新型コロナ感染拡大の影響で、あらゆる分野におけるECビジネスが急成長している。ファッション、日用品、食品、何でもECで購入できる時代だ。だが、さすがに住宅をECで販売・購入するという発想は今までなかった。ところが、それを実現する「ノットアホテル(NOT A HOTEL)」が登場。2月にサイトを立ち上げてから1週間で約3000件の問い合わせやニュースレターの登録があったという。同サービスを立ち上げたのはECコンサル企業アラタナの元創業者である濱渦伸次氏。彼に「ノットアホテル」の仕組みやサービス、今後について話を聞いた。
WWD:「ノットアホテル」の着想源は?
濱渦伸次ノットアホテル最高経営責任者(以下、濱渦):2020年3月まで「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥディの傘下でアラタナの社長を務めた。そこでD2Cの支援を行ってきたわけだが、独立してECで一番売るのが困難なものは何か考えた。実はECで試乗もせずに「テスラ(TESLA)」を購入してみて、オンラインで完結できるんだと感動した。そこで、高額な住宅をECでパースだけ見て買う感動、そして購入後に家が出来上がる過程を見る感動を提供できないかと考えた。
WWD:住宅のD2Cということだが、どのような仕組みか?どのような物件を販売するか?
濱渦:日本各地の風光明媚なロケーションを選び、その場所に合う建築家を起用してCGで各物件のパースを制作し、ECで販売する。物件が売れたら施工を開始し約6カ月後にオーナーに受け渡す。現在栃木県の約16万坪の牧場に13棟、宮崎県の国定公園内に6棟など、日本国内7カ所で企画が進行中だ。地域ごと、一軒ごとに全て違うデザインにする。ロケーションは、一等地でもメジャーでもない場所だが、空港や駅から車で15〜20分とアクセスの良い場所を選ぶ。そして、オーナーが使用しない時はわれわれがホテルとして貸し出し運用する。そうすることで、オーナーは収益を得ることができる。無駄なく、合理的、そしてユーザーフレンドリーなプラットフォームだ。
WWD:物件の価格帯は?
濱渦:4000万円〜10億円が中心価格帯だが、1000万円台のものも作るつもりだ。また、一つの物件を知人や友人とシェア買いすることもできる。そうすれば、購入価格も抑えられるし、ある期間その物件に滞在できる。
WWD:物件にはオーナーの要望を反映できるか?
濱渦:ホテルとして運営するため、その間取りを重視するので個人の要望の反映はできない。
「ノットアホテル」で世界中のオーナー物件滞在が可能に
WWD:暮らしやホテルの価値観がひっくり返るような体験とは具体的にどのようなものか?
濱渦:住宅費用は一番高い支出だ。旅行や出張で留守にすることもある。その際にホテルとして貸し出すことでオーナーの収入になる。テクノロジーを使うことで課題を解決し、人生がより自由で楽しくなるプラットフォームが「ノットアホテル」だ。一般のホテルの部屋は広くて50〜60平方メートル。だが、われわれが作る物件(ホテル)は最低100平方メートル以上だ。ロビーやレセプションなどの共有部をなくし、部屋に投資する。なぜならチェックインなどのいろいろな手続きは全てアプリ上でできるから。今までいろいろな規制があり作れなかったホテルを建築家と一緒に作るチャレンジでもある。オーナー同士の相互理用が可能なので、いろいろな場所に自宅を持てる仕組みだ。
WWD:オーナー同士の相互利用とは?
濱渦:別荘は所有するだけで費用がかかるが、オーナーであれば、同じレベルの物件に空きがあれば費用がかからずに宿泊できる。あるオーナーが2泊貸したら、2泊別の物件に泊まれる。ランクが違う物件は宿泊日数の制限などがある。新型コロナウイルスの影響でリモートワークが可能になり、住む場所の自由度が高まった。時代に合った住宅を提供していきたい。
WWD:不在の際にホテルとして貸し出す際の私物はどうするか?
濱渦:人の生活におけるモノは、デジタル化が進みどんどん少なくなってきている。いいモノだけ残す生活に変化しつつある。もちろん、各物件に私物を入れられるストレージやパントリーなどを作り、そこに移動する仕組みだ。収納しきれない場合はオンラインストレージを用意する。
WWD:管理費などは?
濱渦:管理費やアプリ使用料がかかるが、ホテルとして数日貸し出せば、それで補える程度の料金設定だ。
WWD:オーナーではない一般人も宿泊できるか?
濱渦:自社アプリを通して販売するので可能だ。宿泊専用サイトを使用すると10%程度のコミッションを支払わなければならない。自社アプリを使うことで安くユーザーに提供したい。通常100平方メートル以上のホテルだとかなり高額だが、われわれの物件だと安い料金で宿泊できる。ホテルなので、もちろんアメニティーなども用意する。
地方に根付く物件を提供し自治体へ貢献
WWD:ターゲットは?
濱渦:ミレニアル世代の起業家や経営者など。自分があったらいいなと思ったプラットフォームを作った。だから、全ての物件にはサウナがある。サイトを立ち上げてから1週間で約3000件の問い合わせがあった。新型コロナの影響で住宅・オフィス・ホテルそれぞれの概念が溶け始めたと感じている。このような状況下の理想の生活空間を考えてみたとき、「ノットアホテル」が人々の琴線に触れたのだと思う。
WWD:今後の予定は?
濱渦:まずは、日本各地に30程度の物件を作って需要をみながら、ゆっくり広げていきたい。各地に根付くものにしたいので「『ノットアホテル』があるから、そこに行く」、そんな物件作りをしていきたい。地方が好きになるきっかけになればいいと思うし、そうすることで、各自治体へ貢献ができると思う。ゆくゆくは、海外にも広げていきたい。特に南半球の南米やオーストラリアなどは気候が北半球と逆なので面白いと思っている。