エディ・スリマン(Hedi Slimane)アーティスティック、クリエイティブ&イメージディレクターが手掛ける「セリーヌ オム(CELINE HOMME)」2021-22年秋冬メンズ・コレクションに、ブランド創業76年の歴史で初めて日本人男性モデルが登場した。金字塔を打ち立てたのは、188cmの長身に黒髪のロングヘアが特徴のKEITAだ。大学在学中にモデルを志し、デビューからわずか2年で「セリーヌ オム」の舞台にまで上り詰めた彼の人物像に迫ると共に、撮影秘話などを聞いた。
KEITAがモデルになるまで
WWD:モデルを志した理由は?
KEITA:大学3年生の終わり頃に、将来何がしたいかを改めて考えたのがきっかけです。それまで周囲に流されて生きてきたので、自分が興味のあること、好きなことを仕事にしたいと思い立ち、モデルに挑戦することを決意しました。
WWD:どのようにモデルになった?
KEITA:当時は一般的な4年制大学の学生で、周りにファッション関係の知人もいなかったので、希望者なら誰でもオーディションを受けられる事務所の門を叩きました。全く知識がなかったので、ポートレートの準備もなく、手ぶらでオーディションに行ってスマホで適当な写真を見せていたので当然合格する訳もなく(笑)。その後、インスタグラムでプロのカメラマンに連絡しポートレートを撮影してもらうなどし、少しづつ資料を作成しました。
WWD:すぐに事務所は決まった?
KEITA:日本の事務所を受け続けていたんですが、中々決まりませんでしたね。大学在学中に事務所を決めたり、モデルとして仕事をしたりと何か一歩踏み出したかったので、国内で決まらないのなら海外だと考え、20年10月にヨーロッパを1カ月間回って事務所を探しました。モデルや事務所などの情報を掲載している「モデルズドットコム(Models.com)」のランク別事務所リストの上から順にオーディションを受けて、最初に滞在したロンドンで運よく事務所が決まったんです。その後、21年1月のミラノ・メンズ・コレクションの「バリー(BALLY)」でモデルデビューしました。
WWD:どのような理由で事務所が決まったと思う?
KEITA:188cmと長身なことに加えて、今回の「セリーヌ オム」の起用理由でもある黒髪のロングヘアに興味を示してくれたようです。当時のアジア人モデルは短髪や坊主などが多かったので、上手く差別化できたのかなと思います。
エディに 認められ「マジか」
WWD:オーディションを受けた経緯は?
KEITA:他ブランドのオーディションを受けるために渡航する前日、海外の所属事務所から「セリーヌ オム」のモデルオーディションの連絡をもらいました。「上半身裸でスキニーパンツを履いて、ウオーキングする動画を送ってほしい」と言われたんですが、普段スキニーパンツを履かないので、空港に向かう道中の「ユニクロ(UNIQLO)」でスキニーパンツを購入し、友人に撮影してもらいました。現地でオーディションを受けたその日のうちに合格の連絡がきて、翌日にはデジタルショーの撮影現場に向かいました。
WWD:合格の連絡が届いたときの感想は?
KEITA:「いや、マジか……。」と思いました(笑)。僕は長身で細身、ロングヘアとエディが描くモデル像に合っていると感じていましたし、何よりこの仕事を始める前からファッション業界のレジェンドであるエディに憧れていたので、すごく嬉しかったですね。
WWD:エディの印象は?
KEITA:僕は画像でよく見るエディを想像していたんですが、実際の彼は髪が伸びていて、最初気付かなかったんですよね(笑)。エディに向けてアピールしようと意気込んでいたので「あれ?どこにいるんだ?」と。オーディション中、写真を撮ってる人がいるなと観察していると「あ、エディだ!」と気づきました。彼は、当時デザイナーを務めていた「イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ オム(YVES SAINT LAURENT RIVE GAUCHE HOMME)」が東京でショーを開催したときに「プロのモデルに混じってストリートにいる若い子たちをキャスティングした」と裏話を教えてくれたり、「ピアス開いてる?」と聞かれ「開いてない」と答えると「誰かハサミ持ってきて!今からこの子の耳に穴開けるから!」と冗談を交えて話してくれたりと、チャーミングな人でした。
WWD:ショー会場のシャンボール城は壮大でしたね。
KEITA:世界遺産を約2週間貸し切って撮影しました。バスで田舎に行くとしか聞かされていていなかったので、車内で「すごくデカい城が見えるね」とほかのモデルと話していたら、ブランドチームから「あそこで撮影するよ」と聞いて「あそこで!?」とみんな驚いていました。城で撮影するなんて誰も思わないですよね(笑)。シャンボール城は狩猟のための滞在先として建設された城なので、今でも特定の日は、周辺で狩猟が行われていて、「今日はあまり外出しないでね。弓で撃たれちゃうよ(笑)」とブランドチームの人が話していたのが印象的でした。
WWD:ほかのモデルの様子は?
KEITA:シャンボール城に行く前に「田舎すぎて周囲に何もないから時間をつぶせる物を持ってきて」と言われていました。スケートボードやゲーム機などのほかに、ギターを持ってきたモデルもいました。待機中に皆でセッションが始まって、いかにもエディが選んだモデルっぽいなと感じましたね。僕はニンテンドースイッチしか持って行きませんでしたが(笑)。
WWD:ブランド側からショーに関する指示はあった?
KEITA:「セリーヌ オム」は、過去のコレクションでも歩き方などはモデルに委ねているのでようで指示は特になかったです。現場では常にショーの音楽が流れていたので、BGMにノリながら歩くという感じでした。普段履かないヒールブーツで、さらに床が石畳だったのでとても歩きにくかったです。
今後の展望や意気込み
WWD:憧れのモデルはいる?
KEITA:特定の人はいないですね。最近は何となくほかのモデルを意識するようになりましたが、人それぞれ見た目もキャラクターも違うので、真似をしても売れるとは限らない。いろいろなモデルを隔たりなく見たり、話を聞いたりして良いところを吸収しています。
WWD:モデル2年目を迎えて、心境の変化はある?
KEITA:プロのモデルとして、いつでもショーに出られるようベストな状態でいることをより強く意識しています。事務所探しで海外に行くときに、父に言われた「趣味で終わらせるなよ」という言葉が常に心の中にあります。また最近では、いつも楽しもうという気持ちを心がけ、オーディションに落ちたり、なにか失敗したりしても後で笑い話になればいいやとポジティブ思考でいることを大切にしています。ただ、毎回受からなかったブランドのショーを見て、誰が代わりを務めていて自分とは何が違うのかを見て、今後に生かせるようにもしています。
WWD:今後の展望を教えてください。
KEITA:まずは目の前の仕事を一生懸命取り組むこと。そして、一流ブランドの仕事には学ぶことが多いので、「セリーヌ オム」をはじめ、メゾンブランドのショーにはまた出たいです。また大学時代はサステナビリティについて学んでいたので、モデル業を通してそういったことに関われたらいいですね。大学での経験を生かし、ファッション業界に少しでも貢献したいです。