セレクトショップ最大手のユナイテッドアローズ(UA)の新社長に4月1日付けで、松崎善則副社長が昇格した。47歳。松崎新社長は、1997年に同社の販売員のアルバイトとしてキャリアをスタートさせた現場叩き上げの人物だ。翌年正社員に登用され、販売員から店長職、販売部での販売戦略や店舗営業などを担当。その後、BY(ビューティ アンド ユース ユナイテッドアローズ)本部本部長、執行役員、上席執行役員、常務執行役員 第一事業本部本部長などを経て、「グループの成長に貢献してきた」という。2020年11月に副社長に就任したもつかの間、わずか4カ月でトップ就任となった。「店頭が一番輝いているべき」と言う創業者・重松理名誉会長の言葉をどう引き継ぐのか。松崎社長のキャリアや人となりを知り、これからのユナイテッドアローズを占う。
WWD:なぜUAで働こうと思った?
松崎善則社長執行役員 CEO(以下、松崎):前職はホテルマンだった。わかりにくい仕事はしたくなかったので、直接的なサービスの対価をもらいたいと思ったからだ。しかし若さもあり、3年ほどで飽きてしまった。このまま続けるのもやぶさかではなかったが、他の仕事もしてみたいという欲が出てきた。服が好きだったので、服を扱いながらレベルの高い接客の仕事はないか?と探したが、当時、地元の埼玉にあったお店は店員が怖いというか、服を知っていなければ入りづらい、そういう雰囲気の店ばかりだった。そんなときに、明治通りにあったUA渋谷店で接客を受け、それまで知っていた洋服屋と接客レベルの違いを感じた。しばらくしてホテルマンを本当に辞めようと思ったタイミングで、たまたまアルバイト募集があり、UAで働き始めた。
WWD:そのとき受けた接客の違いはなんだった?
松崎:所作。言葉使いから歩き方や身のこなし、商品の触り方まで、洗練されていた。
WWD:働き始めてどうだった?
松崎:楽しい一面、仕事だから当然厳しい。先輩方は服に情熱を持っているので、接客が終わるごとに指導されていた。当時は店頭になかなか立てず、最初はバックルームでストックの整理や商品の移動など、そういったことを1日中やっていた。そこで自分で楽しくなる方法を考え、こうすればより商品が探しやすくなるなとか、色もグラデーションに配置した方が綺麗だなとか、工夫を始めた。
WWD:転機は?
松崎:当時、「サイト(CYT)」という新業態のコンセプトショップが渋谷にでき、その店に配属された最初のメンバーだった。その店はゆくゆく潰れてしまうのだけど、閉店に向けて毎月スタッフが他店に異動し、減っていくのを間近で見た。いい店だなとは思っていたし、少なからずお客さまも付いていたのに、売れなければ話にならない。いくらかっこいい店でも商売にならなければこうなるんだと。そこで自己満的なかっこよさとかそういう考えが排除された。25歳の頃だ。分かってはいたが、現実を見るとショックだった。
WWD:それ以降、働き方は変わったのか?
松崎:それが原体験にあり、その後横浜の店に異動になった。そこはターミナルのいい立地にあって、「サイト」とは反対にめちゃめちゃ売れていた。スタッフも60人ぐらいいたと思う。売れることがすごく楽しく、そのとき、より多くのお客さまに満足していただきたいという気持ちが芽生えた。
WWD:どういう店がいい店?
松崎:最初の話に戻るが、スタッフの雰囲気が一番大事だ。店に入って潜在的に感じる心地良さや感じの悪さ、整い過ぎていても緊張感を与えてしまう。売れていないとスタッフはお客さまに余計にアプローチをしてしまったり、お客さまの取り合いにもなる。スタッフが生き生きと働いている店が一番いい店。
WWD:店長になったのはいつ?
松崎:「サイト」が閉店した跡にUA渋谷公園通り店ができ、27歳のときに店長としてその店に立った。
WWD:店長になってどのようなことに取り組んだ?
松崎:多階層だったり店の面積が広いと1日話さなかったり、会わなかったりするスタッフが増える。全員と絶対に話すと決めないと話さないので、絶対に話すと決めて、いなければ探して声を掛けていた。だから自分でルールを20個作った。朝出勤したら全員の目を見て挨拶するとか、売り場のゴミを1日20個拾うとか、小さいことでいい。率先しないとスタッフに言えないし、「店長がやっていないじゃないか」と思われると、店長とメンバーとの間に溝ができる。でも毎日全部はクリアできない。できて10個とか……。それを1カ月間で振り返るようにして、奇跡的に全部できるようになったらまた新しい目標を作る。それでスタッフと対等に会話できるようになった。あとは、エラーがないとメンバーも働きづらい。例えば、毎朝店長が一番早く来るとそれより早く来るスタッフが現れる。そうなるとその目標を項目から外していた。それが業績につながるかは分からないけど、同じ勤務をするなら楽しい方がいいし、その方がお客さまにも楽しい雰囲気が伝わる。
WWD:店頭から本部に異動になって取り組んだことは?
松崎:当時は本部が何をやっているか分からなかった。店頭にいたときは本部に対しての不満もあったが、本部に入ると事情も分かってくる。だから最初は店に事情を説明して理解してもらっていた。だけどそれではダメなので、またチェックリストを復活させた。週のどこかはお店に行くとか何時に電話するとかを決めて、店頭の声を本部に伝えた。店の声に応えれば業績は上がる。ただ声が多いので、どれが太い情報でどれが一部の情報かの見極めが難しい。だからそれは自分の経験で決めていた。
WWD:自分をどういうタイプのリーダーだと分析している?
松崎:リーダーらしくない。なるべくフラットでいたいし、対等な関係でいたいと思っているけど、キャリアや年齢でそうもいかないので、兄貴的な感じでいられればいいなと。カリスマ性や威厳、強いリーダーシップとかそういうのではないと思う。
WWD:社長としてのミッションは何か?
松崎:当社の理念は「真心と美意識をこめてお客さまの明日を創り、生活文化のスタンダートを創造し続ける」こと。“真心”や“美意識”の解釈を全員がそろえるのは難しいが、それが薄まるとユナイテッドアローズでは無くなってしまう。その理念が求心力になっているので、理念を具体化することが使命だ。抽象的な表現だが、それに尽きる。ディテールの部分では、時代が変わる中でどういう商品やサービスが求められるのか。これからの検討にはなるが、アパレル領域以外のあらゆる領域に可能性を広げていかなければならないと思っている。
WWD:セレクトショップはこれからどこに向かうべきか?
松崎:セレクトショップは、百貨店よりも気軽に買い物ができるという点で、ある意味、百貨店のお客さまを奪いながら発展してきた。だけど、今は二次流通にお客さまを奪われている方だ。このままでは衰退するしかない。だったら今奪われているところと同じ領域に入り、UAで二次流通をやってみることも一つ考えられる。
WWD:10年後のユナイテッドアローズはどうなっている?
松崎:予想は面白くないのでしないようにしている。ただ、こうしようという意思で動くとするなら、服以外でもお客さまの生活を豊かにする会社になっていたい。UAに関わる何かでお客さまの生活が豊かになっていれば本望。