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「経営者もクリエイターであるべき」 佐藤可士和が語るリーダー像とは?【ネクストリーダー2021】

 5月10日まで国立新美術館(東京・六本木)で「佐藤可士和展」を開催中のクリエイティブディレクター、佐藤可士和氏は、「ユニクロ(UNIQLO)」や「楽天(RAKUTEN)」、「セブン-イレブン(7-E LEVEN)」など、誰もが毎日目にする多くのリーディングカンパニーのクリエイティブを手掛ける日本を代表するクリエイターだ。ロゴに留まらず企業のブランド戦略まで設計し、クリエイティブの概念を更新し続ける。今回、「WWDJAPANネクストリーダー2021」の審査アドバイザーとして、若きリーダーに投げかける。社会課題と企業クリエーションについて、そして佐藤氏がネクストリーダーだったころのこと、これからのネクストリーダーに求められることについて聞いた。

WWD:今回の「ネクストリーダー」企画では、推薦者である編集部員のサステナビリティやLGBTQ +、フェムテックなどへの意識が非常に高く感じた。

佐藤可士和(以下、佐藤):クライアントワークの中でも多様性や地球環境への意識が高まっている。特にリーディングカンパニーには大きな責任があり、その中で、企業の利益と社会の利益を両立させていかなければいけない。それは以前から変わっておらず、時代とともに社会が求めていることも変わっていくので、今はサステナビリティが最も重要ということ。例えば、馬車から車に変化した時代は「移動する」ことをどれだけ楽にするかが求められて、車の誕生で社会が劇的に変わった。でも排気ガスなどの弊害が出てくると、地球環境を守る必要が出てきた。社会が求める変化に敏感に気づいているのだと思う。

WWD:そのサステナビリティについて、何をどうすれば良いか分からない企業も多い。

佐藤:確かに、自分の会社の利益には目が向くし、給料が上がるとか欲しいものが買えるというのは、分かりやすくて身近なことだが、地球のことは感じられにくい。南極の氷が溶ける話は遠い国の話で、“自分ごと化”できなくなってしまう。でもここ10年ほどは、日本でも異常気象など命の危険を感じることが増えた。災害以外でもコロナのパンデミックを経験して自分ごと化できるようになっていると思う。

WWD:クリエイションにも影響する?

佐藤:影響しないとダメ。クリエイションとは人間が少しでも社会を、未来を良くするための知恵。全てのクリエイティブが何かの問題解決に直結している。美というものが何なのかを考える中で、人間社会を把握したいというニーズがあったからアートが生まれた。アート、デザイン、テクノロジーなど「もっとこういう風であったらいいのに」というポジティブな問題解決のためにクリエイティブはある。自分が作りたい服やファッション界でウケるだけの服を作っていては、少なくともリーダとしてはダメ。例えば、「ユニクロ」は“究極の普段着”を掲げて、唯一無二のポジションを築きつつある。「何のためにデザインしているのか?」を常に考えること。それを明解にしないと存在価値がなくなる。ファッション業界だけではなく、全ての人が社会に何を求めているのかを考えないといけない。

WWD:ネクストリーダーに必要な価値観とは?

佐藤:ファッションやビューティ以外にも興味を持つこと。どの業界も同じだけれど、業界内だけを見ている傾向がある。業界の中だけで求められることは、外の世界から見たら本当に微差なことが多い。そういった感覚を持つことが必要だと思う。

WWD:それには教育も重要なのでは?

佐藤:もちろん、教育もものすごく大事だと思う。スキル以外の根本的な本質を見る力を養うことが一番重要。表面だけマネても何も得られないから。

WWD:学生時代にこれだけは頑張っていたということはあるのか?

佐藤:クリエーターに必要なことは「好奇心と集中力」だと思う。1日20時間ギターを弾いて曲を作るとか倒れるまで絵を描いていたとか、僕が頑張っていたことをあえて挙げるなら、尋常ではない集中力でモノを作っていたこと。今でも深く深く入り込んでそこから抜け出たときにパーっと広がる感覚がある。例えばロゴや質感、ミリ単位の形、音などが、カメラのレンズのようにぴったりと合う瞬間。どれだけ深く入り込んだかで答えが違ってくるから、好奇心と集中力は当時と変わっていない。

WWD:職業にもよるが、今回選出したネクストリーダーの年齢は30〜35歳。可士和さんは35歳で博報堂を独立した。当時のビジョンは?

佐藤:辞めた理由の一つがメディアの変化だ。勤めていたのが1989〜2000年まで。最初の5年は広告を作っていることに疑いがなかった。テレビ、雑誌、新聞がコミュニケーションのど真ん中だったからだ。ところが97年ぐらいから何かが違うなと感じ始めた。それは後になって分かったのだけど、96年から97年にかけて携帯電話の需要が爆発的に拡大したことが大きく影響している。みんなが携帯を持って街に出るようになって、コミュニケーションのあり方が変わっていった。そもそも僕は美大出身でデザインが上位概念にあったので、広告もデザインの中にある1つの手段という考え方。一方で、広告代理店は広告が主で、その中にデザインがある。コミュニケーションとは、商品開発や店のデザイン、ロゴのデザインなど、多岐にわたるもののはずだけど、当時の広告代理店ではそれができなかった。そんな時、99年に初めて名指しでもらった仕事が「キリンチビレモン」の依頼だった。ネーミングからパッケージデザインや売り方までを手掛けられ、結果的に大ヒットした。だから全てのモノをクリエイションの対象にできるという考えで独立した。

WWD:クライアントにユニクロや楽天のような大企業が目立つ一方で、中小企業の依頼も受けている。引き受ける際の基準は?

佐藤:ビジョンを持っているか、そこに共感できるかどうか。ただ「数字を上げたい」「儲けたい」と言われても難しい。経済成長やビジネスの発展は結果でしかないから。もちろん数字を上げることは経営者の仕事だけれど、僕は彼らが持つビジョンをどう伝えるかのコミュニケーションをデザインする。多くの場合はコミュニケーションが行き詰まっているだけで、クリエイションで流れるようにすると売り上げも上がっていく。

WWD:今後のビジョンは?

佐藤:サステナビリティやコロナなど、さまざまな問題を解決して、少しでも社会が良い方向に進むようにしたいと思う。社会が求めていること、時代に応えられるようなプロジェクトに新しい概念を提示していきたい。

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