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ディスカウントストア「ターゲット」の衣料品復活の背景 鈴木敏仁USリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。米国を代表するディスカウントストア、ターゲットの衣料品が売れている。その裏側には優れたプライベートブランド開発があった。

 ディスカウントストアチェーン大手のターゲット(TARGET)が昨年1月末に導入したプライベートブランド(PB)のアクティブウェア「オールインモーション(ALL IN MOTION)」が初年度で売上高10億ドルを突破したことが分かった。日本円に換算すると1000億円を超える。

 ディスカウントストアというと日本の読者は安かろう悪かろう的な安売り屋をイメージしがちだろうが、米国のディスカウントストア業態はそうではなくて「良いものを安く」を主軸に据えたビジネスモデルだと理解していただきたい。ウォルマート(WALMART)は今も低価格を戦略の主軸に据えた企業だが、店舗を一目でも見れば安売り屋ではなくて、ざっくりと日本で言えばGMS(総合スーパー)を大きくしたような店である。クローズアウト(日本で言うところのバッタや見切り商品)を取り扱う業態はまた別に存在する。

初年度で1000億円売るプライベートブランド

 ターゲットはそのディスカウントストア企業群の中でも対象としている所得層が高めで、ファッションの強さでウォルマートと差別化してきた企業である。ターゲットはマーケティングに強さがあり、ウォルマートはオペレーションに強さがあるといったところだ。

 実はターゲットはもともと百貨店のデイトン(DAYTON)が開発したアウトレット業態が出自なのである。百貨店の人材がターゲットを運営していたため、ファッション性が色濃く反映されてきたのだ。

 非常に優秀な企業で業界評価も高かったのだが、この成長を牽引した中興の祖ともいえるロバート・アーリック氏が2009年に引退してから業績がしばらく低迷した。これを打破するためにアーリック氏の後任CEOが2014年に更迭され、外部から招聘されたブライアン・コーネル氏がCEOとなり再建に取り組んで今に至っている。

 その再建の道筋についてここでは詳細に説明することは省くが、結果として大成功に終わった。成果が出たのが2018年度、それまで既存店成長率が1~2%またはマイナス成長の年もあったのだが、5.0%増を記録したのであった。

 PB「オールインモーション」が初年度に10億ドルを超えたのは、同社の強さが回復したことの象徴なのである。

激しいスクラップ&ビルド

 ターゲットのPBは一昨年度末の時点で、自社ブランドが41、エクスルーシブブランドが11となっている。エクスルーシブとは自社開発ではなく企業やデザイナーと提携してオリジナル開発したブランドで、最も分かりやすいのはリーバイス(LEVI’S)と提携し開発導入したばかりの「リーバイス・フォー・ターゲット(LEVI’S FOR TARGET)」である。デニムをベースコンセプトとしたホームファッションで、これもまた商品開発力に長けるターゲットらしい新ブランドである。

 この自社ブランド41のうち、アパレルとアクセサリーが19、残りはグローサリー、ビューティ、ホーム、ペットとなっている。

 公表されている情報によると、このPB群のうち年商10億ドルを超えているのが10ブランド、20億ドルを超えているのが4ブランド、合計するとプライベートブランドは総売上のおよそ3分の1を占めている。20億ドルを超えている4ブランドの内訳は、子供服の「キャット&ジャック(CAT&JACK)」、食品の「グッド&ギャザー(GOOD&GATHER)」、雑貨の「アップ&アップ(UP& UP)」、ホームファニシングの「スレッシュホールド(THRESHOLD)」である。

 これら20億ドルを超えているブランドはすべてこの5年以内に開発された新ブランドだ。ざっと見る限り昔からあるのはわずかで、ほとんどが再建の途上でオーバーホールされている。その象徴が17年に開始した主力アパレルのブランドの入れ替えである。ウィメンズウエアの「メロナ」とメンズウエアの「モッシモ」を廃番として、新たにウィメンズには「アニューデイ(A NEW DAY)」、メンズには「グッドフェロー(GOODFELLOW)」という新ブランドを投入した。

 「メロナ」はとくに店頭での露出も多くよく知られたブランドで、このニュースを聞いたときは同社の本気度を感じたものである。実は16年の夏に子供服ブランドのチェロキー・アンド・サーコ(CHEROKEE AND CIRCO)」をスクラップして「キャット&ジャック」に入れ替え、これが大ヒットしたことが主力ブランドのオーバーホールへの原動力となったようだ。

 ちなもに「キャット&ジャック」と「アニューデイ」も初年度に売上高10億ドルを超えている。
これらブランドのオーバーホールの総予算は70億ドル(日本円換算で約8000億円)である。私は「メロナ」の廃番で本気度を感じたのだが、この予算額だけでも十分に本気で不退転の取り組みということが分かるだろう。

 今回年商10億ドル超えブランドの仲間入りした「オールインモーション」は、「C9チャンピオン」というブランドの後釜である。「C9チャンピオン」はライセンシングによるブランドで今はアマゾンで買うことができる。

 「オールインモーション」はアクティブウエアと総称されるが別の業界用語を使うならば、流行のアスレジャーだ。リモートワークで昨年初頭から衣料品のトレンドが大きく変わったが、カジュアルウエアや自宅フィットネス用として米国のアスレジャー市場は引き続き伸びていて、25年には市場規模が2000億ドルを超えるだろうという予測もある。

 ディスカウントストアによるブランドなので、「オールインモーション」の基本はベーシックだ。ただし単なるシンプルなデザインのアスレジャーではなくて、少しだけひねりが入っている。ブランドコンセプトは3つ、品質、サステナビリティ、そしてインクルーシビティ。サステナブルな取引先や素材を調達しながらプレミアムブランド並みの品質を実現するとしながら、ここ数年のアメリカの社会潮流ともなりつつあるインクルーシビティを加えている。

 特にマーケシングメッセージにはインクルーシビティを主眼に置いており、広告で利用するモデルの体形、人種、年齢を偏らせず、写真はレタッチを一切せずそのまま使い、店頭のマネキンのサイズには4、10、16を用意する。

 インクルーシビティとは排他的ではない誰でも参加できる社会にしようというムーブメントで、とりわけ若年層にアピールするには避けては通れないテーマとなっている。トレンドをしっかり捉えてブランディングに活用しているというわけで、このあたりはマーケティングに長けたターゲットらしい。

 本稿を執筆している3月半ばにはクラフトカテゴリーに新PBを導入したというニュースが入っている。強いPBは大きな利益源になるだけではなく、アマゾンに代表されるEC企業に対抗する強力な武器でもある。昨年度はパンデミックという追い風も吹いて売上高は19.8%増、一年間で過去11年間のトータル増額分を超える150億ドル増を記録した。同社のPBはこの絶好調を支える屋台骨なのである。

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