ファッションという「今」にのみフォーカスする産業を歴史の文脈で捉え直す新連載。41回目はファッションの教育のあり方を考察する。編集協力:MATHEUS KATAYAMA (W)(この記事はWWDジャパン2021年3月29日・4月5日号からの抜粋です)
3月16日、新国立美術館で行われた丸龍文人デザイナーの「フミト ガンリュウ」2021-22年秋冬コレクションを拝見した。このショーは「リトゥンアフターワーズ」の山縣良和デザイナーが空間演出を担当。会場には写真作家の田附勝による養蚕の写真のインスタレーションや、土にまみれ蟻が這う山縣の服の展示もあった。「フミト ガンリュウ」のルック自体はかなりカジュアルな提案だったので、私の興味はどうしても山縣の空間演出と会場で配布されたブックレットに向かう。その中で山縣はこう書く。「20年初春、私たちは国内で緊急事態宣言が発出する前後から、日本の衣服と養蚕の歴史を関連づけてひもとくことにした」。日本のデザイナーで、このような巨視を持ってファッションに取り組む人はそういない。
その山縣にかねてから当連載のために話を伺いたいと連絡したところ、このショーの翌日、彼が08年に設立したファッション教育機関「ここのがっこう」の授業に登壇し、受講生が見守る中で公開取材という異例の形で話を聞くことになった。
山縣はロンドン芸術大学のひとつであるセントラル・セント・マーチンズ美術大学出身。ここのファッションコースは、ジョン・ガリアーノやアレキサンダー・マックイーンといった有名デザイナーを数多く輩出している。山縣はウィメンズウェア学科を首席で卒業し、ガリアーノの下で経験を積んだ。しかし、彼は日本の学校教育では劣等生だったという。日本とイギリスの両方を比較して、山縣は日本のファッション教育のあり方に大きな疑念を持つようになる。
「ファッションにおけるリベラルアーツ的な発想が日本のファッション業界にはない。それが『ここのがっこう』を始めたきっかけです。日本のファッション関係者はほかの領域のクリエイターと話す際、共通言語を持っていないと常々感じていました。しかし、ヨーロッパのファッション教育を見ていると、共通言語つまりリベラルアーツを鍛える教育になっていることに気づいたんです」。
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