ファッション

「グッチ」が100周年 アレッサンドロ・ミケーレが最新コレクションでの“ハッキング”を語る

 「グッチ(GUCCI)」は、今年100周年を迎える。しかし、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)=クリエイティブ・ディレクターは、そんな歴史あるブランドを「何度も生まれ変わり、再生し続ける幼い子ども」と捉え、「いくつもの人生を経ても、これほどの人気を保ち続けていることは驚くべきことだ」と話す。4月15日にデジタルプラットフォームで映像作品を通して発表された最新コレクション“アリア(ARIA)”でも、伝統を受け継ぎながら変化や再生によって新たな可能性を探求する彼のアプローチは際立っていた。同コレクションは、数カ月以内に中国・上海でも披露される予定だ。

 約1年前にコレクションのペースを変えることを発表して以来、「グッチ」はファッション・ウイークから離れ、独自のスケジュールでコレクションを発表している。その決断により、パンデミックの厳しい状況や映像の準備に追われた日々があっても、ミケーレは活気に満ちていて幸せだという。「コレクションに自然なリズムをもたらすことで自由を感じた。もちろん、このような独自のペースで歩むことはより大きな責任を伴う。だから、会社に神経を注ぎ、丁寧にブランドをポジショニングしたいと考えているんだ。(ファッション業界には)とても民主的な動きが見られ、デザイナーたちは他のブランドを妨げないような方法で自身の手掛けるブランドをポジショニングしている」。

 そして、彼のポジティブなムードが反映された映像作品は、視聴者に強いインパクトを与えることを意図していたと明かす。「私は異なる“言語”を扱い、それらを混ぜ合わせり、そこから形作ったりするのが好き。ガス(2020年11月に発表されたコレクションの映像作品を監督したガス・ヴァン・サント)と取り組んだ後、ブランドの100周年を祝いたいと思った。『グッチ』は単なるファッションではなく、その本質であり、人生でもある。そして、高い人気を得ていることが大きな強みになっている。『グッチ』は、映画やその登場人物であり、歌やポップスター、そして世界でもあるんだ」と話す。

 実際、フローリア・シジスモンディ(Floria Sigismondi)と共に監督した今回の映像のサウンドトラックには、リル・パンプ (Lil Pump)の「Gucci Gang」やリル・ヨッティ (Lil Yachty)をフィーチャリングしたバッド・ベイビー(Bhad Bhabie)の「Gucci Flip Flops」など、同ブランドに捧げられた数々の曲がミックスされている。現在、「グッチ」という言葉を使った曲は実に2万2000曲以上もあり、彼はその数に驚いたとしつつも「この名前には、そうなるにふさわしい力強さがある。『グッチ』は魔法の言葉のようなものだ」と語る。

 また、1995年に起きたマウリツィオ・グッチ(Maurizio Gucci)の殺害事件について触れると、レディー・ガガ(Lady Gaga)がマウリツィオの殺害を命じた元妻のパトリツィア・レッジアーニ(Patrizia Reggiani)を演じる映画「ハウス・オブ・グッチ(House of Gucci)」(2021年公開予定)も話題に。すでに注目を集めている同作については、「グッチの高い人気を反映している」と評価する。

 そんなミケーレの目に映る「グッチ」の“自然な再生”は、「ファッションは終わっていないし、ファッション・ウイークとは関係なく、終わることは決してないということを示している。ファッションは人生の表現であり、自分自身で管理できるものだ」とコメント。そして、「実験することへの情熱を再び見出した。この数カ月は困難で、今では友人に会うことさえも大きな価値を持つ。私たちは、多くのことを当たり前だと思っていたからね」と続ける。

 映像の制作自体は「『グッチ』への愛と意志の力の表れ」であり、「そこには、モデルを現地に呼び、彼らやスタッフを検査し守るという大変な努力があった」という。しかし、彼にとって「グッチ」は「偉大な神であり、煙がのぼる火山。だから、決して賛辞のトーンを下げてはいけない。それは、武勇伝から悲劇まで何百万もの物語から成るファッションの神話のようなものだ」とし、努力するだけの価値があったと説明する。

“アリア”に登場する多様なデザインの背景

 ミケーレは、「グッチ」が100年もの歴史があるにも関わらず、若い世代と深い関係性を築いていることを強調する。この若返りに関して、2015年にクリエイティブ・ディレクターに就任した彼が大きく関係していることは間違いない。しかし今回のコレクションでは、赤いベルベットのパンツスーツなど、トム・フォード(Tom Ford)が手掛けたアーカイブデザインにも光を当てた。そして、トムのことを「グッチ」を生き返らせた「天才」と表現し、「彼はブランドにニュアンスや官能性、贅沢さ、快楽主義といった要素をもたらし、核であったハンドバッグやラゲージのルーツからレディ・トゥ・ウエアを生み出した」と称える。

