オトナたるもの、“Tいち”(Tシャツ一丁)で往来を闊歩するべからず!――かつて所属したメンズファッション誌で再三そう伝え、自らも首元にスカーフやバンダナを巻くなり、インにシャツをレイヤードするなり、袖を通さなくともジャケットを携行するなり、“Tいち”で街に出ないことをモットーとしてきた。それが昨今のシンプリシティ回帰の流れや、30度に迫る陽気のせいもあり、反動的に“Tいち”したくなった。
とはいえ、そこには勝手な気恥ずかしさもあり、“Tいち”でいい理由が欲しくなる。すがったのは東京・中目黒の「カリフォルニアストア」だ。アパレルメーカーや雑貨店、セレクトショップで販売や営業、企画などを経験した秋山孝広さんが2008年にオープンした。「『ラウドカラー(LOUD COLOR)』というオリジナルブランドを展開していたんですが、5年ほど前から手刷りのTシャツをメインにするようになりました」と秋山さん。今では売り上げの約8割を占めるという。
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この手刷り=スペシャル感こそが、僕の“Tいち”の拠り所だ。客はまずTシャツ、スエット、パーカーからボディーとサイズを選ぶ。「土産物にある、あのチープな感じを出したくて」、全てアメリカブランド「ギルダン(GILDAN)」製だ。ボディーの持ち込みは受け付けていない。プリントはシルクスクリーンを使ってカウンターで行う。作業時間は7~8分。「シルクスクリーンは独学。手刷りならではの、色むらやかすれもアジと思って楽しんでほしいですね」。
柄で特徴的なのは、どこかに“おっぱい”のモチーフを忍ばせていること。なぜ“おっぱい”なのか?「以前は、カリフォルニアで買い付けたアイテムを並べていたんです。だから店名もカリフォルニアストア。アメリカのアンティーク雑貨のモチーフって、異常に“おっぱい”が多いんです(笑)。僕は個人的にはお尻派なんですが、お尻だと妙にリアルというか笑えなくなってしまって……。その点、“おっぱい”はポップ!」。約200の柄はすべて秋山さんの手によるもので、「お客さんがいない時間に店のカウンターでノートパソコンを開いて、イラストレーターを使って作業しています。70年代のアメコミ系をコラージュするのが好きですね」。1柄にかける時間について聞くと、「10~15分くらいです。逆に、う~ん……と悩んだものはあきらめます。それって、きっと世の中に必要とされていないものだから」と笑う。「コロナ禍でもデザインすることはやめない!」とも言い、週いちペースで新柄を発表している。つまり、柄数は増え続けている。完成したデータを午前中のうちに京都のシルクスクリーン専業メーカーに送ると、当日中に仕上げて出荷してくれるという。
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今回は「マイティ〇ウス」をコラージュした柄を、半袖Tシャツ(3960円)に手刷りしてもらった。ちなみに、こちらは耳に“おっぱい”が隠れている。既製品の肌の色は薄めだが、少しビビッドなオレンジに変更してもらった。こんなアレンジができるのも面白い。1100円で1柄ずつプリントを増やすこともでき、「前身頃に3柄、後身頃に4柄入れたツワモノもいた」そう。
果たして完成した世界に一枚のTシャツ。ここまで書いてきたストーリーをいちいち説明すれば、おじさんが“Tいち”でうろうろしても後ろ指を指されないのではないか……と考えている。