(左)中川綾太郎ペロリ社長/1988年生まれ。兵庫県出身。早稲田大学中退。2013年から女性向けキュレーションプラットフォーム「メリー」を運営する。現在は、起業家による投資家集団トーキョー・ファウンダーズ・ファンドに所属するなど、個人投資家としても活動。趣味は漫画を読むこと (右)戸川貴詞カエルム社長/1967年生まれ。長崎県出身。明治学院大学卒。2001年12月にカエルムを設立。03年に「ナイロン ジャパン」を創刊した。現在は「ナイロン ジャパン」編集長、「シェルター」編集長を兼任
月間ユニークユーザー2000万人という巨大キュレーションメディア「メリー(MERY)」を運営するペロリが3月25日、初めての紙媒体「メリー」を、「ナイロンジャパン(NYLON JAPAN)」などで知られるカエルムと共同で創刊した。20代前半の女性がコアターゲットで、首都圏大都市を中心に全国書店で販売している。雑誌経験者のペロリの中村香織が編集長を務め、クリエイティブ・ディレクターに戸川貴詞カエルム社長が就く。役割分担としては、ペロリが大枠をディレクションし、カエルムが制作や流通を担当。共同で営業するというスタイルだ。5万部を発行したが、発売当日から話題を呼んでおり、8月には2号目を発行することも決定。コストも時間も労力もかかるが、なぜ今、雑誌を作ろうとしたのか?「メリー」の発起人でもある中川綾太郎ペロリ社長と戸川貴詞カエルム社長に話を聞いた。
雑誌「メリー」創刊号は表紙に有村架純を起用
WWDジャパン(以下、WWD):創刊の理由とは?
中川綾太郎ペロリ社長(以下、中川):「メリー」を地球にしみ込ませたい。そのためには紙媒体が必要だと感じた。これまでも「メリー」は、スマホにおける雑誌を読む体験を提供するサービスとして創刊した。また、創刊時から紙へのリスペクトもあった。ウェブにはウェブの良さがある。紙には保存性や写真にこだわれることなど、ウェブでは表現できない部分が多くある。また、雑誌として流通することで、「メリー」を知ってもらえるメリットもある。
WWD:改めて、ウェブの良さとは?
中川:いつでもすぐに見られるし、夜の10~12時というピークタイムに見た「明日カワイクなる方法」を翌日すぐに活用することができる。雑誌は月に1回、1~2カ月先までを見越した情報発信に限られるが、ウェブは発信するコンテンツの数も制限しなくていい。SNSなどで拡散されるなどの相乗効果を生む可能性もある。
WWD:なぜこのタイミングなのか?
中川:「メリー」はアプリ全盛期の2013年に、あえてウェブメディアとしてスタートした。アプリはそれ自体を知らないとダウンロードされない。まずはウェブメディアとして、記事ごとにでもユーザーにリーチできる環境を作りたかった。その後、ファンが増えるにしたがってアプリを開発してきた。今回はファンのために、ウェブ以外の他のシチュエーションでも「メリー」を見てもらえるように紙媒体を選んだ。ファンが付いてくれた今だからこそ、やりたかったことであり、やれることだと思う。
WWD:「メリー」は今年2月、外部サイトの閲覧が可能になる複数外部パートナーとの提携を発表したばかり。その中にはカエルムが運営する「ナイロン」もあったが、今回、提携先としてカエルムを選んだのはなぜ?
中川:制作、流通、営業まで一気通貫してやっていることと、ソーシャルメディアへの取り組みも先進的であること、なによりも戸川社長が直接コミットしてくれて、パートナーとして取り組みやすい座組みが見えたことが大きな要因だ。
WWD:長年、雑誌に携わってきた戸川社長だが、今回の取り組みを決めた理由は?
戸川貴詞カエルム社長(以下、戸川):今後は紙の時代にあったやり方として単体の媒体だけで新しい価値を提供し続けることは難しいと思っていた。「メリー」には新たなユーザー価値を作る可能性がある。ビジネス的な発展がなければ取り組む意味はないが、表面的な部分だけでなくどんどんトライアルできる面白さや手応えを感じた。
次ページ:他にはない「メリー」独自のコンテンツの作り方とは? ▶
雑誌上でのスニーカー特集
ビッグデータを活用した新しいコンテンツの作り方
WWD:具体的に、「メリー」からどのように雑誌コンテンツを作るのか?
中川:「メリー」のビッグデータをもとに注目のキーワードを洗い出し、それを組み立てて特集を作る。アプリでは毎日リアルな情報が流れているが、雑誌はそれを月単位で見たいコンテンツへと昇華しなければいけない。また、雑誌の内容は全てウェブメディアと連動させるため、両者に合った特集の切り口を一つずつ考える必要もあった。例えば、紙面の「今買いたいスニーカー」という特集をウェブでは「靴ひもの結び方」という“明日使える情報”に落とし込んで公開するなどの工夫をつねに考えている。
戸川:特集を組み立てるスピード感には驚いた。今日話した内容が明日になればまた成長していて、それがウェブメディアとして成長してきた「メリー」ならではの“よりリアルな今”を反映できる力だということを理解した。雑誌を発売して終わりではなく、その前後にウェブでフォローするなど、流れを意識したメディアの作り方を考えるという点がこれまでともっとも異なる。だからこそ紙媒体を作り上げた今でも、100%の出来なのはもちろんだが、それを500%まで伸ばせたのではないかと感じてしまう。もはやラフの作り方から変える必要があるかもしれない。疑問を共有することで新しいアイデアがどんどん生まれている。
ウェブ上ではスニーカー特集を“明日使える”靴ひもの結び方として紹介している
WWD:「メリー」ならではのコンテンツ施策はあるか?
中川:ペロリは昨年末からウェブ解析のためのシステムエンジニアを強化してきた。今後はウェブメディアと紙媒体両方の解析をし、それぞれにとってよりよい形のコンテンツ作りに生かしたい。他にも、誌面のアイテムをすぐ買えるようECサイトとつなげた連動企画や、インスタグラムユーザーを巻き込んだハッシュタグキャンペーンなど、クロスメディアならではの施策を多く実施している。
WWD:さまざまな施策を実施した反響は?
中川:EC連動企画では紹介したiPhoneケースが3日で400個売れるなど、その効果を実感した。創刊号の誌面広告も想定以上に入っており、ビジネスとしても順調な滑り出しを切れたと思う。昨年末に実施したテレビCMも好調の要因で、モデル効果もあって放映前後でアプリのダウンロード数は100万以上増加した。4月末からゴールデンウイークにかけて、新CMを流す予定で、8月には2回目の発行をしていく予定だ。
WWD:これから目指すクロスメディア像とは?
中川:他と比べるのではなく、これまでなかったものを作っていくことに価値がある。ファーストムーバーになりたい。時性やインタラクティブというメリットは、母集団があってこそ生かされる。今後もファンを大切にしつつ、雑誌を買う前後も楽しめる体験を届けたい。
WWD:カエルムの新たな取り組みの予定は?
戸川:2つ新しい取り組みを予定している。一つはグローバルがキーワードだ。これまでもコミュニティービジネスという考え方が会社の根底があったが、さらに価値あるものを作っていきたい。もう一つは、メディアの在り方論になるが、小さくてもより価値のあるメディアをブランディングをしてビジネスにつなげていきたいと考えている。まだ観念的な話しかできないが、時期が来たら話すので、楽しみにしていてほしい。