緊急事態宣言の延長で東京都と大阪府が商業施設への休業要請を継続したことを受けて、百貨店が窮地に立っている。休業が5月末まで長期化すれば、売り上げが激減して百貨店の経営だけでなく、ファッションブランドなど取引先の存続や雇用への影響が深刻さを増す。人流の抑制には理解を示しながらも、小売業の中で百貨店とショッピングセンター(SC)だけをスケープゴートにする政府や自治体のコロナ対策に不信感を募らせる。
「死活問題なのに、あまりに場当たり的すぎる」。
百貨店関係者は政府や都への憤りを隠さない。「短期集中」の触れ込みだったため、犠牲を払って4月25日から5月11日の休業要請に応じたものの、結局5月末まで延期になった。人流抑制のエビデンス(証拠)や宣言解除の目安となる数値さえ示さず、百貨店やSCに休業要請を繰り返すやり方に振り回された。
6日の時点では、緊急事態宣言が延長されても政府は休業要請を解除すると報道されていた。大手百貨店もそれを見越した動きをとった。高島屋は日本橋や玉川(二子玉川)の専門店街についてはアパレルも含めて全体の約8割の営業を6日から再開した。他の百貨店も水面下で営業再開の準備を進めていた。日本百貨店協会や日本ショッピングセンター協会も同日、休業要請の対象から除外することを求める要望書を出して、政府や都府県を牽制した。
7日午後に事態は急変する。菅義偉首相は7日夜の会見で、百貨店やSCに対して休業要請を取りやめると発表した。しかし東京都と大阪府の両知事は、感染拡大の危機が収まっていないとして休業要請の延期を打ち出した。この場合、政府よりも店舗が立地する自治体の決定が優先される。百貨店とSCは再び3週間の休業を余儀なくされることになった。
昨年4月から5月にかけての臨時休業との違いは、百貨店とSCだけが休業を強いられている点だ。銀座や新宿などの繁華街では、百貨店とSCの休業を尻目に、カジュアルSPA(製造小売り)やラグジュアリーブランドの大型店、セレクトショップ、家電量販店、雑貨店などが時短営業を続けている。当然ながら客足は営業中の店舗に流れる。昨年来、百貨店とSCはネット通販(EC)を強化しているが、効果は一部にとどまる。百貨店とSCだけでなく、取引先やテナントの不満も鬱積していった。前述の百貨店関係者は「もちろん自治体の求めには最大限協力する。でも、なぜ百貨店とSCだけが対象になるのか。(現在までの休業期間の)人流に関するデータなどを示して説明するのがスジだろう」とその場しのぎの対策を批判する。
別の百貨店の関係者は「きのう(7日)の昼までは営業再開に向けた調整をしていたのに、ゼロベースで考え直すことになった。各担当者が週末返上で交渉に駆け回っている」ともらす。三越伊勢丹ホールディングスは休業要請のガイドラインにある「生活必需品は除外」に関して、食品と化粧品以外にも広げられないか検討に入った。