ファッション

サステナビリティ・ディレクター就任にあたり 潮目は完全に変わった。動き出そう

 「WWDJAPAN」は4月1日付で、紙とウェブの編集部をひとつに統合し、村上要が編集長に、私が編集統括兼サステナビリティ・ディレクターに就任した。パワーアップする私たちにご期待いただきたい。そしてこれを機に「WWDJAPAN」にとってのサステナビリティとは?について改めてお伝えしたい。(この記事はWWDジャパン2021年4月26日・5月3日合併号からの抜粋です)

 「WWDJAPAN」にとってのサステナビリティとは、「ファッションとビューティのビジネスが提供する“豊かさ”の根幹となるもの」だ。“付加価値”や“ガイドライン”ましてや“ルール”ではなく、ビジネスの根幹であり大前提と考える。「豊かさ」を他の言葉に置き換えると、美しさ、自由、個性、ウェルネス、楽しい暮らし、受け継ぐ伝統、夢を叶えるなど事業の数だけ見つかる。その全ての根底にこれからはサステナビリティの考えがあってほしいし、あるべきだと考える。

 正直言って私自身、数年前まで服の廃棄と環境負荷を結びつけてすらいなかった。メーカー勤務時代の1990年代には季末のセール会場に立ち“入れれば売れる”祭りに興奮し、2000年代には編集者としてトレンドを探して飛行機と車で動き回った。自分で選んだ過去を否定はしたくない。だが同時に5年ほど前、パリコレ会場を出た後にふと空しくなった日を思い出す。「なぜこんなに忙しくしているの?」と自問したが、答えはなかった。ビジネスになりすぎたファッションの中で、豊かさの意味を見失っていたと思う。

 この数年、一足先にサステナビリティを学び実践する同僚や取材先のおかげでたくさんの気づきを得ることができた。特にコロナ下で立ち止まることができたこの1年は業界外の人や声を上げる若い人たちから多くを学んだ。自分がいかに無知か、その無知がいかに自然や動物、人を傷つけ、これからを生きる人たちに負担を強いているかを改めて知った。気候変動は深刻化し、言い訳をする時間はないことも知ってしまった。

 業界は今少し自信を失っており、大胆な再設計が必要になっている。でもサステナビリティを前提とすることで、その魅力はもう一度肯定することができると今は心から思う。サステナビリティは科学や農業、政治、投資などとも深い関係がある。今まで聞いたことがない言葉にぶつかり戸惑うが、だからこそ視点を変えることができる。ライバル企業も情報をシェアしてくれる。例えば認証制度は一足先に冒険を始めた人たちが残した道標みたいなものだ。

 立候補して会社に作ってもらったサステナビリティ・ディレクターという新しい仕事は大きく2つ。ひとつは自分自身学び続けネットワークを広げ、それを発信することで業界に還元し共有の環と波をつくること。もうひとつは、コンテンツ制作の際に「それはファッション・ビューティの未来のためになるのか?」を問い続けることだ。「WWDJAPAN」にとってのサステナビリティの対象は地球と人。自然だけでなく働く人、関わる人の環境が持続可能でなければ意味がない。

 今春、潮目が大きく変わったと思う。3月に開催された「ファッションワールド」の展示会場で痛感した。サステナビリティ関連のゾーンは大盛況だった。盛り上がりのきっかけは恐らく、菅義偉首相が昨年、所信表明で「2050年までに脱炭素社会」を宣言したこと。これで企業が一気に動き出した。中にはブームに乗っているだけの会社もあるが、表層的な姿勢は透けて見えるものだ。にぎわっているブースでは担当者が自分の言葉で新しい価値観、革新的な技術などを夢中で語って熱気にあふれていた。

 サステナビリティの話はグリーンウォッシュか否か、となりがちだ。でもこれはテストじゃない。早い者勝ちでもない。先駆者だって答えを手探りだ。だから関わると決めた人は知らないことは学び、考え、自分なりの答えを出し白地図にフラッグを立てるしかない。特にトップのビジョンが問われる。きっかけは「投資が受けられなくなる」とか「若い人から支持を得られなくなる」といったネガティブ要素の排除かもしれない。それでもいいと思う。重要なのはその先に自分・自社の言葉で何を語るかだ。

 50歳の私がこのメッセージを一番届けたいのは自分と同世代、企業で意思決定権がある40代、50代だ。特に男性に伝えたい。男女で区別するのはナンセンスだけど、多くの統計結果が「サステナビリティに関心が高いのは若い世代と女性。低いのは40、50代の男性」と示している。両業界とも経営層は圧倒的に男性が多い。企業と社会を動かす影響力ある立場の人たちがサステナビリティにどう取り組むのかがこの業界の未来を左右する。だから大人の皆さん、とにかく立ち上がろうじゃないか。ファッションやビューティのビジネスが人に夢や生きる力を伝え続けられるのか、その逆か。私たちが地球を救うヒーローの一人になるのか、その逆か。時間はもう本当にわずかしかない。

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