 また、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のデムナ・ヴァサリア(Demna Gvasalia)=アーティスティック・ディレクターにも敬意を表し、彼が確立したシルエットを“ハッキング(侵略)”して“グッチ化”。例えば、パワーショルダーのコートにGGマークをあしらったり、輝くスパンコールのスーツに両ブランドのロゴを並べたり。ウエアだけでなく、アイコンバッグに他方の象徴的な柄をのせたアイテムも登場した。この取り組みに関する噂がコレクション発表数日前に流れたことに関しては、「私たちはこのデザインで観客を驚かせたかったし、その反応を想像して2人で笑っていたので、ニュースが流れてしまい残念だった」とコメント。ブランドの外にある世界との対話という実験を続けていくことを目指すミケーレは、「クリエイティビティーは、対話や継続的な実験、自由を意味する。閉ざされた空間であるアトリエを飛び出し、認知度の高い2つのブランドの特徴的な要素やロゴを混ぜ合わせるのは、とてつもなく冒涜的な遊びをしているように感じた」と振り返る。“ハッキング”という言葉には、トム・フォードによる再生や、自身による新章の幕開けなど、新しいものを“上書き”することで再生し続け、100年生き続けたメゾンのアイデンティティへの敬意の念も込めた。

 そして、デムナと組んだ理由については、「私は、実際に知っている人や自分の人生の一部である人と一緒に仕事をするのが好き。ファッションはインスピレーションではなく、連続するハプニングだ。デムナのことはよく知っていて、彼の才能を認めているし、私たちにはたくさんの共通点がある」とコメント。「(デムナによる『バレンシアガ』の)デビューショーは素晴らしく、感銘を受けた。とても気に入ったし、心に残るものがあるショーだったよ」と続ける。そういった「バレンシアガ」の要素を再解釈するのは楽しかったというが、その要素は「創業者のクリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)が生み出したデザインとも異なるもので、厳格で魅惑的な服を作る偉大なクチュリエであった彼はおそらくこのようなことを認めなかっただろう」と話す。

 さらに、“アリア”コレクションでは全体を通して、“バンブー”バッグや“フローラ”パターン、ホースビットといった「グッチ」の歴史を物語るデザインも打ち出した。「戦後まもなく生み出された“バンブー”バッグの現代性と優れたスタイルは、まさにデザインにおける発明だ」と、ミケーレは称賛。長年にわたってビンテージの“バンブー”と収集してきたといい、「それはブランドを代表するアイテム。コレクションをスタイリングしているときに、いくつかはその場で装飾し直した」という。さらに歴史をさかのぼると、1800年代後半にまだ10代だった創業者グッチオ・グッチ(Guccio Gucci)は、ロンドンのサヴォイ・ホテル(Savoy Hotel)で働いていた。そこで見た豪華なトランクやスーツケースに感銘を受け、自身の名を冠した会社を立ち上げることを決意したという逸話もある。コレクションに“サヴォイ・クラブ(Savoy Club)”という言葉が登場するのは、そのためだ。数え切れないほど「グッチ」のデザインソースとなっている馬術の世界から着想を得たデザインも多い。「できることなら、グッチオ・グッチに会ってみたかった。彼は独創的なアイデアに溢れる人で、おそらく気付かぬうちに神話を生み出していたのだろう」。

 その一方で、解剖学模型の心臓のようなスパンコールのクラッチなどミケーレらしい要素も目を引いたが、「これはミステリアスに鼓動を刻みながら輝く、ブランドのポップな心臓。最後のシーンで宙に放り投げられるのは、『グッチ』の未来がどんなものになるかは分からないということのメタファーだよ」と明かす。

 映像作品の共同監督を務めたことについて尋ねると、彼は「いかにイメージを通して自分が心の中で思い描くものに命を吹き込むかという、ストーリーテリングが好き」と回答。作品では、登場人物たちはサヴォイ・クラブへと入っていくが、カメラのフラッシュやライトが眩しく光るランウエイを歩いて出口を抜けると、自然の中にたどり着く。そこに広がるのは、モデルが宙に浮かぶなどさまざまな意味で高揚感を感じさせる瞬間。「これは私たちが開きたい真のパーティーのための瞬間であり、“アリア”は酸素だ」という。

 そんなスローモーションで流れる幻想的な世界の中で、ミケーレは春の終わりの発表に先駆けて、新作ハイジュエリー・コレクションのデザインにも光を当てた。その背景を「金庫に閉じ込めておくのではなく、すべてを生き返らせなければいけない。私はジュエリーに熱い思いを抱いていて、ジュエリーは私たち家族の歴史でもある。ブランド同様に、決して息絶えることはない」と説明する。そして、「ものに対する大きな情熱を持っていることは幸運だよ。他にできる仕事は何もなかっただろうからね」と笑顔を見せた。

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