P&Gのヘアケアブランド「パンテーン(PANTENE)」は、“あなたらしい髪の美しさを通じて、すべての人の前向きな一歩をサポートする”という理念のもと、“ヘアサロン向けLGBTQ+フレンドリーマニュアル”を公開した。同ブランドは昨年9月、就職活動で自分を偽らず自分らしさを表現できることを願うプロジェクト“#PrideHair”を始動すると、12月には個性に寄り添うヘアサロンを日本全国に広める“#PrideHair サロン”プロジェクトをスタート。ワークショップなどを踏まえて“ヘアサロン向けLGBTQ+フレンドリーマニュアル”を策定し、現在はセクシャルマイノリティーにも優しいヘアサロンを増やそうと、プロジェクトへの賛同サロンを募っており、その数はすでに1000店舗を突破した。
今回は、kemioが、プロジェクトにいち早く賛同したヘアサロン「ミンクス(MINX)」を訪問。「苦手だった」とまで言うヘアサロンでの思い出を振り返りながら、賛同サロンにLGBTQ+フレンドリーになろうとした経緯や、具体的な心配りを聞いた。
きっかけは「SDGs」、
LGBTQ+フレンドリーは「延長線上」
kemioが訪れたヘアサロン「ミンクス」の銀座店は、8年前にオープン。銀座で、60人のスタッフを抱える大きなサロンだ。店舗の指揮を執るのは、菅野久幸取締役エグゼクティブ・ディレクター。菅野ディレクターは“#PrideHairサロン”プロジェクトへの賛同のきっかけを、「サロンとしてSDGs(国連加盟国が2030年までに達成する持続可能な目標)、特に『ジェンダー平等を達成しよう』や『パートナーシップで目標を達成しよう』に取り組む中、LGBTQ+フレンドリーになることは、その延長線上にあると考えました」と振り返る。SDGsを意識するようになったのは、「激選区の銀座で戦うために視察したニューヨーク5番街のヘアサロンは、天然木のフローリングで、テーブルにはオーガニック栽培のリンゴが置いてありました。みんな、施述が終わると、一つもらって、歩きながら食べて帰るっていうんです。そんなナチュラルなライフスタイルを提案したいな」と思って以来。「パンテーン」が作成した“ヘアサロン向けLGBTQ+フレンドリーマニュアル”が提唱する、「美容室は、職場・家庭とは異なる『第三の居場所』」というメッセージにも共感した。
「気を使って、いろんな話をしてくれる」
から「遠ざかった」
店舗を訪問する前は「ヘアサロンで不快な思いをしたことがない」と話していたkemioは、菅野ディレクターの話を聞いて少しずつ、昔の“居心地の悪さ”を思い出した。そして「kemioとして活動する前は、“10分間カット”に通っていたんです」と告白。「ご本人に悪気がないことはわかっているけれど、必要以上にいろんなコトを聞かれると、面接のように感じてしまって。カムアウトする前はとっさにウソをついてしまう時もあって、『次はなんて答えよう』とか『またウソをつかなくちゃならないのかな?』なんて考えるのもイヤでした。結果、“行きつけ”は作らず、最初はいろんな場所を転々として。でも、毎回、違うヘアサロンを探すのもイヤだったんです」と、セクシャルマイノリティーの当事者なら一度は感じる“居心地の悪さ”や“気まづさ”“本当なら楽しいハズの場所なのに、楽しめない無念”を吐露。そして日本と行き来するアメリカについて、「若い世代を中心にアメリカの消費者は、何かをサポートしていたり、社会に貢献したりの企業やブランドからモノやサービスを買うようになっています。日本も同じようになると思います」と続けた。
空間から接客まで総点検。
来店客からも「真剣」と好評
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SDGsや“#PrideHair サロン”プロジェクトを意識して以降、菅野ディレクターは、雰囲気づくりから接客までを総点検、さまざまを改善している。もともとジェンダー・ニュートラルを意識した内装だったが、1つのトイレは男女の区別なく、誰でも使えるように変更した。新型コロナの影響も手伝い、雑誌は、来店者が自由に選べるダブレット端末で楽しむ電子版に切り替え。接客では、「3回目までは、サロンからプライベートに踏み込まない」を心掛け、結婚や仕事、政治などの話は特に注意するようになった。
日本では10人に1人はセクシャルマイノリティーと言われている。60人のスタッフが働く銀座店にも、複数のLGBTQ+がいるのだろう。そこでスタッフとのコミュニケーションも「随分変わった」と菅野ディレクター。人の心に土足で入り込み、「彼氏は?」や「彼女は?」と聞くことはなくなった。
こうした対応は、来店客からも好評だ。特に銀座店の顧客には企業でダイバーシティーやSDGsの研修を受けている人も多く、「『ジェンダーに真剣に向き合っているんですね』と応援していただくことも多い」。
今年は、銀座店でのSDGsやLGBTQ+フレンドリーの取り組みを「ミンクス」全店に拡大する。いち早く勉強してきた菅野ディレクターは全店を回り、勉強会を開催予定だ。
“#PrideHair”賛同サロンは、
早くも1000店舗超え
「パンテーン」は、“#PrideHair”というハッシュタグのもと、実体験を伝えながら皆でより良い就活のあり方を考える活動をスタート。トランスジェンダーが就職活動の実体験を語る動画の再生回数は2000万回を超え、当事者のみならず、LGBTQ+をサポートしたいと願うアライの賛同も多かった。一方でジェンダーに対する誤解や思い込みは少なからず存在し、「知らなかった」「気づきを与えてくれてよかった」などの反響も届いたという。これを受け、同ブランドはヘアサロンが「誰もが、自分らしい髪になれる場所」になることを目指して年初にガイドラインを策定し、現在賛同サロンを募っている。反響は大きく、賛同サロンの店舗数は現在1000を大きく超えている。
P&Gでは、役員や人事部門、面接官に対してLGBTQ+をはじめ、多様性への理解を深める研修を実施している。面接を行う社員の先入観を少しでも排除するため、14年からはエントリーシートの写真欄を削除、19年には性別欄に“その他”という選択肢を設定した。21年には生年月日情報も削除することで、年齢による先入観も排除する。
パンテーン