「あなたたち!昨日の『ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)』のニュースは見た!?」
それが、私のパーソンズ初日の授業で教授が発した言葉だった。その瞬間、「これが好きなことを学ぶということなのだ」と感じた。
毎日授業と課題に追われ、24時間ほぼファッションのことしか考えていなかった。それまで“勉強=嫌なもの”と考えていた私は、勉強を勘違いしていたと気付いた。好きなことを学べる幸せを噛みしめ、まるで何かのボタンを押されていたかのようにファッションに没頭した。
留学前は23歳での大学進学について、周りは懸念していたがフタを開けてみると、私はクラス最年少だった。人種もバラバラ。同じクラスには60代の女性もいて、「歌手になる娘の衣装を作ってあげたい」と話していた。スキルアップのために受講している有名アパレルブランドの現役社員もいて、そんな生徒たちとの情報交換も楽しかった。
中でも、「ウィンドウディスプレイ」「ファッションライティング」「ファッションマーチャンダイジング」など、デザイン以外のクラスが私の脳を活性化させたことは間違いない。
例えば、「ウィンドウディスプレイ」の授業では、人の目の動きを学んだ。広告やウィンドーという箱の中に“目”をつけると、人は洋服より先に“目”に視線がいくらしい。だから“目のない”マネキンがあるのか、と納得した。多様性の観点から使うライトにも配慮し、肌の白い人や黒い人をはじめ、それぞれに合うライティングがあることも日本では気付けなかったことだ。
「ファッションライティング」の授業では、教授の「言葉を添えることで、服そのものの美しさに何倍もの輝きとパワーを与えることができる」という言葉が印象的だった。
「ファッションマーチャンダイジング」では、デパートを何十周もして地図を描き、人の流れを観察した。一つの建物の中で、何を、どこに、どう置くかをどのように決めているのかひたすら探った。
どれも充実した授業だったが、実は英語へのコンプレックスが半端なく、人前ではほとんど喋れなかった。だから最後の授業での作品発表後、そそくさとクラスの隅に引っ込んだ私を教授とクラスメイトが引っ張り出してくれて、「パスカルはシャイだけれど、作品は素晴らしい」と笑って讃えてくれたことはうれしかった。
成績は、苦手だった「パターン」のクラス以外全てAだった。言葉が苦手な分、“伝えたい”という気持ち一心で技術を磨いてきた。辛い戦いの日々だったが、それでもやめなかったのはやはり“好きなことに出会ったから”。
これは、私が学んだ持続可能な社会を作るための一つのヒントだ。日本で「好きなことを仕事に」というと、「ずるい」とか「ラクしてる」と思われることもあるが、私は“好きだからこそ”続けられ、問題や壁にぶつかっても乗り越えられている。そこに“持続可能な社会”が存在すると信じている。
次世代には、ぜひ好きなことを仕事にできる未来を描いてほしいと心から願う。そして、私たち大人はその未来をデザインし続けなければならない。
さらにもう一つ伝えたいのは、大人も何度でもやり直せるということ。だって、私がそうだから。