サステナビリティの取り組みを報じる記者、伝える企業にとって大切なこととは何か。環境、人、社会、企業統治など幅広い領域で用いられるが、私はなるべくサステナビリティという言葉を使わず、かつ具体的に表現したいと取材に取り組んでいるが、なかなか難しい。どうすれば的確に伝えることができるのだろうか。
今、改めて心に刻んでいる言葉がある。昨年5月の取材で聞いた、最も影響力のあるジャーナリストの一人であるサラ・モーア(Sarah Mower)米「VOGUE.COM」チーフクリティック(当時)の言葉だ。「抱えている問題に気づき、正しい問いを投げ掛け、明確に説明することは全ジャーナリストの義務だと感じている。それが世の中に対する私たちの存在価値なのではないだろうか」。
サラ・モーアと言えば、ウェブメディア「STYLE.COM」(2017年に閉鎖)の名物記者でファッションショーではフロントローの常連。「STYLE.COM」記者時代はものすごいスピードでショーのレビューを投稿していて、ファッションウイークの分刻みのスケジュールをこなしながら「いつ原稿を書いているんだ」と疑問を持つほどで、ファッションウイーク七不思議のひとつだった。ショー会場で見かける彼女は常に余裕があり“ナイス”な印象で、偉ぶった様子もない。食事を共にしたことがある先輩記者も、“柔らかく気さくですばらしい人格者”と教えてくれた。彼女の魅力はコレクションレビューだけではなく、卓越したインタビュー術にある。踏み込んだ質問と対話でデザイナーの新たな側面を引き出していて、彼女の記事から知ることも多い。
インタビューを行ったのは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、世界各地で1回目のロックダウン(都市封鎖)が行われていた5月末。彼女は「私たちはサステナビリティとエシカル(倫理)についてもっと真剣に考える必要がある」と話し、業界の次のステップを「環境と人に優しい方法を見つけること」と言及していた。当時、サラは読書に没頭していて、循環型経済を推進するエレン・マッカーサー財団のエレン・マッカーサー(Ellen McArthur)、ファッション産業の透明性を目指すNPO「ファッションレボリューション」の設立者オルソラ・デ・カストロ(Orsola de Castro )、サステナブルファッションを研究するスロー・ファクトリー(The Slow Factory)創設者でアクティビストのセリーヌ・セマン(Celine Semaan )を、「この分野で尊敬する3人の女性」として挙げている。加えて、ファッションに関する記事の在り方そのものを考え直す必要があり、それは「興味深い挑戦だ」とも語っている。その根底には「恥じない環境で働きたいだけ」という彼女の強い思いがある。
8月に「HOPE」と題して「ヴォーグ」に寄稿したコラムには、彼女の思いや覚悟がさらに明確になって記されていた。その後、気づけばサラは「VOGUE」のサステナビリティ・ディレクターに就任している(2021年1月時点)。
私たち記者は、ファッションの見た目だけではなく、地球環境に配慮しているか、人権侵害をしていないかなど生産工程を含めて語る必要が出てきた。科学の知識も必要になっている。サステナビリティと経営戦略は切り離せないため、複雑になってきているし、難しくなりがちだ。正直難しいと感じることも多い。10年前にはなかったアプローチだ。でも諦めてはいけない、とも思う。企業と対話を重ねて、的確かつ分かりやすく伝えていくことが必要だと思う。そして、新しいことだらけだからこそ、これまでなかった“魔法”のような技術とも出合うことができる。そのワクワク感は、ファッションショーで新しいものを目撃したときのそれと近い。というかそれ以上だ。
サラは「ウイルスの脅威と共に生きることと環境保護の双方の観点を考慮した新しい生き方をデザインすることで新しいビジネスが生まれると思う。この状況下では循環型システムについて真剣に考えている」とも語っている。ファッション産業をどのようによりよい形にシフトしていくのか。私たちみんなで知恵を持ち寄り、取り組む中で答えを探していきたい。
最後にサラはこう締めくくっている。「“恥ずかしくない”から“誇りに思う”ようにできるのか。それが私のモチベーションです」。