パルコの広告といえば、石岡瑛子や箭内道彦、エムエムパリス(M/M Paris)ら稀代のアートディレクターが次々と金字塔を打ち建ててきた栄誉ある仕事だ。そんなパルコのシーズン広告を、2020年からイギリス人アートディレクターのジェイミー・リード(Jamie Reid)が手掛けている。31歳のリードは、英ファッション誌「デイズド&コンフューズド(DAZED & CONFUSED)」や「ポップ(POP)」などのアートディレクターを務めてきた、若くして才能を認められた人物。コロナの脅威が続く中で制作された21年春夏のシーズン広告は、希望と重力を表現した“HOPE FLOATS”をテーマに掲げる。フォトグラファーにジョニー・デュフォート(Johnny Dufort)、スタイリストにガレス・ライトン(Gareth Wrighton)と、ロンドンの若手クリエイターを起用し、未来へのポジティブなメッセージを発信する。
WWD:19年にパルコのキャンペーンで初来日したと聞いた。そのとき感じたパルコの印象は?
ジェイミー・リード(以下、リード):パルコのキャンペーンをデザインすることになり、まずはパルコの持つコミュニティーのあり方や文化、サブカルチャーがその地域にどういう機能をもたらしているかに興味を抱いた。当時の渋谷パルコは建替中(19年に大規模改装を実施)だったけれど、建築自体もものすごくかっこよかったし、店が街にどんな機能を果たすかをすごく丁寧に考えているなという印象を持った。ファッションに限らず、とても強いアイデンティティーを発信していたんだ。デジタル社会におけるリアル店舗の意味とか、渋谷の中心から文化を発信していくんだっていう気概みたいなものを感じたよ。
WWD:21年春夏のキャンペーン“HOPE FLOATS”に込めた思いは?
リード:初めからみんなの共通認識だったのは、未来に向けて希望を抱けるようなそういう思いを大事にしようということだった。だから、気持ちが高揚したり明るくなったりする感覚をどうやって表現するかを何度も話し合った。それで、空に上っていく感じや体が浮き立つような感覚を重力に例えて、それをバルーンで表現することにしたんだ。
WWD:バルーンのモチーフをウサギやアイスクリームにした理由は?
リード:モチーフのアイデアはたくさんあったんだけど、広告を打ち出す際には、メッセージがクリアに伝えられるかを大事にしている。だから誰もが親近感を抱けるようなモチーフにしなければならなかった。ウサギやアイスクリームは多くの人の記憶と結びつく。サイズ感やビジュアルは、スタイリストのガレスのアイデアなんだけど、人間よりも大きいサイズにすることで、パワフルさを感じられる。最終的にはパッと伝わることが大事だから、それを写真の中に納めたときに一番効果的なビジュアルにできるかどうかにこだわった。この大きなウサギのバルーンがパルコのショッピングモールの中にあったら面白いだろうなって。
WWD:背景に実際のロンドンの街並みを用いた理由は?
リード:昨年の12月にロンドン市内の複数の場所で撮影した。ロンドンは今、コロナの状況がかなり悪化していて、街中に誰もいない本当に空っぽの状態なんだ。今は人々が行き来できない場所になってしまっているけど、そこで楽しいことや想像もしないような非現実的なことが起こっている様子をビジュアルで表現したいなって思ったんだ。
WWD:ファッションキャンペーンにおいて、特に大切にしていることは?
リード:キャンペーンの仕事では、どんなクリエイティブチームを作るかがとても大切だと思う。今回のキャンペーンのこのアイデアだったら、この人とこの人を出会わせたら面白いことが起こるんじゃないかとか。それが一番大事にしていることだし、自分が一番楽しんでいるところかな。
WWD:パルコと仕事をして感じたことは?
リード:19年に日本に行ったのがアジアを訪れること自体初めてだったから、消費者としてパルコを知っていたわけではないんだけど、グラフィックデザインを学ぶにあたって、パルコの広告はさまざまなところで目にした。アートやデザイン界隈にいれば、パルコの名前は必然的に目に入るから、歴代のキャンペーンビジュアルも自然と頭の中に刷り込まれているよ。だから声を掛けてもらったときは、非常に光栄だったし、関われることがうれしかった。パルコチームは表現に対してとても誠実だから、僕も自分のやりたいことをできたし、アイデアを追求できた。今回のキャンペーンみたいにゼロから全部考えさせてもらえるプロジェクトはなかなか無い。アイデアのためにデザイナーに服まで作ってもらえる自由があるのは、後にも先にもパルコぐらいなんじゃないかなって思うよ。