サステナビリティ

気候危機への平和的な訴えに600人が“共鳴” デプトのエリと小野りりあんがハンガーストライキに挑んだ理由

 デプトカンパニー代表のエリ(eri)とモデルで気候アクティビストの小野りりあんはこのほど、気候危機への対応を求める「ピースフル クライメイト ストライキ(Peaceful Climate Strike以下、PCS)」をオンラインで実施した。

「PCS」は日本政府に対して、温室効果ガス削減目標(NDC)を60%以上に引き上げることや、脱原発・脱炭素社会に向けた対策を求める活動だ。4月17日からの1週間、著名人やアーティスト、専門家を招いた気候危機に関するトークショーや音楽ライブなどのコンテンツをオンラインで発信し、20日からの4日間は水と塩のみを口にするハンガーストライキに挑んだ。最終日には約600人が彼女たちに“共鳴”し、24時間のハンガーストライキを実施した。大きなムーブメントを起こした2人に「PCS」にかけた思いを聞いた。

WWD:「PCS」を終えて約1週間が経ちました。体調は?

エリ:ハンスト中は吐き気や筋肉痛などの低血糖の症状が出ましたが、精神的には元気でした。現在体調は問題ないですが、食欲がまだ戻っていません。

小野:私はだいぶ回復しています。ハンスト中は本当に辛くて、体力的にもギリギリの状態でしたが、とても良い時間でした。

WWD:前回りりあんさんを取材したのは2年前、飛行機を使わずに世界の活動家に会う旅をしていた時でした。帰国後はアクティビストとしての注目度がかなり高まった印象です。

小野:2020年の2月に帰国してからはとにかく目の前のことに精一杯でしたが、これまでの活動の積み重ねでエリと「PCS」を実行できました。やっと今、大きな変化を生み出せている実感があります。

2人の女性が平和的に強く訴えることに意味がある

WWD:そもそも2人の出会いは?

エリ:りりあんとは15年程ほど前に一緒に仕事をしたことがありました。私もIPCC(気候変動変動に関する政府間パネル)の「1.5℃特別報告書」を読んだことがきっかけで声を挙げる活動に取り組むようになり、彼女のアクションに賛同したり、参加したりするようになって再会したんです。

WWD:2人はこれまでもSNSやイベントなどさまざまな発信を積極的に続けていました。今回なぜ、体に負担がかかるハンガーストライキを選択したのですか?

小野:NGO団体の350.orgが気候変動解決に向けた運動をまとめた「クライメート・レジスタンス・ハンドブック」を参考にしました。そこには社会を動かすためには、ハッシュタグや署名などと同時に、みんなが真似できないような切実さが伝わるものも実践することでパワーが大きくなると書かれていました。これまで気候ムーブメントの中でハンガーストライキを実践した人はいませんでしたが、日本が意思決定をする大事なタイミングの今だからこそ挑戦する価値があると思ったんです。

エリ:気候危機の問題は本当に時間がありません。現実と社会が取り組むスピードの遅さに、今の発信だけでは足りない、ほかに何ができるだろうかと悩んでいました。そんな時にりりあんからの誘いがあり、挑戦したいと思えました。ハンガーストライキは男性が実践する印象があるので、女性2人が平和的に、かつ強く抗議することにも意味があるんです。

WWD:どんな反響がありましたか?

エリ:企画してから約3週間で、40人近いサポートメンバーがボランティアで集まってくれたことに驚き、これこそ市民運動だと感じました。最終日には24時間限定の「共鳴のハンガーストライキ」を実施し、約600人が参加してくれました。これだけの人々が苦痛を伴うアクションに参加し、共に意思を表明してくれたことは大きな収穫でした。前半は、水原希子さんや二階堂ふみさん、コムアイさんらに出演してもらい、普段リーチできないような多くの人にこの問題を知ってもらうことができました。

WWD:出演者もコンテンツも、従来の気候ムーブメントとは違ったクリエイティビティーを感じました。

エリ:私たちはそれぞれアプローチの仕方が違うので、今回はそれがパズルのようにうまくマッチしたと思います。ファッションがベースの私のスキルを使って、従来の気候アクションとは違う見せ方をする手伝いができました。今後も変化を加速させるためには、さまざまなアクションが同時多発的に起こることが理想です。

小野:私はこれまで活動家の子たちと一緒に動いてきましたが、コロナで一体感がなくなってしまったと感じていました。でも今回をきっかけに再び点と点が強くつながれたのではないでしょうか。自宅で24時間行うハンガーストライキというアプローチによって、気候危機に対して強い思いを持つ多くの人たちを巻き込むことができました。本来は国会の前で実施して、大きな渦を起こすことが理想でしたが、期間中は毎日たくさんのリポストやハッシュタグの投稿があり、人々のつながりを可視化できたことはオンラインならではのメリットでした。

WWD:一方で、日本政府は22日の気候サミットでNDCを2030年比で46%減とし、「PCS」が目指していた60%以上の引き上げには至りませんでした。

小野:若い子たちが命がけで戦ってきて、たくさん泣いているのも見てきました。私自身この子たちの未来を守るのに不十分だったなと悔しい思いでいっぱいでした。一方で、今回の「PCS」を通して多くの人が声を挙げるスタートラインに立ってくれました。NDCは何度でも再提出できるので、ここからだという気持ちです。

エリ:気候危機を語るには科学的根拠が大切です。私たちは国際環境シンクタンクNGO「クライメート・アクション・トラッカー」のデータに基づいて、「産業革命以降の気温上昇を2度未満に抑えるためにはNDCを60%以上に引き上げることが必要」と訴えてきました。46%減は、国民の生活を守れる数値だとは到底思えない。もちろん決定権のある層に訴えることは大切ですが、小泉環境大臣と話をしたときに「国民からのプレッシャーが足りない」という意見も聞きました。国民がNDCを理解し、話題にしていくこと、未来を作っていく意思をちゃんと持つことが今後の課題です。

ファッション業界に求められる変化 何を作るかではなく、どう作るか

WWD:「PCS」が18日にユーチューブで配信していた「ファッションと気候変動」の回は衝撃でした。世界の温室効果ガス排出量に占めるファッション業界からの排出は、飛行機や船などの移動手動の排出量よりも多く、30年までに30%増えるという推計などの数値に驚きました。

小野:ぜひ業界の人に見てほしい。そして知るプロセスを、仲間と一緒に共有してほしいです。誰かと一緒に知ることで対話が生まれ、アイデアが実現できると思うから。

エリ:人間は創造することを許された動物で、創造をやめるべきではありません。ただ、ゼロからイチを生み出すだけがモノ作りではなく、既存の物を新しく生まれ変わらせたり、循環させることもモノ作りなのです。今まではどんなものにニーズがあるのか、どうしたら安くたくさん売れるのかといった目標のためにプロセスを構築していました。しかしこれからは、何を作るかではなく、どう作るかを先に考えることが大切です。むしろそうではないともうファッションは成り立ちません。ファッションに携わる人たちは、環境問題に興味があるないに関わらず、きちんと学ぶことが必須です。

WWD:「PCS」で起こったムーブメントを次にどうつなげますか?

エリ:6月には主要7カ国首脳会議(G7サミット)、11月には「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議」(COP26)が予定されています。都度「PCS」のみんなでアクションを起こしていくつもりです。

小野:今回一歩踏み出してくれた人たちとさらに学なびを深める場を設けるなど、このパワーを継続させるための方法を考えています。政府の人たちとの意見交換会や海外の活動家らとの協働方法も模索していきたいです。

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