュモンはファーフェッチに3億ドル(約327億円)ずつ出資したほか、ファーフェッチが新たに設立した合弁会社ファーフェッチ・チャイナ(FARFETCH CHINA)に2億5000万ドル(約272億円)ずつ出資して、合計25%の株式を取得している。またこの協業とは別に、「グッチ(GUCCI)」などを擁するケリング(KERING)のフランソワ・アンリ・ピノー(Francois Henri Pinault)会長兼CEO一族のプライベートな投資会社アルテミス(ARTEMIS)は、ファーフェッチに対する既存の出資に加えて、新たに5000万ドル(約54億円)の出資をしている。
提携の一環として、ファーフェッチは3月1日、アリババが運営する高級品に特化したEC「ラグジュアリー・パビリオン(LUXURY PAVILION)」、同アウトレット専用プラットフォーム「ラグジュアリー ソーホー(LUXURY SOHO)」、同越境ECサイト「Tモールグローバル(TMALL GLOBAL)」に、ラグジュアリー専門のショッピングチャネルを開設した。これにより、ファーフェッチに出店するブランドはアリババが抱えるおよそ7億6000万のユーザーにリーチできるようになった。
ネヴェス会長兼CEOは、「『ファーフェッチ』では約3500のブランドを取り扱っているが、その95%は『Tモール』に出店しておらず、中国でECを展開していなかった。それが7億以上ものユーザーを抱える世界最大のECプラットフォームに出店できることにとても興奮している。コロナ以前にはミラノ、パリ、ニューヨークなどで買い物をしていた中国の消費者にとっても、楽しい買い物体験となるだろう」と述べた。
一方で、同氏はマーケティングなどの重要性も指摘。「アリババが運営する『Tモール』などのチャネルは、アマゾン(AMAZON)にグーグル(GOOGLE)とインスタグラム(Instagram)を組み合わせたような、巨大なプラットフォームだ。ただ出店しただけではトラフィック増は見込めないので、広告やマーケティングに投資する必要がある。当社としても、最初から大成功できるとは思っていない。トライアンドエラーを繰り返し、さまざまなことを学ばなくてはならないので、多くの人が想像するよりもゆるやかなペースで成長していくものと考えている」と説明した。なお、ファーフェッチは中国本土に約500人から成るチームを置いている。
ネヴェス会長兼CEOは、ECは今後も伸び続けるものの、小売業界の売り上げ全体の35%程度にとどまり、65%は実店舗によるものになると予測しているという。そうした店舗でのデジタル化を推し進めるべく、ファーフェッチは19年から「シャネル(CHANEL)」と協業し、「未来のブティック(Boutique of Tomorrow)」プロジェクトを行っている。これは販売員用と顧客用の2種類のアプリ、そして試着室に置かれた“コネクテッド・ミラー”を使用して顧客ごとのパーソナル接客を目指すというもので、パリのカンボン通りにある「シャネル」本店の近くに建つ新旗艦店などで導入されている。
同氏は、「当社のビジョンは、業界のオペレーティングシステム(OS)となること。テクノロジー部分を担うパートナーとなることで、ファッション業界の発展をサポートできると考えている。最も重要な問いかけは、『5~10年後、人々はどのようにしてラグジュアリーブランドで買い物をするだろう?』というもので、それ以外は些末なことに過ぎない」と話した。
中国市場での事業拡大に当たり、欧州のラグジュアリーコングロマリット2強と提携するというウルトラCを成し遂げたファーフェッチが、次に目を向けているのがビューティ市場だ。同社のステファニー・フェア(Stephanie Phair)最高顧客責任者は、「顧客は当社のプラットフォーム上で、ファッションからビューティまで、欲しい物を全てそろえられたら便利だと考えている。以前から検討していたが、隣接分野だからではなく本腰を入れて取り組みたい。ビューティでは最近AR(拡張現実)などの最新技術が取り入れられているが、当社はテック系のプラットフォーム企業であり、必要に応じて画期的なスタートアップなどとの提携もできる」と述べた。