ファッションという「今」にのみフォーカスする産業を歴史の文脈で捉え直す連載。今回は日本が生んだアメリカ文化を考察する。編集協力:MATHEUS KATAYAMA (W)(この記事はWWDジャパン2021年4月12日&4月26日・5月3日合併号からの抜粋です)
3月下旬に妻と神保町を散策していたときのこと。妻が聖林公司の展開するブランド「ブルーブルー(BLUE BLUE)」の神田店を覗こうと言い、初めて店に足を踏み入れると陳列している商品の中に「ヴァン(VAN)」とのコラボシャツがあった。妻にそそのかされて試着し、その気になって人生で初めて「ヴァン」のロゴが付いた服を購入した。なにせ少年時代の自分はパンク〜ニューウエーブに没入。健全なアメリカン・トラディショナル(通称アメトラ)は、ひねたニューウエーブ小僧には最も嫌悪すべきスタイルだったのだから。自身の変化に自分でも驚くが、アメトラのパーセプション(受容)の変化は、本場アメリカでも起きていることを数年前のNY出張で感じていた。NYの幾多の店で日本発のさまざまなアメトラ関連の商品や本、雑誌などが置かれていたからだ。
「ヴァン」は言わずもがな、日本のアイビー・ルックを代表するブランド。1948年に創業し、78年に一度倒産の憂き目に遭うが再興。「ヴァン」のスタッフは米国の名門私立大学8校=アイビーリーグを訪れ、本場アイビーリーガーを撮影した「TAKE IVY」を65年に発刊。時を経て米スタイルブロガーのマイケル・ウィリアムスが2008年にその本をブログに掲載すると大反響が起き、10年にアメリカ版が出版されると5万部を売るヒットとなった。またジャーナリストのデヴィッド・マークスによる「AMETORA 日本がアメリカンスタイルを救った物語」は15年にアメリカ版、17年に日本版が出版され、これも多くのメディアで紹介された。アメトラが本場アメリカ以上に日本でブームになり、それが時間を経て日本産アメトラがアメリカで高い評価を受け、その評価が日本に逆輸入されている1回半ひねり状態が今だ。
これに近い現象は、日本のポップスにも起きている。「シティ・ポップ」と呼ばれる1970〜80年代の山下達郎、大瀧詠一、吉田美奈子、大貫妙子など洋楽志向の日本の音楽が、インターネットを介して欧米の若い世代の間で高い人気を博しているのだ。私は海外を旅すると必ずその街のレコード屋を巡るのだが、ここ数年どの街でも上記のアーティストのアナログ盤は店の目立つところにディスプレーされ、高額で売買されている。
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