ファッション

元[Alexandros]の庄村聡泰が新ファッションプロジェクトで心機一転 絶望から救ってくれた「服とスナック」

 局所性ジストニアのため、人気ロックバンド[Alexandros]を3月21日で勇退したドラマー庄村聡泰が、ファッションスタイリストやバイヤーらと共に、ファッションプロジェクト「スナック NGL」をスタートさせた。同プロジェクトは、「さまざまな⼈、物、事を継(ツギ)ったり包(バオ)ったりする――」という意味深なコンセプトのもとアイテムを製作し、ディープスポットである“スナック”から現代のライフスタイルを提案する。「継」と「包」の言葉が意味する彼らのファッション的な解釈とは?そして、なぜスナックだったのか。バンド時代の収入はすべて服に注ぎ込んできたという根っからの服好きである庄村聡泰と、スタイリストの有本祐輔に話を聞いた。

飲みの場のノリとひらめきが一歩を踏み出す勇気に

——3月に[Alexandros]のラストライブを終えましたが、勇退を決めてから約1年を振り返ってみてどうだった?

庄村聡泰(以下、庄村):何十年も自分の軸だった“ドラムを叩くこと”ができなくなったとき、存在理由を失ったように思えて、絶望の淵に立たされた気分でした。そんなときに自分の周りを改めて見渡してみたら、大好きな洋服や共通の趣味を持つ友人がくっきりと浮かび上がってきたんです。これまで“ドラムを叩くこと”しか考えてこなかったけど、叩けなくなった人間が次にやるべきことは、また叩けるようになることではなくていいのだと思えたんです。これも新たな自分の個性として受け入れて、進んで行こうと決意しました。

——その友人や洋服の存在が「スナック NGL」を始めるきっかけに?

庄村:そうですね。勇退を発表したときに、「お前はバンド以外でも面白いこと考えられる」とたくさんの友人が連絡をくれました。なかでもアーリー(有本祐輔)は、「次はスタイリストをやってみたら?」と言ってくれて。

有本祐輔(以下、有本):僕と聡泰はもともと6〜7年くらいの付き合いなんです。彼はファッションセンスも抜群だし、話も面白くて説得力があるからぴったりだなと思いました。

庄村:ちょうどその時期に僕も友人からスタイリングを頼まれていたときでした。アーリーは、スタイリストとして、これからどうやって事業を展開していくのか興味があったので、「じゃあ、飲みに行くか!」と(笑)。スタイリングのことよりも、「こういうモノが好きなんだよね」と熱く語っていたら、アーリーが「じゃあ、それを一緒に作ろうよ!」と、提案してくれたんですよ。

有本:いつものパターンだよね(笑)。飲んでいくうちに、そもそもの話よりもお互いの趣味や好きなことの話がメインになっていました。またこのコロナ禍で大手セレクトショップで働いている友人たちが、これからの働き方について悩んでいた時期でもあったんです。会社というフィルターを通さなくても、自分たちで何かできるかもしれないねとよく話していました。それで、今回のメンバーであるMDの近藤良太とバイヤーの山口翼にも声をかけて、みんなでやるか!となりました。

庄村:要するに、それぞれの「いつか何かをやりたい」のタイミングがそろったんですよね。個々が頭で思い描いていたことを、同じ鍋にほうり込んだら美味しい料理が出来上がるだろうなと想像ができたんです。

有本:そんな飲みの場のノリとひらめきでプロジェクトチームが結成されました(笑)。

——プロジェクトの場所にスナックを選んだ理由は?

庄村:まず、アーリーがこのスナックの常連だったんです。

有本:よくお世話になっているお店で、ママと仲がいいんですよ。4月3日にオープンした限定ストアには約250組の応募が来たんです。当日は聡泰が店長として、当選した50組に接客を行いました。

庄村:プロジェクトの名前を考えているときに、アーリーがNGL(Not Gonna Lie=ぶっちゃけ)というスラングを提案してくれて、それにプラスして屋号を入れることになりました。僕たちが飲みながら本音で語り合ったからこそこのプロジェクトがスタートしたので、その状況とスナックという場所がぴったり重なったんですよね。スナックは、会話のセッションを楽しむ場所でもあるし、ママが中心となっていろいろな人が集う“ちょっとした社会”でもある。僕たちのプロジェクトのストーリー自体、とてもスナック的だよねと。

