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大丸松坂屋「DXで百貨店は宝の山に化ける」 澤田社長とサブスク仕掛け人・田端氏に聞く

 大丸松坂屋百貨店は婦人服レンタルのサブスクリプションサービス「アナザーアドレス(ANOTHER ADDRESS)」を3月に開始した。「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA」「マルニ(MARNI)」など50ブランドの服を月額1万1880円(税込)で3着まで借りられる。5年後に売上高55億円、アクティブ会員3万人、在庫は20万着の規模を目指す。同社の澤田太郎社長と、キーマンである田端竜也・DX推進部マネージャーに新規事業の背景を聞いた。

WWD:サブスクはいつから準備してきたのか。

澤田太郎・大丸松坂屋百貨店社長(以下、澤田):5年ほど前に(親会社の)J.フロント リテイリング(JFR)が米スタートアップ企業でファッションレンタルのル・トート(LE TOTE)に出資したことから始まっている。その頃からJFRとして服のサブスク事業に関心を持っていた。ル・トートは19年に百貨店のロード&テーラー(LORD & TAYLOR)を買収している。JFRは当時、シリコンバレーの企業に若手社員を派遣してデジタルビジネスの勉強をさせていた。私がシリコンバレーを視察した際、百貨店のニーマンマーカス(NEIMAN MARCUS)の中にファッションレンタルのレント・ザ・ランウェイ(RENT THE RUNWAY)が大きな店を構えているのを見てショックを受けた。百貨店の顧客が利用し、気軽にラグジュアリーブランドに触れられる入り口になり、最終的にはブランドのファンになっていることを知った。百貨店とシェアリングは相対するのではなく、相乗効果を生める可能性を知った。

WWD:まず米国の事例に触発されたと。

澤田:しばらくしてエアークローゼットの天沼(聰社長)さんに話を聞きに行った。まだエアクロが現在のようにメジャーになる前だった。彼の話を聞いたり、出資したル・トートなど海外の事例を研究したりする中で、JFRの新規事業として直接参入すべきか、スタートアップ企業への出資を通じて参入するか、検討してきた。社内にも慎重論もあった。そもそも百貨店はストック(在庫)商売の経験がない。でも新しいチャレンジすべきという流れができ、百貨店の新規事業として始めることになった。で、ここにいる田端に事業プランを出すように指示した。

田端竜也・大丸松坂屋百貨店DX推進部マネージャー(以下、田端):でも最初に作った事業プランは上からふくろ叩きにあった(笑)。練り直した事業プランにゴーサインが出たのは19年12月。そこから大丸松坂屋百貨店の営業本部の力を借りて、ファッションブランドへの営業活動が始まった。難航するかと思ったら、外資ブランドはレント・ザ・ランウェイと取引があるので話は早かった。

澤田:昨年5月に私が大丸松坂屋百貨店の社長に就任したので、社長直轄のプロジェクトに位置付けた。当時、最大の壁はシステムだと考えていた。

田端:JFRや大丸松坂屋はいわゆるレガシーシステムなので、これに組み込むとかなりややこしい話になる。諸々の調整で1年くらいかかってしまうかもしれない。ならば、イチから在庫や顧客とのリレーションのシステムを作った方が迅速に臨機応変に動けると考えた。百貨店とのポイント連携などは一旦棚上げし、とにかくスタートを切ることにした。

WWD:「アナザーアドレス」に続くデジタルの新規事業も計画しているのか。

澤田:もちろん、そのつもりだ。いずれは事業利益5億円を稼げる事業を10個くらい作りたい。それで百貨店の1店舗くらいの収益になる。とにかくトライ&エラーを重ねる。若い人には失敗を恐れないでどんどんチャレンジしてほしい。経営側は腹をくくっている。

WWD:デジタル関連の新事業を進めるには社内体制や人材は?

澤田:3月1日付で新設したDX推進部が中心になる。分かれていたデジタル関連の部署を統合した70数人のチームだ。「アナザーアドレス」もここの管轄になる。部長には当社を退社してIT企業で働いていた岡崎路易に復帰してもらった。百貨店は保守的なので、いきなりIT のプロパー人材がリーダーになると萎縮してしまう。彼はITの知見だけでなく、百貨店の強みも弱みも知り尽くしている。

私は社長就任後、全員の部長と面談した。そこで分かったのは既存事業でもDXを用いれば宝の山になるということ。「アナザーアドレス」のような新規事業ではなくても、化粧品や美術品だってDXによって大化けできる。化粧品ではオウンドメディア「デパコ」とECとリアル店舗を三位一体にする改革に乗り出している。百貨店のOMO(オンラインとオフラインの融合)は人の魅力がキーポイントになる。大手のECモールとは異なり、●●さんが勧める商品、●●さんが接客する商品を買いたくなるといった差別化ができる。当社が得意とする美術品もバーチャル画廊のような機能によって、アーティストやキュレーターとの双方向コミュニケーションが体感できるものになるだろう。

WWD:「アナザーアドレス」の反響は?

田端:会員数は当初の計画通りで、まずは順調な滑り出し。特定のブランドや商品に人気が集中してしまうのではないかと心配していたが、海外のハイーブランドもドメスティックブランドもけっこう広く利用されている。ウィメンズで開始したが、メンズを望むお客さまの声も届いている。秋に向けて新しいブランドも増えるだろう。

澤田:田端はまだ32歳。百貨店の常識に染まりきっていない彼らの世代にとても期待している。

WWD:百貨店の新規事業の責任者としては若い。これまでどんなキャリアを重ねてきたのか。

田端:実は百貨店事業の経験は少ない。11年に新卒で大丸札幌店に赴任してワイン担当として売り場運営に従事した。ソムリエの資格を取ったりもしたが、すぐにJFRの新規事業開発部門に映って、ITやスタートアップ企業の案件に携わった。この間、シリコンバレーを頻繁に行き来したり、マレーシアに短期留学したりして外の世界を見てきた。

澤田:田端は百貨店の流儀に染まっておらず、広い視野でマーケットを俯瞰できる。彼に限らず、そんなマインドを持った若い社員が増えているので、とても頼もしく思っている。
田端:長くお客さまに信頼されてきた百貨店を持つ当社だからこそ、できることがたくさんある。大丸松坂屋やパルコなどJFRグループの顧客基盤も生かし、アナザーアドレスを手始めに新しいことをどんどんやっていきたい。

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