ファッション

異色のラン雑誌「走るひと」とは? 編集長に聞くランニングの未来

Desktop上田唯人/「走るひと」編集長
プロフィール:早稲田大学在学中にアップルコンピュータ―、DeNAで新規事業に携わる。卒業後、野村総合研究所で企業再生・マーケティングの戦略コンサルタントとして、ファッション・小売業界を担当。2011年7月、1milegroupを設立。14年5月、雑誌「走るひと」を創刊

雑誌「走るひと」(ワンマイルグループ刊)をランニング誌と思って手に取った人は、“タイムを縮める方法”や“最新ギア指南”の解説が一切ない誌面に驚くだろう。同誌に登場するのは、バンドマンや俳優、アイドル、クリエイター。それも“健康的なラン”からは一見遠そうな人々が多い。「走る必要がないのに走る人に惹かれる」と語る上田唯人「走るひと」編集長が考える「僕らを走らせるひと」と、これからのランのあり方について聞いた。

WWDジャパン(以下、WWD):社長を兼任するワンマイルグループの事業内容と、「走るひと」創刊の経緯は?

上田唯人「走るひと」編集長(以下、上田):主な事業内容はスポーツブランドのブランディングと「走るひと」の発行。以前コンサル関係の仕事をしていたころに、SPA(製造小売業)企業が急激に成長するのを見ていた。その中で、「スポーツウエア業界をSPAのようにできたら面白いし、カッコいいものが作れる」と考え、11年に起業。その後、「ウエアを作った時に、それを着て発信してくれる仲間を作ろう」と思い、走る人たちに会い、彼らの写真を撮ってウェブに掲載していたら、枻出版の「ランニングスタイル」から声が掛かった。12年に同誌内で特集を作り、14年にムックとして創刊。3号目から自社発行している。

WWD:ランニング誌としては異色の存在だが?

上田:「僕らを走らせるひと」をテーマに、「走る必要がないのに走っている人と、その人の感情」を取り上げている。この約10年でのマラソン大会やイベントが増え、メディアも「美ジョガー」などの言葉でランを取り上げたが、それは自分の周りの実態とあまりに遠く、自分たちの目線で見える走る人を紹介したいと考えた。日本のスポーツシーンが他のカルチャーと解離していることや、スポーツに付随するマッチョイズムなイメージを変えたいという思いもある。

WWD:人選の基準は?

上田:自分のスタンスと、自身の言葉を持っていること。実際に走りながら取材することも多い。走っている間に打ち解けて、自然な言葉が出てくるためだ。また「走るひと」は、必ずしも「ランニングをするひと」ではない。チンポムのエリイさんがSNSのプロフィールに「本を読むのとのぼりぼうとおよぐのと走るのと料理が大得意」と書いていたのを見て、彼女とランニングは結び付かないが、街を駆け抜ける姿は浮かんで、取材した。

WWD:写真の撮り方も印象的だ。

上田:フィルムだけでなく、インスタントカメラで撮影したものも多い。従来のスポーツ業界が打ち出してきたマッチョイズム的な美しさへのアンチテーゼだ。

WWD:ランニングムーブメントは今後どうなると考えるか?

上田:大会も増えているが、今後は差別化とブランディングが重要だ。今度キーワードになるのは「若者」と、「インバウンド」だろう。現在の大会の参加者は中高年が多く、若者を取り込むための施策は手薄だ。また、日本でのインバウンド消費を支える台湾や中国、韓国国内でも、若い人の間でランニングが盛り上がりだしている。彼らの感性に訴えられて、日本や地方独自の体験を提供できるような大会があれば、来日する理由の一つになりえるのではないか。また、音楽や食とコラボしたイベントも開催されているが、ただのごちゃまぜ的なものも多く、どれだけが継続的に開催できるかは疑問だ。大会も、報道も、文脈があることが前提。難しいことだが、それが大切だと思っている。

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