有本:スナックは、英語でお菓子という意味じゃないですか。そういったお土産的な感覚でアイテムをリリースできたらいいなとも思いました。

庄村:メンバーの役割は、僕が飲みの場で出た話をまとめてコンセプトを考え、具体的な商品開発が良太さんと翼さん、最終的なまとめ役がアーリーです。

生き方、飲み方、遊び方を次世代へ継いでいく

——このプロジェクトの大きなコンセプトとして掲げている“継(ツギ)る”と“包(バオ)る”について教えてください。

有本:“継ぎ”シリーズは、海外から仕入れた古着をベースにリメイクアイテムを作っています。きっと、世界中のワゴンセールで眠っていたであろう服を、僕たちのフィルターを通してパッチワークし、“ツギった”ナイロン素材30型、フリース素材30型を生産しました。

庄村:サステイナブルやSDGsを高尚に語る訳ではなくて、「この時代のこのアイテム、かっこよかったよね〜」と、自分たちの好きだったもの振り返って、それを次の世代にも見せていきたいし、残していきたかったんです。それを“リメイク”と表現するよりも、次世代に“継ぐ”ものとした方が僕ららしいかなと思いました。そしたら、このアイテムを作ってくれたベテラン世代の職人さんも「こんなテンションの上がる仕事はひさしぶりだ!」と、とても喜んで作ってくれたみたいです。この時点で僕らも彼らの技術や気持ちを“継いで”ますよね。世代に関係なく、こうした気持ちがつながっていけばうれしいです。こういう繰り返しが文化を築き上げていくと思うので。

有本:“包(バオ)る”は、古着のデニムを解体して、トイレットペーパーホルダーやスプレーケースなどを作り、生活雑貨を包んでみました。

庄村:“包(バオ)”は、スナックから派生した言葉です。スナックって、小さな空間でママを中心に仕事や世代関係なく老若男女がセッションできる場所なんです。自由な雰囲気に包まれて心がほぐされることで、いろいろな会話が生まれていく。僕らもポップアップショップに来たお客さんや、アイテムを手に取ってくれる人を、そんな風に包んでいきたいなという思いを込めています。

有本:今は難しいですが、ゆくゆくは「スナック NGL」の本当のスナックも営業したいですね。実際にその場に来てもらってお酒を飲みながら話して、お互いに新たなものを引き出せたら面白くなりそうですよね。そのほかにもTシャツやハット、キャンドル、アメリカのビンテージポスターを販売しています。

庄村:ずっとお酒のことばかりを話していますが(笑)。“酔う”という感覚は、単にアルコールを取り入れることだけではなくて、音楽を聴いて気分が上がる、映画を観て泣く、恋に身を焦がすなど、日常生活における好きなモノやコトに没頭している時間そのものだと思うんです。いわゆる“普通モード”ではないときに吐き出されるものをソースに、それを僕らが可視化して作っていきたいです。

——同プロジェクトで今後チャレンジしていきたいことは?

有本:瞬発的なものではなく本気で事業として考えているので、月に1回くらいのペースでアイテムを発売し、将来的には日本各地や海外で世界観が伝わるポップアップを開きたいです。

庄村:このご時世で世間的にはシリアスな雰囲気ですが、頭が柔らかくなるようなラフな提案をし、いろいろな人と内面的に“密”になれる場を作りたいですね。アパレルを通して、生き方、飲み方、遊び方を伝えていきたいです。

——これまでミュージシャンとして表舞台に立ってきたが、新たな表現のステージで心境の変化は?

庄村:ドレッドヘアから断髪をしたこのヘアスタイルがすべてを物語っているのではないでしょうか。視点を変えて物事を考えてみると、いろいろなものが見えてくるんです。これまで僕が表舞台で見てきた景色は、きっと違う場所でも生かせるはずです。ドレッドヘアを思いっきり楽しんだ後にスキンヘッドも楽しむ感覚で、これまでの自分がビビるくらいのかっこいいことをやりたいです。新たなスタートを友人と共に挑戦できることは、とても幸せですね。

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