ファッション

アダストリアのスポーツブランド「ヌメラルズ」に学ぶ、“ウソっぽくならない”コミュニティーの作り方

 アダストリアは、「ニコアンド(NIKO AND…)」のブランド内ラインとしてコーナー展開してきたスポーツ&リラクシングウエアの「ヌメラルズ(NUMERALS)」を、2021年春から単独ブランドとして打ち出している。コロナ禍以降、家の中でも外でも着られる機能的な服のニーズが高まっていることなどを背景に「ファッションとしても、スポーツとしても着られる服」(小林千晃・執行役員R&D本部長)を改めて打ち出す。

 「ヌメラルズ」は“アスレジャー”市場が注目された15年にスタート。コロナ禍で健康意識が高まっていることを受け、このたびチーム体制を強化しロゴも刷新した。従来はユニセックスで商品企画をしてきたが、21年春からは鮮やかな色を取り入れたウィメンズアイテムも拡充。素材メーカーと組んで作った抗菌防臭糸を使ったTシャツやシワになりにくいシャツなど、機能素材の開発や使用にもこれまで以上に力を入れる。

 ランニングやヨガ、フットサルなどのスポーツをするときのウエアだけでなく、在宅ワークなどにも適したカジュアルなセットアップもそろえ、新常態のライフスタイルに対応する。価格はカットソー2900〜5900円前後、アウター5900〜1万3000円前後。話題性を高めるためにコラボレーションも積極的に行なっていく考えで、21年春では「アンブロ(UMBRO)」との協業アイテムを企画した。

プロスポーツ選手も巻き込んだコミュニティーが強み

 「ヌメラルズ」と同様に、ファッションとスポーツの中間をコンセプトとするブランドは他のアパレルメーカーの間でも開発が盛んな分野だ。コロナ禍以降、ますます存在感が増している「ユニクロ(UNIQLO)」「ワークマンプラス(WORKMAN PLUS)」などとも重なる部分がある。そうした多くの競合ブランドと「ヌメラルズ」とのビジネス上の差別化ポイントは大きく2つ。コミュニティーとBtoBだ。

 コミュニティーとは、サッカーやバスケットボール、陸上、BMXなどのプロスポーツ選手やスポーツ分野のインフルエンサーとのつながりのこと。もともと、「社内ランニングクラブのような感覚でプロジェクトが始まり、その中で扱っていたプロダクトが『ヌメラルズ』だった」(小林執行役員)という経緯があり、コミュニティーがブランドやプロダクトに先行しているというのが同ブランドの大きな特徴だ。

 小林執行役員自身もスポーツ好きで、終業後にはサッカーやランニングを楽しんでいるという。一緒に行っているメンバーを聞くと、サッカー元日本代表選手がいたり、スポーツ好きのミュージシャンがいたりと非常に豪華。実際に、2月に行ったブランド刷新後のお披露目会には、多数のプロスポーツ選手やインフルエンサーが駆けつけたという。また、今春からランニングカルチャーマガジン「走るひと」の編集長兼発行人である上田唯人もブランドの企画チームに加わっており、ネットワーク形成のキーマンとなっている。

 こうしたコミュニティーの構築は、今の時代にブランドを運営し、モノやサービスを売っていく上で欠かせないもの。日々、コミュニティー構築に腐心しているというファッションやビューティの業界関係者も多いだろう。ただし、戦略的にコミュニティーを構築しようとすると商業的な匂いが濃くなってしまい、消費者にそっぽを向かれてしまうケースもある。「(コミュニティーをいかに作るかという意識ではなく、趣味で行うスポーツなどに)本気で取り組むこと。本気じゃないと、その道のプロやお客さまにバレて、心のシャッターが下ろされてしまう。下手でも本気でやればちゃんと受け入れてもらえて、それが仕事にもつながる。中途半端に知ったかぶりでやるのが一番いけない。それだとウソの商品、ウソのブランドになってしまう」というのが、小林執行役員が考えるコミュニティー構築の秘訣だ。

プロチームや中高の部活動からの要望にも対応

 2つ目の差別化ポイントであるBtoBとは、スポーツのプロチームや中高の部活の練習着などとして商品を納入すること。こうした市場はスポーツメーカーががっちり握っているケースが多いが、前述のコミュニティーがあるからこそ「知り合いの選手がいるスポーツチームや学校関係者から、是非BtoBをやってほしいという声を受けている」という。「ヌメラルズ」ならではのデザイン性に加えて、スポーツメーカーの商品よりも比較的安価な点が支持されているようだ。スポーツ量販店への卸販売も「将来的に要望があれば考えたい」という。

 機能面の徹底的な追求が求められるプロスポーツ選手の試合着など、「本気のパフォーマンスウエアは現状ではまだわれわれには作ることができない」ため、練習着や移動着、スポーツ後に着るリラックスウエア、部活用のバッグなどを対象とする。「そうした分野からこそ、スポーツとつながるライフスタイルを作っていけるはず」とも話す。既に、アダストリアがスポンサーを務めるJ2のサッカーチーム、水戸ホーリーホックには、移動着と遠征中のリラックスウエアを提供している。

 「ヌメラルズ」の売り上げ目標は「25年に50億円」。また、アダストリアでは「ヌメラルズ」以外にも「ベイフロー(BAYFLOW)」発の「ヘレイアム(HEREIAM)」など、スポーツ、ウエルネス領域のブランド開発を強化しており、今後も立ち上げ計画があるという。「それらスポーツ領域のブランド群で売上高100億円を目指す」という。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

2025年春夏ウィメンズリアルトレンド特集 もっと軽やかに、華やかに【WWDJAPAN BEAUTY付録:2024年下半期ベストコスメ発表】

百貨店、ファッションビルブランド、セレクトショップの2025年春夏の打ち出しが出そろった。ここ数年はベーシック回帰の流れが強かった国内リアルクローズ市場は、海外ランウエイを席巻した「ボーホー×ロマンチック」なムードに呼応し、今季は一気に華やかさを取り戻しそうな気配です。ただ、例年ますます厳しさを増す夏の暑さの中で、商品企画やMDの見直しも急務となっています。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。