資生堂が化粧品専門店との連携を強めるためECプラットフォーム「オミセプラス(Omise+)」を3月下旬に立ち上げた。なぜ今、専門店との絆を深める取り組みを行うのか。その背景には専門店は地域に根ざし、顧客との信頼関係が強固であることが関係する。コロナ禍で多くの人が店舗に足を運ぶことを控える傾向が続く中でも、専門店は売り上げ含め健闘し改めて存在価値が見直されているのだ。資生堂が推進する日本事業の高収益基盤の再構築の一環でもある「オミセプラス」の立ち上げに携わる横山聡=資生堂ジャパン プレステージブランド事業本部デジタル・オムニ推進グループ グループマネージャーに立ち上げの狙いを聞いた。
WWD:「オミセプラス(Omise+)」スタートの経緯は。
横山聡=資生堂ジャパン プレステージブランド事業本部デジタル・オムニ推進グループ グループマネージャー(以下、横山):お客さまはSNSをはじめ多くのデジタルツールを活用し情報や商品を便利な方法で入手している。コロナ禍でその流れが加速した。そこで、当社が持つECサイトの仕組みや美容コンテンツを活用すれば専門店のお客さまにもリアル店舗だけでなくECサイトでも買い物やサービスの体験を提供できると考え「オミセプラス」を立ち上げた。
WWD:「オミセプラス」のスキームは。
横山:通常のECサイトは商品を選んで決済するが、「オミセプラス」はお客さまが馴染みの専門店など店舗を選び、その店舗が扱う商品を購入する流れが基本となる。あくまでも馴染みの専門店のECサイトで買い物をしているという認識を持ってもらうのが大切だ。現状、「オミセプラス」の利用には当社のウェブサイト「ワタシプラス(watashi+)」の会員IDが必要だが、利用顧客自身がワタシプラスIDと花椿クラブID(各専門店で発行している会員ID)を紐づけることで、より多くの顧客情報を各参加店に共有することができる。
WWD:スタート時は500店舗の専門店と連携する。
横山:全国の500店舗の専門店から賛同を得て取り組みが始まっている。現在、約8000店舗の専門店とつながりを持つが、より多くの店舗に参画してもらえるために検討中の専門店は何がネックになっているかを聞き取り、役立つプラットフォームにする。ECサイトの立ち上げは投資やオペレーションも必要で負担も大きい。当社と一緒に組むことで専門店・プレステージならでは体験が提供できるだろう。
WWD:「オミセプラス」は随時ブラッシュアップを図る。
横山:現在はECサイトとしての機能を有するが、今後はデジタルカウンセリングやチャットを活用した接客も導入する予定だ。馴染みの店舗スタッフが店頭だけでなくデジタル上でつながれば、いつでも安心して「オミセプラス」で購入してもらえる。またCRMの導入も予定する。リアル店舗との連動をどうスムーズにするかも課題の一つだ。「オミセプラス」は専門店との絆を強めるマーケティングツール。個店ごとに魅力があるからこそ届けられる価値があると思っている。
WWD:前期(20年12月期)の専門店事業の売り上げは。
横山:日本事業の中で専門店の売り上げ比率は20%程度。専門店もインバウンドの需要減が響いた。国内のお客さまとのつながりを強めるためにも「オミセプラス」が果たす役割は大きい。EC比率を高めるのも大切だが、まずは専門店とお客さまの絆を強めて生涯顧客を増やすことが先決。その先に売り上げがついてくるだろう。