ジュエリーデザイナーの奥田浩太は、米パーソンズ美術大学大学院の2018年秋の卒業ショーで巨大なマネークリップと1ドル札をモチーフにしたドレスを披露した。それまでも「ITS」のジュエリー部門でグランプリを受賞するなど、実力は折り紙付きだったが、“ 価値の本質”を解いたそのコレクションはSNSで瞬く間に拡散。それを目にしたニッキー・ミナージュ(Nicki Minaj)やカーディ・B(Cardi B)、マイリー・サイラス(Miley Cyrus)、カニエ・ウェスト(Kanye West)、リアーナ(Rihanna)らファッションに目の肥えたセレブからラブコールがかかるようになった。8年間の海外生活を経て、コロナとBLM運動で昨年帰国したが、「インターネットがあれば場所はどこでも構わない」と言う本人の言葉が示す通り、変わらず国内外のプロジェクトをこなしている。世界を股にかけ、本物の価値を発信する奥田浩太とは?
WWD:ジュエリーデザイナーを目指したきっかけは?
奥田浩太デザイナー(以下、奥田):ファッションが好きで、ファッションデザインをするためにイギリスに留学した。でも初日に、ミシンとか糸とか布とか、空気感が全部自分には合わないことに気付いた。ただ、ありがたいことに1年目のファウンデーションコースは、服以外にも陶芸や鉄、ガラス、木などたくさんの素材に触れる機会があって、その中でも金属を触っているときがすごく心地よく感じた。でも彫刻家や陶芸家になりたいわけじゃない。ファッションの仕事をしたいという思いは最初からずっとあったから、ファッションを志す情熱的で感度の高い学生が集まるセント・マーチンで、ジュエリーを学ぶことにした。
WWD:その後、米パーソンズに進学することになるが、お金をテーマにした卒業コレクションが話題になった。“マネーコレクション”はなぜ生まれたのか?
奥田:“価値のロジック”に興味があった。ジュエリーの世界では金やダイヤモンドには資産としての価値があるけど、“おばあちゃんから引き継いだ指輪”にも物語という価値がある。価値とは何かを解体する試みとしてお金に行き着いた。今思えば、小学校3年生のときにお金のリサーチをしたことがある。僕は人間が“あの物体”に執着する理由が気になって、アイデンティティーを掘り下げた。
WWD:現在の主なクライアントは?
奥田:「アーカー(AHKAH)」や「テルファー(TELFAR)」、東京やNY、ロンドンのブランドのジュエリーデザインが中心。帰国してからは「ブラックアイパッチ(BLACKEYEPATCH)」や「ワイズ ピンク(Y'S PINK)」「クードス(KUDOS)」「レシス(LES SIX)」、ラッパー・舐達麻のBADSAIKUSHのジュエリーなども作っている。10前後のプロジェクトを常に回している感じ。
WWD:非常に幅広いクライアントの琴線に触れた理由をどう分析する?
奥田:今まで分業だったブレストからのデザイン・生産をワンストップで行うから。それに、ラッパーと僕は真逆のタイプだけど、内に秘めたハードコアな部分が好まれるのかも。アメリカでは「ユニクロ(UNIQLO)」や「スワロフスキー(SWAROVSKI))」のサポートを受けながら学校に通っていたから、そのときに見せ方を勉強した。ファッション業界の人とコミュニケーションする場合でも、ジュエリーの0. 1 ㎜の違いを提案するのはすごく難しい。だから僕は実物がどう見えるかとかどう輝くかとか、見せ方のバリエーションやこんな組み合わせもできるということを、できるだけ分かりやすく3Dを使って説明している。ジュエリーの知識がない人に対して独りよがりにならないように。あとは、リクエストに対してこういうのが好きだろうなという感覚もある。
WWD:10年後はどうなっていたい?
奥田:10年後は生きているかも分からないし、僕の仕事は生モノだからくたばっているかも知れない(笑)。でもアートを文脈に持たせて、ジュエリーという身にまとうものから空間をまとうものにも挑戦したい。例えば生活空間に合う家具やラグ、絵画、カトラリーレストを作るような活動ができていれば楽しいだろうな。
WWD:家具やインテリアとジュエリーの共通点は?
奥田:自分の中で美しいと思えるもののジャッジはあるけど、デザインの共通点はどうだろう……。どちらも僕がデザインしたものと分かるのが究極だけど、デザイン自体は正直誰でもできると思う。このライン取りが美しいみたいな感覚はあっても、その原理を突き詰めていくと誰でも真似できる。ただ、そこにラック(運)や人とのつながり、タイミングが重なって違いが出る。僕もたまたま注目してもらった。本当にありがたい。
WWD:今後の目標は?
奥田:淡々とやっていくだけ。皆さんの期待に沿えるようなものが作っていけたらいい。先の見えない不安はあるけど、ふと来るチャンスに対して常に準備をしておきたい。
【推薦理由】
奥田デザイナーの“マネーコレクション”がSNSをきっかけに拡散されたことで、昨今はやりのSNSを中心としたマーケティングのように思いがちだが、彼自身のモノ作りは非常に繊細で、歯科医である父親譲りの技巧派。今もメキメキと腕を上げている。知性を感じさせるコンセプトはもちろん、彼のクリエイションそのものが多くのセレブリティーのハートをつかんでいる。“磨けば磨くほど光るダイヤの原石”とはまさに彼のこと。その輝くセンスは、今後ますます世界を魅了するだろう。