伊藤忠商事は、フィンランド発の革新セルロース繊維をいよいよ本格的に始動する。伊藤忠がフィンランドの木材パルプ世界最大手のメッツァグループ(METSA GROUP)と共同で展開するもので、これまで製造工程で有機溶剤などを使用し、環境負荷の高かった従来のレーヨン素材とは異なり、環境負荷が小さく、しかもコストも従来とほぼ変わらない画期的な製法で製造するため、次世代セルロース繊維の大本命と言われている。ブランド名を「クウラ(KUURA)」と定め、3月16日には「楽天ファッションウィーク東京」の「ザ・リラクス(THE RERACS)」のショーで、世界で初めて服になった「クウラ」を披露した。
伊藤忠はメッツァグループとともに2018年10月に、約4000万ユーロ(約51億円)を投じて、メッツァグループの中核会社メッツァ・ファイバーの工場内に年産350トンの生産能力を持つパイロットプラントを建設。メッツァ・ファイバーは主に紙やレーヨンの原料になるパルプの世界最大手企業で、「クウラ」は粗原料になる木材からパルプ、繊維の原料になる原綿まで一貫生産になる。
レーヨンなどのパルプを原料とする一般的なセルロース系の繊維は、ポリエステルやナイロンのような合成繊維と異なり、石油を原料とせず、土に埋めれば分解する生分解性などの特徴を持つため、サステナビリティを打ち出す企業もある。ただ実際には生産工程で有機溶剤を使用するなど、環境負荷の高い部分もある。
また、欧米のスタートアップ企業が相次いで革新的なセルロース繊維の開発を発表しているが、いずれも数トン〜数十トンクラス。「クウラ」はパイロットプラントでも年産350トンと、スケールは圧倒的で、かつ量産プラントになればレギュラーレーヨンとほぼ同等のコストパフォーマンスを発揮できる。
「クウラ」は粗原料となる木材からパルプを生産する際にも、安全性が高く一本の木材から採取できるパルプの量も多い製法を使うなど、メッツァグループの有する先進的なサステナビリティ技術が盛り込まれており、工場自体が多数の認証も取得している。
「クウラ」工場は、メッツァ・グループと伊藤忠が折半出資する合弁会社で運営しており、糸の原料となる原綿(げんめん)の開発と生産をメッツァが、紡績工程以降の糸や生地の生産・販売などを伊藤忠が独占的にコントロールする。「クウラ」事業を担当する下田祥朗・繊維原料課長は、「従来のレーヨンやセルロース素材とは異なる新しい素材であるため、紡績糸の開発と生産は世界的にも技術力の高いクラボウと行っている。水面下で国内外の有力企業・ブランドとの商品化を進めているが、非常に大きな手応えを感じている」という。『クウラ』工場の立ち上がりは、コロナ禍で当初計画より遅れているものの、「来年度の後半にはパイロット工場をフル稼働にもっていく」(同)考え。